第二部 第7章―3
「理事長……お話ししておかなければならないことがあるのですが……」
馬車はもうすでに市街地にさしかかっていた。とはいえ深夜も深夜、もちろん街角に人気などあるはずもなく、ただ街灯だけがさみしく足元を照らしているばかりであった。
まもなくマギアに到着しようかというところだ。不意にマルロが口を開いた。
「後ろの二人のことかい?」
「それもありますが……。その……理事長が図書室の地下で発見されたという魔法についてなのです……」
マルロにしてはやけに歯切れが悪かった。いつもなら躊躇っていると見せかけて、ズバズバと言いたいことを口に出してくるはずなのに。
「魂の魔法のことだよね?」
マルロはこくりと無言でうなずいた。
「珍しい魔法なんだ?」
マルロはまたため息をつきそうになって、それをぐっとこらえた。
「珍しいなんてものじゃありません……。魂を……死者を操る者が何と呼ばれているか、理事長はご存知ないのですか?」
ハルヒコの顔が一瞬ほうけたように表情を失う。頭の中で、自分の知りうる限りの知識をフル回転で探っていたのだ。だが、苦労して構築してきた知のデータベースの検索も虚しく、ハルヒコは首をかしげてしまう。
「死者を操る者……死霊を操る者……。その者はこの世界ではネクロマンサーと呼ばれているのです……」
――ネクロマンサー。
ハルヒコは胸の奥でその言葉を反芻した。
「そのネクロマンサーという存在は、やっぱり珍しいんだ」
「先ほども言いましたが、珍しいなんてものではないのです……」
なかなかマルロは本題を切り出さない。むしろ、それを口にすることを躊躇っているかのようでもあった。
「私が知りうる限り….」
マルロはそこで息を吸いこみなおした。
「歴史上、そう呼ばれた者はたった一人しかいなかったのです……」
そこまで聞いて、さすがのハルヒコも話の先行きに不安を覚えずにはいられなかった。
今まで現在進行形の諸々に関する知識を得ることにかまけ、この世界の歴史を学ぶことをおろそかにしてきた、それは事実だ。だが、予感めいたものは確かにあった。いや、もしかすると無意識に考えないようにしていたのかもしれない。
「それは……誰だろう……?」
ハルヒコはおずおずと尋ねた。
「理事長もよく知っている人物のはずです。魂を操り死者の軍勢で世界を蹂躙した――」
最後まで聞かずとも、ハルヒコは察した、その人物が誰なのかを。
「人々は彼のことをこう呼んでいました。魔族の王――魔王と……」




