第二部 第2章―4
翌日から、さっそくハルヒコは仕事に取りかかった。とはいえ、まずはやはり学院内をくまなく見て回ることだろう。
午前中、マルロは講義があるため、昼食時からハルヒコに合流してくれることになっている。ならば、その魔法学院の講義とはどんなものなのか、実際に聞いてみない手はない。ハルヒコは、教壇で教師がはり上げているだろう声を探し求め、館内をぐるぐるとさまよい歩いた。
学院の敷地には、いくつかの建物が点在している。講義や研究がなされている学院の要とも呼ぶべき棟が、今ハルヒコのいるこの本館だ。昨日、訪れた学長室もここにある。三階建てで無数の教室が連なり、巨大な図書館とニ百人からの人間を一度に収容できるホール兼食堂が、運動会を開けるほどの広大な中庭をとり囲んでいる。だが、そんな巨大な本館棟であっても、マギアの全敷地の五分の一を占めるにすぎない。残りの建物は学生達の寮、教師らの宿舎――単身者用と家族用のものが用意されている――そして、使用人たちの住まいと馬車馬のための厩舎などであった。
とはいえ、それらすべてを合わせてみても、本館棟の規模には到底およばない。残りの敷地は――かつては美しい庭園や森だったのだろう――雑草が鬱蒼と生い茂る、誰も手入れをしない荒れ放題の土地が視界のほぼすべてを埋めるように広がっていた。
「それゆえ、この魔法体系は……」
かすかに何処からか、そんな説明をしている声がハルヒコの耳に届く。ハルヒコはその声をたどり、なんとか講義中の教室にたどり着くことができた。だが、ドアにはガラスがはめられておらず、また廊下側に窓もなく、中の様子をうかがい知ることができない。
――どんな講義をしているんだろう?
それに学生達が勉強している様子も見てみたいところだ。
ザイン学長は、学内であれば好きなとき好きな場所に行ってもらってかまわないと、ハルヒコに免罪符を与えてくれた。だが、そんな強権をほいほいと行使するわけにはいかない。権利は、それがあるからといって何でもお構いなく主張できるのではない。それを使う側の人間の内面が試されているのだ。
――約束もせず、突然、教室に入って講義を見学するのは、あまりに不躾だよな……。
先生も学生もいい気分ではいられないはずだ。
今日の午後、正式に先生方や学生達に紹介してもらえる手筈になっている。ならば、今は聴講をひかえておく方が無難だろう。こんなことで、最初から人間関係を悪くさせる必要はない。
ハルヒコは気持ち音を立てないように講義室から離れていった。
――それじゃあ、次はどこに行くかな……。
そう頭の中で言葉にしてみたものの、すでに次に訪れるべき場所をハルヒコは無意識に決めていた。先日、ざっくりと見て回った様々な場所の中でも、もっとも気がかりで忘れることのできない光景――早急に対処しなければならない問題を多分に内包した部屋――ハルヒコが次に足を運んだのはマギアの大図書館であった。




