第二部 第6章―9
ネーヤの手を握った瞬間、ハルヒコの頭に――いや、もしかするとそれは魂にであったかもしれない――彼女のたどった人生が奔流となって流れ込んできた。
彼女の短い一生は決して悲しい出来事ばかりではなかった。むしろ、楽しい思い出の方が多かったぐらいだ。だが、確実に言えることは、彼女の最期は大きな悔いを残さずにはいられなかったという事実だろう。おそらく、この丘に眠るすべての者達が納得のいく最期を迎えられたわけではない。
――ひどく悲しいな……。
彼女のことを気の毒に思ったのはもちろん、あまりに残酷なこの世界の有り様に、悲痛な気持ちを飛びこえ、ふつふつと憤りの感情がわき上がってくる。
それは仕方のないことであったかもしれない。人間の力などたかが知れている。世界の気まぐれの前では、人はあまりに無力だ。
――それでも、だ……。
悲しみのない世界を、誰もが笑いあって生きていける世界を、
――望んで、何が悪い。
ハルヒコは自分にできることは何だろうかと考えた。遠い未来に向けてできることもそうだし、今、目の前にいるこの娘に対しても自分は何ができるのだろうと。
『ねえ、踊りましょう』
ネーヤがもう一度誘いの言葉を投げかけてくる。
「君がそれを望むなら……」
ハルヒコの口からは、自然とそんな声がもれていた。ネーヤが笑ったような気がした。
その途端、どこかからか軽快な音楽が流れてきた。それはハルヒコの魂とつながったネーヤの記憶の中にある音楽が聞こえてきているのかもしれない。
パチ、パチ、パチ――。
音楽にあわせて手拍子まで鳴りはじめる。辺りを見回すと、骸骨達が――彼らと彼女達にも生前の姿が重なっている――ハルヒコとネーヤを囲むように、みな笑って手を叩いている。
「ダンスは苦手なんだ……」
ハルヒコがそう言うと、ネーヤは『そんなこと――』と、ぷっとふき出し、
『大丈夫、私が教えてあげるわ』
ハルヒコの手を引いた。
音楽はますます軽快に楽しく奏でられていく。骸骨達の手拍子も、それにあわせて大きく軽く弾んでいく。中には手と手を取りあって踊りだすペアまで現れた。
ハルヒコはネーヤに振り回されるようにステップを踏んでいく。こけないように、ずっと足元ばかりを見つめていた。
『ねえ、これは村の豊穣を願う踊りなのよ。そんなに緊張しないで、ほら、もっと顔を上げて、もっと笑って。もっと楽しんで』
そうは言っても、ハルヒコはドタドタと足をばたつかせることしかできず、ネーヤのように軽やかに舞うことができない。それでも、そのうちに――ネーヤに振り回されているうちに――不思議と心も体も軽くなってきて、半分ひきつったような笑顔を彼女に向けたのだった。
そのとき、心から思ったことがある。
――ああ……本当にこれで良かったんだ……。
目の前に、満面の笑みを浮かべたネーヤの姿があった。
満月を背景に、風渡る草原の舞台で魔法使いが骸骨と踊っている。幻想的な舞踏の凶宴が繰り広げられている。
――そうか……。
これがこの魔法の正しい使い方なんだ。
他の誰かにとってはそうではなくとも、ハルヒコにとってはこれこそが魂の魔法の本来の在り方だと確信した瞬間であった。
――誰かの魂を強制的に支配するためにあるんじゃない……。
悔いを残した魂達を救済するために、この魔法はあるんだ――。




