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異世界家族 パパと僕、ときどき、ママ、わたし  作者: 芝大樹
第二部「魔法使い、ガイコツと踊る」
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第二部 第2章―2

「ちょっと屋上の野菜に水をあげてくるよ。その後で、水汲みにいこうな」

 シュウとカナが分かったという顔をして、また手元の本に目を落としたり、木で掘ったおもちゃで遊びだしたりした。

 ハルヒコは食堂兼リビングのその部屋から、直接下へと続く階段を下りていく。そこはレンガ造りの半地下になっており、部屋の上方に設けられた窓からは、夕刻まぎわのやわらかな光が部屋全体をうっすらと照らし出していた。

 窓がある側の壁には、かまどや流しなどの炊事場がつくり付けられている。その横に大きな水瓶が二つ置かれており、ハルヒコはそのうちの一つから木製のバケツに水を移していった。

 どちらの水瓶にもアクリアの葉が浸されている。左側の方には汲んできてばかりの水を入れ、右側の炊事場に近い方には、時間が経った古い水を入れ替えていっている。汲んできたばかりの新鮮な水はもちろん飲料や料理に利用し、時間の経った水は食器を洗ったり衣類を洗濯したりと使い分けていたのだ。

 さらに、この半地下の部屋には下水が通っている。それは言ってみれば、地面深くに掘られた単純な溝のようなものであったが、丘陵に築かれたバラディンの町の傾斜を活かし、この半地下の部屋から直接排水を流すことができた。

 もちろん、トイレも備わっている。ただ、常にその下水に水が流れているわけではなく、家庭から出る排水や、雨天時に流れ込んだ雨水によって、下水道にたまったゴミや排泄物を城壁外のアグラ川まで押し流すことになる。下水につながる排水口は、利用していないときなどはフタをしているのだが、それでも若干の異臭が――気持ちの問題かもしれないが――ハルヒコたち家族には感じられてしまうのだ。

 ほとんどの家庭は、この半地下の部屋にテーブルを置いて食事をとっている。それは、そこにかまどや流しといった設備があることからも当然のことのように思われた。だが、ハルヒコらは先にあげたような理由で、テーブルは一階に置き、食事もそこでとっていたし、家族の団らんもやはりそこで過ごすことが多かったのである。

 半地下の部屋は炊事と洗濯、そして風呂とトイレといった水回りの用途に限定して利用されていた。風呂といっても、木桶一杯のお湯を沸かし、それで全身を拭うぐらいのものではあったが。

 ハルヒコがバケツに水を満たし終えた頃、シュウとカナが下りてきた。

「手伝うよ」

「わたしも手伝う」

 きっと早く外に出たいのだろう。ハルヒコはもう一つバケツに水を入れ、それをシュウに手渡した。

 三人は寝室にしている二階から屋外のベランダに出て、その端からのびた階段で屋上に上がっていった。屋上は屋根の上に木製のデッキが載っかっているような構造で、一部屋分ぐらいのスペースがあった。

 元の世界なら、家にこんな屋上があれば、きっと一度は家族でバーベキューでもしたことだろう。今は大小さまざまの木製プランターを並べ、村で栽培していたときとほぼ同じ種類の野菜を育てているところであった。だが、まだまだ収穫にはいたっていない。

 ――別に野菜をつくる必要なんてないんだけどな……。

 町の市場まではそれほど離れていないし、食べることに不自由するほど――いや、むしろ贅沢な食事をとったとしても――金銭的にも困ることはないだろう。手に入れようと思えば、すぐに野菜を買いにいける境遇なのだ。それでも、トマトの実が赤く熟していく様や、白や黄色い花がしおれたあとにピーマンやきゅうりが育っていく様子を日々眺めるのは楽しかった。

 村で過ごした時間によって、ハルヒコだけでなく家族にまで、自然の恵みをえる喜びが体に染みつけられていたのであった。

 ――また、小さな畑でもいいから作物を育てていけたらいいな……。

 だが、はたして、そんな土地がどこかにあるのだろうか――。

 そう考えたとき、ハルヒコの脳裏にある場所が思い浮かぶ。

 ――ああ、そうか……。

 それも悪くはないかもしれないな――。

 質量を増していく今日という日の、にび色の気持ちが、少しばかり軽くなったような気がした。


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