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異世界家族 パパと僕、ときどき、ママ、わたし  作者: 芝大樹
第二部「魔法使い、ガイコツと踊る」
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第二部 第1章―1

 ――どうして、こんなことになった……。

 ここはアクラ国首都バラディンの王城、謁見の間であった。整然と居並ぶ大臣らの視線にさらされ、ハルヒコは今、膝をつき王を待っている。

 ――どうして、こんなことになってしまったのか……。

 ハルヒコは、もう一度そう思わずにはいられなかった。いや、すでに数えきれぬほど、同じフレーズが頭の中で繰り返されている。

 役人の一人にでも聞いてもらえたら、それでよかったのに――。

 願いあってハルヒコは王城を訪れた。それが今、こんな状況に追い込まれてしまっている。

 正直なところ、逃げ出したい気分だった。それが許されるならば、の話だが……。王の到着を待たずしてトンズラする――とんだ不敬罪ではないか。英雄から一転、一瞬でお尋ね者へと転げ落ちていくことだろう。ハルヒコはそうやって色々な可能性を思い浮かべながら、蛇ににらまれたカエルの気分を身にしみて、ずいぶんと居心地の悪い時間をひとり過ごしていたのであった。

 と、謁見の間の空気が突如として張りつめる。ハルヒコも、その空気の変化を――冗談抜きに――ひしひしと肌で感じとる。

 アクラ国君主、バナム王の登場であった。彼はその場に並いる人々の視線を一身に集め、悠々と、そして厳かに玉座へと腰を下ろした。

「ハルヒコよ、ここの暮らしにはもう慣れたであろうか。困っていることはないだろうか」

 威厳ある容姿とは裏腹に、柔らかな口調で語りかけられる。

「面をあげよ」

 玉座の隣に立つ、アクラ国宰相サイアスがうながす。

 緊張で「はい」とも「はっ」とも捉えられるような、どっちつかずの声を上げてしてしまい、ハルヒコは気まずそうに顔を上げた。だが、王の姿を見た瞬間、すうっと気持ちが軽くなる。それは自分でも不思議なくらいであった。

 さすがに血を分けた兄弟だ――。

 初めて会ったのは、ハルヒコがまだ動くこともままならない、病床に伏していたときのこと。王族の恩人に感謝の意を直接伝えたいと、バナム王みずからが病室を訪れてきたのだ。二度目はハルヒコの傷が癒え、この謁見の間で褒賞を賜るときのことであった。

 その度にハルヒコは、まるでそこにクロム王がいるかのような錯覚を覚える。今このときも、記憶の中の光景が重なり、ここはエオラ城の謁見の間なのではないかと軽く混乱してしまうほどだ。よく見知った大臣達が居並び、その中央にクロム王が鎮座し……そして、その横には――。

 ――マグダル様……。

 胸の奥に込み上げてくるものがあった。だが、周囲に気取られぬよう、なんとかハルヒコはぐっと堪える。

「大変よくしていただいています。バラディンの町も、まだすべてを回れたわけではありませんが、歴史ある、とても住みやすい町だと感じております」

 ハルヒコの言葉に、その場に居並ぶ大臣達は満足そうに頷いた。

「そうか、それは何よりだ。――して、今日は何用であろうか」

 王の方から話を振ってくれて、正直、助かったと思った。何か願い事をする――そういった要件を切り出すことが、ハルヒコは大の苦手だったのだ。

「実は――」

 ハルヒコが口にした内容に、謁見の間に少なからぬ、どよめきが生じる。

 ――ああ……また、やってしまったか……?

 はたして、自分は王族を前にして、ふたたび常識知らずの言動をとってしまったのだろうか――。

 ハルヒコが願い出たこと。簡単に言ってしまえば、何か仕事はないか、と尋ねたのだ。もちろん、そんな不躾な言い方はしていない。お手伝いすることはないですかと、やんわりと何重にもオブラートに包んで伝えたはずであった。

「今の褒賞では足りぬと申すのか?」

 ハルヒコは、王にそんなふうに誤解されたのかと焦り、直ちに否定した。

「とんでもありません。家族四人が不自由なく幸せに暮らせております。不満を抱くことなど、あるはずがありません」

「では、なぜ仕事を欲するのか?」

 ハルヒコは一瞬、間を置いた。考える時間がほしかったのだ。ここに来るまでに幾度となくシミュレーションを繰り返し、当たり障りのない回答を用意していたはずだ。それなのに、いざその場面に直面すると、迷いが頭をもたげてきてしまう。

 だが、ハルヒコは決断する。用意してきた答えを口に出したのだ。間を開けたとはいえ、それは皆に違和感を感じさせるような長い時間ではなかったはずだ。自分の迷いを気取られる心配はまずないだろう。

「何もせず、お金を頂くことを申し訳なく思っているのです。せめて、いただいた褒賞の分、何かのお役に立てればと……」

 バナム王は品定めをするみたいに、ハルヒコの顔をじっと見つめた。

 ――観察されている……?

 ハルヒコは必死に視線を逸らさぬよう努めた。自分の中にある偽りの気持ちを見抜かれないようにするために。

「うむ……。だが、それは本当の理由ではないのであろう――」

 一瞬でハルヒコの心の内は見透かされてしまう。

 ――敵わないな……。

 本当に、王族と呼ばれる人種の洞察力の前では、ハルヒコの浅慮など、吹けば飛んでいく紙クズのようなものだと、あらためてハルヒコは実感するのであった。


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