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異世界家族 パパと僕、ときどき、ママ、わたし  作者: 芝大樹
第二部「魔法使い、ガイコツと踊る」
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第二部 第2章―1

「ただいまー」

 その家はゆるい坂道の途中、大通りに面して建っていた。坂を上る側に小さな階段のついた玄関が、下った側のスペースには半地下の換気や採光のための小さな窓が設けられている。

「おかえりなさい。お仕事、どうだった?」

「いや……なかなか大変そうな感じだったよ……」

 ダイニングテーブルやベンチでくつろぐトウコと子ども達の姿が目に飛びこんでくる。玄関を入ってすぐの部屋は、食堂兼リビングになっていた。

 ハルヒコはテーブルに置かれた陶製の水差しからコップに水を注ぎ、それを一気に飲み干した。ほのかな芳香が鼻腔に広がる。水差しの水には殺菌作用のあるアクリアの葉が浸されていた。ルアンの村で暮らしていたときと同じだ。ただひとつ違っていたのは、そのアクリアを市場で購入しなくてはいけなかったこと。村では清流近くに採りつくせないほど自生していたものだったが――。

「あとで水汲みにいってくるよ」

 ハルヒコがそう言うやいなや「わたしも行く」「僕もいくよ」とカナとシュウが声をあげた。

 村でもそうであったが、水は外に汲みにいかなければならない。ハルヒコの家では、朝と夕、町の公共の井戸に水を汲みにいくのが日課となっていた。

 ハルヒコはうんうんと子ども達に軽く目配せすると、イスに腰かけ、自分の目で確かめてきたマギア魔法学院の現状を――その多くは難題ばかりだ――家族に説明していった。

「まあ、本当にいろいろとあったんだよ……」

「パパさん、ため息ばかりだね」

 シュウに指摘されるまで、ハルヒコは自分が何度も嘆息をもらしていることに気づかなかった。

「大変そうね」

「そうなんだよ……。でも、村のときと同じで、少しわくわくもしてるんだ。また、いろんな人と出会えて、協力して、マギアを盛り上げていけたらいいなって思う」

 さっそく、感じのいい青年とも出会えたしねと、ハルヒコは付け加えた。

「ねえ、パパ。そこには広いお庭とかある?」

 カナが尋ねてきた。

「あるよ。庭なんてレベルじゃないな。村が一つは収まるんじゃないかな。雑草だらけだけどね」

「わたしも行ってみたい」

 カナがそう懇願するにはわけがあった。バラディンの町で暮らすようになったものの、ハルヒコ達親子はまだ、この町のことを隅から隅まで把握できたわけではない。公園はあるのだが、はたして子ども達だけで遊んでいて安全なのか――治安のほどを測りかねているところなのだ。近所付き合いも生まれたものの、その家庭に子どもはおらず、今もってシュウとカナは新しい友達をつくれないでいる。だから必然と家の中に閉じこもる形となり、ハルヒコやトウコについて買い物や水汲みで外に出かけることは、彼らにとって何よりの楽しみとなっていたのだ。

 水汲み場は公園になっており、そこでシュウ達は存分に走り回ることができる。だが、その公園に他の子ども達が遊ぶ姿はなく、そんな光景もハルヒコの不安をかき立てる一要素になっていた。

「パパさんのお仕事が軌道にのったら一緒に行こうな。いっぱい走り回れるし、かくれんぼなんてしようものなら、一日中探しても見つからないんじゃないかな」

 そんな冗談を口にしながら、ふと微かな不安がよぎる。

 ――いや、一日ではすまないかもしれない……。

 下手をすれば、一生見つからないこともありえる――。

 それほどマギアは広大で、深遠な予感をその長い歴史とこれからの未来に秘めているのだ。

「学校だったら、本はたくさんあるの?」

 シュウが聞いてくる。バラディンの市場で買い求めた何冊かの本を読みつくし、さらにそれらを何度もしつこく目を通してきた少年であったが――よほど聞き分けのいい少年であっても――そろそろ、こんな生活は限界に近づいてきているようだった。

「そりゃあもう、数えきれないくらい積み上げられてるよ。積み上げられすぎて、どこに何の本があるのか分からないくらいだ」

 つまりは分類・整理がなされていないのだ――。

「わたしも読みたい」

 カナもすかさず期待をふくらませる。

「探せば、絵本あるのかな……」

「えー、読みたい読みたい」

「頑張って探してみるよ」

 どのみち、あのあふれ返った書物の山を片付けなければならない。

 ――司書の仕事って、どんな感じでやってるんだろうな?

 元の世界で司書の勉強もしておけばよかったなと、ハルヒコはまた欲張りにも無為に通り過ぎてしまった時間をひとり悔やむのだった。


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