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異世界家族 パパと僕、ときどき、ママ、わたし  作者: 芝大樹
第二部「魔法使い、ガイコツと踊る」
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第二部 第7章―2

 はたして、ネーヤは無事、成仏できたのであろうか。最後のワルツを踊り終えると、彼女はありがとうと微笑みながら、その魂は吸い込まれるように空へとかき消えていった。あとには力なく崩れ落ちた骸だけが白くとり残され、まるで私は確かにこの世に生を受け自分の人生を、自分だけの人生をまっとうしたのだと、小さな証左を大地に刻みつけているかのようであった。

 ハルヒコは他の魂達の訴えにも耳を傾けた。少なくない数の魂達がこの世に未練を残しながらも、この丘に絡めとられた精神の呪縛から――それは彼ら自身が自分に課した枷でもある――解放してほしいと願い出てきたのであった。ハルヒコはその願いを……祈りを……かなえた。

「アニモプリージ……」

 魂を浄化する魔法。地下室の秘密の部屋にあった魔導書に記載されていた魂魔法の派生種。浄化という名が使われているが、その実この世から強制的に任意の魂を天へと昇化させる魔法だ。この世に生まれ落ちたときより繋がった魂と大地との絆を無理やり断ち切る。ハルヒコは胸が締めつけられる思いで、その呪文を唱え続けた……。

 その場に残った魂達は、やはり満たされなかった生への未練があるのか――自分の不遇な人生に納得ができていないのか――この丘にとどまることを選択した。ハルヒコはその残留する魂達の力を借りて、残されていった動かぬ屍の群れをふたたび地中深くへと埋葬していったのである。作業が終わると、手伝ってくれた魂達は自らの住処、地面の奥底、永劫の暗闇へと帰っていった……。

「――ってなことがあったんだよ」

 馬車は深い闇夜にまぎれるようにゆっくりと進んでいた。御者台に並んで座るマルロに、ハルヒコは丘で起こった出来事をつぶさに語って聞かせていた。

「いやあ、彼女のおかげで私も少しは踊れるようになったんじゃないかな――」

 説明を終えると、ハルヒコはマルロの表情をちらっとうかがった。馬車が動き出してよりこの方、マルロはまったく口をきいてくれない。なぜかおかんむり状態が続いているのだ。

 ハルヒコもマルロがかもし出している張りつめた空気をもちろん感じとっている。だからこそ火に油を注がぬよう、言葉を選びながら努めて慎重に話していたのである。

「理事長……」

 マルロがようやく仕方なしにといったふうにつぶやいた。

 ――ああ、やっぱり怒ってる……。

 ハルヒコはこの真面目な青年にどんな苦言を呈されるのかと身構えた。

 マルロは内にたまった怒りをいったん吐き出すように、細く長いため息をついた。彼自身、これでため息をつくのは何度目だと辟易せずにはいられない。

「理事長、それでは後ろの二体はいったい何なんですか?」

 そう問わずにはいられなかった。だが、間髪入れずハルヒコの訂正が入る。

「違う違う。マルロ、『二人』ね――」

 マルロの眉根が寄った。またイラッとして、それを堪えているのが分かる。だが、この訂正はハルヒコには譲れないものであったのだ。

「分かりました……。では、あの二人は何なのですか?」

 何なのですか、ではなく、誰なのですか、なんだけどな――。

 そう思ったが、ハルヒコは指摘するのをやめた。これ以上マルロの機嫌を損ねるのは好ましくない。

「あの二人はマリヤとノーマンって言ってね、若い夫婦なんだ。農業を営まれていたそうだよ。とても気さくな人達でね、『さん』付けなんていいからって、すぐに打ち解けたんだ」

 そういうことを聞いてるんじゃないんだけどな――マルロはそう思ったが、話を合わせるように続けて尋ねた。

「理事長もハルヒコと呼ばれているんですね」

「そうなんだよ――」

 ハルヒコはもうマルロの機嫌も忘れ、いつもの口調に戻っていた。

「僕もどちらかっていうと人見知りの方なんだけどね、彼らとはなんだか馬が合ったみたいで――ね」

 ハルヒコは後ろの荷台を振り返り、毛布をかぶって身を隠している二人に声をかけた。手と手を重ね仲良く寄り添っていた二人は、カタカタと歯を鳴らして笑った。

「いやいや、本当にそれな――」

 骸骨と笑い合うハルヒコを見て、心底マルロはゾッとした。このときになって、自分がいったい何にイライラしているのかをようやくマルロは悟ったのである。

 ――自分は怒ってなどいなかった……。

 怒りよりももっと強い感情――血も通わぬ冷たい手で魂を直接つかまれたような感覚――今まで経験したことのない恐怖に負けまいと、マルロは懸命に気を張っていたのだ。

 こんなことがあっていいはずがない……。

「理事長は二人の声が聞こえるのですね……」

「ああ、そうか……」

 マルロには聞こえないんだね――。

 他意なく素直にそう思ったが、それを口にしてしまうともはや修復不可能なほどマルロは激昂してしまうだろうなと、すんでのところでハルヒコはその言葉を飲み込んだ。

『楽しみだね』

『ええ、本当に――。久しぶりだもの、上手く育てることができるのかしら』

 荷台からはハルヒコの耳にだけマリヤとノーマンの交わす会話が聞こえてきていた。

『はじめての土地だ。まずは土づくりからやっていかないといけないな』

 ハルヒコもその会話に参加したくてうずうずしていたが、隣のマルロに配慮して泣く泣く我慢しなければならなかった。彼らがハルヒコの開墾した土地を見たら、いったいどんな感想を抱いてくれるのだろうか――。


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