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異世界家族 パパと僕、ときどき、ママ、わたし  作者: 芝大樹
第二部「魔法使い、ガイコツと踊る」
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第二部 第1章―2

 確かに、それは体裁を整えただけの、うわべの理由であった。

「遠慮せず、本当のわけを話してくれてよいのだぞ。そなたは我が甥の命を救ってくれた恩人だ。恩には恩で報わねばならぬ」

 隠せないなとハルヒコは覚悟した。仕事を求めた本当の理由、というよりは気持ちを口にする。

「これは私の気持ちの問題なのかもしれませんが……。手に職がないと、どこか落ち着かないのです。いつ何時、何が起こるか分かりません。そのとき、自分に何か仕事が――技術や経験があれば……」

 そこまで話して、ハルヒコは謁見の間を見渡す。概ね、皆の表情に変化は見られない。ハルヒコの言葉に隠された含意に気づかず、特別な感情を抱いている様子はうかがえない。――王と、横に立つサイアスを除いては……。

 バナム王は不敵な笑みをたたえていた。宰相サイアスは顔を青ざめさせていた。

 ――見抜かれたか……。

 なぜハルヒコが、その本当の理由を切り出したくなかったのか。それは、いつ何時、何が起こるか分からない――つまり褒賞をもらえている今の状況が変わることを示唆している。この国にもし大事が起こったならと――そのような事態も起きうるのだと――暗に仄めかしているのだ。

 ――やはり、これはまずかったな……。

 バナム王は微笑んだままだ。そして、ゆっくりとした動作で、傍らに立つサイアスの顔をうかがい、口を開いた。

「殊勝な心がけではないか。のう、サイアス――」

 渋面のまま、サイアスは「はあ……」とだけ言葉をしぼり出した。

「ときにハルヒコよ。そなたは何ができるのか。ルアンでは、どのような仕事に携わっていたのか」

「はい……。村長として開拓地の運営を任されておりました。それと、宰相マグダル様の公務のお手伝いを――公共の事業の計画や予算のチェックなどをしておりました」

 バナム王は顎髭に手をやり、しばらく考える素振りを見せた。

「ふむ……。ならば、財務大臣よ、この者に何か手伝ってもらえる仕事はないか」

 王にそう振られた瞬間、まるで予期していなかったのか、体面をつくろう余裕もなく、財務大臣は慌てふためいた。その様子は誰の目にも明らかで、ハルヒコでさえ気の毒に思うほどであった。

「いえ……今は優秀な人材を潤沢に抱えておりますし……」

 ――ああ、そういうことか……。

 ハルヒコは瞬時に気がついた。

 自分は望まれていない――どころの話ではない。

 来てもらっては困るのだ――。

 つまり、財務省は素性も分からぬ外部の人間に入り込まれては困る組織なのだ。ハルヒコもルアンで嫌というほど経験してきた。自分達の利権を脅かすような存在には、一致団結し徹底的に排除しようとする圧力がはたらくことを。

「あの……ご迷惑をおかけするようでしたら、そんな無理にとは……」

 ハルヒコが、その言葉を最後まで言いきらないうちに、突如としてサイアスが毅然とした態度で口を開いた。

「財務は国の要。たとえ王族の恩人といえども、一朝一夕にそのような要職に就かせるのはいかがなものかと――」

「そうか……。では、ハルヒコよ。そなたは他に何ができそうか」

 ハルヒコは一瞬ためらった。確かに、自分には他の誰にも容易には真似できない能力がある。だが、それは技術や経験といったもの――要は生業とするもの――とは違うような気がしていた。それに、もし、それを仕事だと言いはるなら、自分の望まぬ、あの惨劇の舞台をこれからも歩んでいくことになるかもしれない……。

 意識せずハルヒコは小声になっていた。

「魔法を少しばかり使えます……」

「おお、そうであったな」

 そのとき、何かを閃いたようにサイアスが王の耳元で囁いた。それはいい、とバナム王は膝を打つ。

「ハルヒコよ、このバラディンに魔法を学ぶ学校があるのは知っておるか」

「はい、マグダル様にお聞きしておりました。私もいつか、そこで学ぶようにと……」

 ハルヒコは言葉につまった。失礼にあたるとは思いつつ、後を続けることができなくなった。

 バナム王は、ハルヒコの気持ちを汲みとるように話を続けた。

「マギア魔法学院という。この大陸でも有数の魔法を学び探究する学校だ。ハルヒコよ、そなたはそこで学び、働いてみたくはないか?」

 僥倖とはこのことだと、ハルヒコは思った。まさに理想的な仕事ではないか。マグダルが勉学に勤しんだ学舎で、自分も魔法を学ぶことができる。魔法をさらに探究することもできる。不思議な巡り合わせで、その場所に辿り着いたような気がした。

「とても、ありがたい申し出です。ですが、私などに……」

 務まるのでしょうか――そう言いかけて、ハルヒコの脳裏にエオラ城の謁見の間での光景が思い出された。

『あまり自分を卑下するものではない。まずはやってみるのだ。自分の精一杯を尽くして、それでもダメなときは、また別のことに挑戦すればよい――』

 クロム王にかけられた言葉が、昨日のことのように耳の奥で再生される。ハルヒコはバナム王の目をまっすぐに見つめた。揺らぐことのないその瞳は、決心した者のそれであった。

「いえ……身に余る処遇、感謝いたします。ぜひ、そのマギアで働かせてはいただけないでしょうか。微力ながら、お役に立てるよう努めてまいります」

 バナム王は満足げに頷いた。

「よくぞ言った。それではハルヒコよ、そなたはこれよりマギアに赴き、理事代表として学院の運営を一手に担うのだ――」

 ――ん……?

 聞き間違えたのかなと、冗談抜きにハルヒコは自分の耳を疑った。おそらく自分の精神を保つための防衛本能が働いたのだろう……。

 ――どうして、こっちの世界の人間は、よくも知らない人間に重責を担わせたがるのか……。

 だが、もはや取り返しはつかない。自分はやると言ってしまったのだ。今さら断るわけにもいかない――それこそ不敬というものではないか。

 ――なあに、何とかなるさ……。

 自分は村長として村を治めてきた経験もある。多くの人達に助けてもらいながらではあったが、逆に能力のある者を活躍させることで村は活気づいていった。

 ――手探りかもしれない……。

 でも、自分ならきっとやっていけるはずさ――。

 ハルヒコは、そう自身を鼓舞する。だが、そのとき、居並ぶ大臣達のほくそ笑む姿が目に入ってきた。

 ――ああ、そういうことか……。

 きっと何かあるんだろうな――。

 胸の奥で期待と不安がないまぜになって、ハルヒコは軽い吐き気を覚えるのだった。


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