第二部 第6章―2
ゴーレム――。
岩石でできた巨人――。
この見るからに固そうな巨像に魂が宿ることで、関節部分は軋むこともなく不思議なほどなめらかな屈曲が可能となる。人と遜色のない動きを実現していた。
それゆえ、ハルヒコの想定した通り、その巨体から発揮される尋常ならざる力によって、馬に引かせていた鋤を難なく動かし、みるみるうちに広大な畑が耕されていったのである。その様はさながら重機そのものであった。
――確かに畑を耕す分には問題ないんだけど……。
最初に試した、姿の定まっていない土魔法に魂を付与した場合、その行動のすべてを途中で変更することはできなかった。つまり魂のプログラミングをし直すことができなかったということだ。もし、その土魔法が想定を超えた被害をもたらす可能性が出てきたときには、その魔法を途中で消滅させるしか避ける手立てはない。
一方、土魔法で形あるものを作り、それに魂を付与すると――これはハルヒコもやってみて初めて気づいた想定外の特性であったが――その形に宿った魂は常に新たな命令を受け付け直すのだ。
――形があることで、魂がそこに居続けることができるんだろうか……。
つまり、ハルヒコはゴーレムをまるでドローンのように操ることができたのである。意識していないときは、ゴーレムは事前にプログラムした命令に従い自律的に行動し続ける。そして、ハルヒコが意識を集中すれば、ゴーレムはコントローラで操縦するかのごとく意のままに動かせることができたのだ。
――それでも、だ……。
そう思った矢先、
「あ……」
ハルヒコの目の前でゴーレムは成育途中の作物を豪快に引き抜いた。
――それは雑草じゃないんだけどな……。
ゴーレムに宿った人工的な魂に、雑草と作物の区別はできないようであった。
とにかく、一切の細かな作業がゴーレムにはてんで向いていない。今も雑草を取らそうとして、その巨大な手で作物を土ごと根こそぎ引き抜いてしまった。
――巨体のせいか……?
そう思い、人間サイズのスリムなゴーレムも作ってみたが上手くいかない。
――人工的な魂は命令通りにしか動けないんだな……。
無から生まれた魂は自分で考えることができないようだ。そのときどきの状況に応じて最適な判断ができない。
もちろん命令を――プログラムを――微に入り細に入り工夫すれば、もしかするとやがてはそれも実現可能になるのかもしれない。その課題が疑似的な魂の本質的な特性によらなければの話ではあるが。
だが、このときハルヒコが下した決断はまた別のものであった。
――これは、いよいよアレを試すしかないのか……。
魔導書に載っていた魂の魔法の本来の使い方――。
それはあまりに残酷で、ハルヒコは初めてその記述を読んだとき、倫理的な抵抗を覚えずにはいられなかった。だが、ここにきて、
――それ以外に方法はなさそうだ……。
ハルヒコはあっさりと決断してしまう。結局のところ、何かしらの理由が欲しかったのかもしれない。自分の背中を押してくれる、もっともらしい言い訳を……。
ハルヒコはあふれ出る好奇心を抑えることができなかった。




