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異世界家族 パパと僕、ときどき、ママ、わたし  作者: 芝大樹
第二部「魔法使い、ガイコツと踊る」
106/150

第二部 第6章―5

 日は西の稜線に潜り、入れ替わるように東の夜空に月がその存在を誇示しはじめる。今日は満月。まるで何かを予兆するかのように、その玲瓏たる冷えた白銀で舞台を照らしているのだった。

 ハルヒコは丘の頂に立ち魂の魔法を唱える。

「アニモ――」

 はたして、その呼びかけに応えてくれる者はいるのだろうか……。

 ハルヒコは耳をそばだてる。

 風が通り抜けていった。耳元に囁きのひとつも残していかずに。

 どこかで鳥が鳴いたような気がした。それ以外は何も音がしなかった。まるで世界が鳥の鳴き声以外の音を忘れてしまったかのように、あるいはこの大地が生まれた原初から世界には鳥の鳴き声しかなかったかのように。

 とにかく、この夜の底は鎮まりかえり、変化の兆しを何ひとつ見せることなく、西の空は完全にその光を失っていった。

 ――魔法の効果が届いていないのか……?

 それとも自分にはまだ、この魔法を使いこなす実力が備わっていないのだろうか……。

 ハルヒコはもう一度魔法を唱えてみる。だが、やはり「誰も」応えてくる気配はない。それから幾度となく魔法を繰り返したものの、一向に進展は見られなかった。

 ――こんなことなら、マルロと一緒に帰ればよかったか……。

 彼の忠告にもう少し耳を傾けるべきだったかもしれない。

 辺りから完全に光が消え失せ、いよいよ闇が色濃くなっていった。

 ――帰るか……。

 こんな場所でひとり暗闇に包まれることが、だんだん怖くなってきたのかもしれない。好奇の熱が冷め、ようやく正常な思考を取り戻せたのだろう。

 ――うん、やっぱり帰ろう……。

 そう思い始めたときのことであった。

「うううぅ……」

 どこからか呻き声のようなものがハルヒコの耳に届く。

 ――!

 「誰か」が応えてくれたのだ。だが、最初の意気込みはどこへやら、このときのハルヒコはもはや気のせいだと思い込みたいほどに気持ちは萎えてしまっていた。

「うううぅ……」

 ――やっぱり、気のせいじゃないよな……。

 いったい、この声はどこから聞こえてきている――?

 自分のしでかした浅はかな行為に対する応答なのか、それとも皆が言うように、この場所に刻まれた亡者どもの怨嗟のこもった呪いなのか――それは分からない。

 だが、とんでもない場所に来てしまったと、今になってハルヒコは後悔しだした。情けないとは思いつつ、逃げ道を探りはじめる。

 ――ともかく、今はこの場から逃げなくては……。

 囲まれてしまっては手遅れになってしまう――。

 だが、次の瞬間、はっとなる。気づいてしまったのだ、ハルヒコは。

 ――ああ……この声は……。

 呻き声は辺りから聞こえていたのではなかった。ハルヒコの足下――地面の底から伝わってきていたのだ。

 地中深くから何者かが土をかき分け、群れをなしてはい上がってきている。その蠢く振動が、ハルヒコの足を伝わり、本能を震えさせた。


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