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異世界家族 パパと僕、ときどき、ママ、わたし  作者: 芝大樹
第二部「魔法使い、ガイコツと踊る」
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第二部 第6章―3

「理事長、本当に行くんですか!」

 これで、いったい何度目になるだろう。馬車に乗ってしばらく経つというのに、手綱を握るマルロはいつにも増して慎重に念を押してくる。いや、むしろ取り乱していたといってもいい。馬車はバラディンの町を出て、街道を東に向かっていた。

「あそこは呪われた場所なんですよ! アクラの歴史を知っている者なら誰も近づこうとはしない所なんです」

 この台詞も、もう耳にたこができるほど聞かされている。

「分かってるよ。私だってアクラの歴史書は最後まで目を通したからね。とても悲しい出来事だったと思うよ」

「悲しいって……」

 それだけの問題ではないだろうに――眉根を寄せたマルロの表情がそう非難していた。

「呪われるかもしれないんですよ! 多くの人達が呪われて死んでいったんです――」

「マルロ、あれは呪いなんかじゃない。あれは、おそらく……」

 そう言いかけたとき、マルロの顔がさあっと青ざめた。魚を絞めたときみたいに一瞬で、それはもう本当に鮮やかに。

 丘が見えてきたのだ。皆の言う、呪われた丘が――。

 ハルヒコはマルロの視線を追った。無意識に喉がごくりと鳴っていた。

 ――ああ……。

 その瞬間、ハルヒコも皆がその丘をひどく恐れる理由を納得したのであった。

 ――確かに、あの場所はダメかもしれないな……。

「マルロ、本当にすまなかった……」

 突如、ハルヒコが丘を凝視しながら謝罪の言葉を口にする。そのことが、逆にマルロにより一層の薄気味悪さを感じさせたのであった。

「理事長……何を突然……」

「本当にすまない。こんなことに付き合わせてしまって……」

 やはり引き返そう――ハルヒコの口をついて、次にそんな言葉が出てくるものとマルロは期待した。だが、

「途中まででいい。できる限り近くまで連れていってくれ――」

 マルロは「はあ?」と、内心、怒りにも似た感情がわき上がってくるのを感じた。

 いったい、この人は何を言っているんだ――。

「理事長、あんな所に行って、いったい何をするつもりなんですか……」


 丘の麓にハルヒコとマルロは降り立った。マルロがもうこれ以上は無理ですと馬車を止めてしまったのもあるが、実際的にそこへと至る道が失われてしまっていたのである。かつては道であった場所が、雑草のみならず灌木の類いまで生い茂り行く手をさえぎっていた。

「ここから先は、私ひとりで歩いていくよ」

「何をなされるのかはわかりませんが、本当にあの丘に向かわれるおつもりですか……」

 マルロは懸命に押し留めようとする。それは自らも付いていくべきかどうか、逡巡していたからかもしれない。

 ――本当に怖い思いをさせてるんだな……。

 それほど、この場所は忌避されているということだ。

「マルロ、本当に私は大丈夫なんだ。打ち合わせ通りマルロは戻って、夜半にあの城壁の所で待っていてくれ」

 その待ち合わせ場所は、すでに二人で下見をすませている。距離はあるがこの呪われた丘と隣接した城壁の内側だ。城壁の中といえどもやはり町の皆からは避けられ、誰も寄りつかない閑散とした場所となっている。城壁の上で巡回する見張りの衛兵でさえ、決してそこには近づこうとしなかったのである。

 ハルヒコは、後ろめたそうにしているマルロの背中を押して御者台に上らせた。

「本当にいいんですか。何が起こってもおかしくないんですよ……」

 無理だとは知りつつ、これが最後だとマルロがハルヒコを引きとめる。

「行ってもらっていい。私なら本当に一人で大丈夫だから」

 その返答にマルロはついに折れた。ハルヒコが何か確信めいたものを持っていると無理やり自分を納得させたのだ。

「分かりました……。もう引きとめません。理事長、どうかくれぐれもお気をつけて行ってきてください。手筈通り、私はあの場所で待機しておりますので」

「ありがとう、マルロ。ここまですまなかったね。なあに、本当に大丈夫さ」

 ハルヒコは笑ってみせた。

 それではと、マルロは最後にハルヒコを一瞥し手綱を振るった。馬車がゆっくりと進んでいく。

 その背中を見送りながら、ハルヒコはひとり心の中でつぶやいた。

 ――大丈夫、大丈夫……。

 私ひとり――ならね……。


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