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異世界家族 パパと僕、ときどき、ママ、わたし  作者: 芝大樹
第二部「魔法使い、ガイコツと踊る」
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第二部 第5章―8

「テロン・クン・アニモ!」

 ハルヒコは自らが考えたオリジナル魔法の名を高らかに詠みあげた。

「すごい、土が駆け上がっていく!」

 マルロにしては珍しく、表情を変えて叫ぶ。

 ハルヒコが呪文を唱えると、もこもこと地面から土が盛り上がり、まるでモグラが潜んで前進するかのごとく、そのまま壁を伝ってマギアの本部棟三階まで上っていった。

 ――これが魂の魔法か……。

「理事長、これは何の土魔法なんですか?」

「いや、どんなって言われても……。発想の転換……?」

 本当のことはまだ言えない。ハルヒコはうやむやにするべく、言葉を濁した。

「発想の転換……」

 納得にはいたっていないようであったが、マルロはそれ以上、疑問を呈することはしなかった。土魔法が彼の専門ではなかったのもあるかもしれない。

 魂の魔法――。

 ハルヒコは擬似的な魂を生み出し、それを土魔法に掛け合わせ使用してみたのだ。結果は上々。今までハルヒコが手を触れていた範囲にしか効果を及ぼせなかった土魔法が、彼の手を離れ、まるで生き物のようにいきいきと壁を駆け上っていく。三階のひび割れた壁の補修ポイントに向かって、みずから意思と目的を持っているかのように。

 ハルヒコと秘密の魔導書に書かれていた魂の魔法は相性がよかったみたいだ。あたかも昔とった杵柄のごとく、すらすらと呪文が口をついて出ていく。初見の詠唱で、ハルヒコは見事に人工的な――そう呼ぶのが適切かどうかは別として――魂を生み出すことに成功したのだった。

 ――あのときの炎はやっぱりそうだったんだな……。

 ハルヒコはもうすぐ一年になろうかという、あのルアンからの逃避行を思い出していた。魔法を唱えた瞬間、生み出された魂の姿に見覚えがあったのだ。

 ――炎の形をしている……。

 ルアンからの亡命は悲惨な結末に終わった。それは追手としてハルヒコ達の前に立ち塞がったウタル隊長率いるルアン親衛隊の全滅で幕をおろした。手を下したのはハルヒコ自身だ。もちろんハルヒコも命をかけて家族を、クイール王子を守ろうとしてのことであった。自らの命も奇跡的に助かったにすぎない。もしかすると、この場にハルヒコは立っていなかった――そんな悲惨な結末も可能性としてはあったのだ。

 ――あのとき……自分の命が燃え尽きようとしたあのとき……。

 自分は幾つもの炎を視界に捉えたのだ。さまざまな色、さまざまな形――。

 ――揺れていた……。

 あれが命の炎かと、直感的に理解した。そして、今目の前で揺れている魔法で生み落とされた人工的な魂もまた、炎の姿を借りてゆらゆらと幽鬼のように体を揺らしていたのであった。

 これ以降、ハルヒコは魔法を唱えずとも意識すれば魂の形を見ることができるようになる。魂の魔法を唱えたことに付随する効果――それとも呪い?――なのか、それとも元々ハルヒコの奥底に眠っていた能力が魔法の発現に引きずられるように目覚めさせられてしまったのか、それは分かりようがない。だが、ハルヒコが好むとも好まざるとも、魂の炎は彼の日常の風景の一部となっていく。そして、ふとルアンからの逃避行の結末をまた思い出す。

 ――そう言えば……。

 自分の魂の色は黒かった――。

 その事実はひどく何かを暗示しているように思えたが、そのときのハルヒコには、それが意味するところを真に理解するにはまだ早すぎたのである。

 ともあれ、ハルヒコは魂を付与した土魔法を使い、マギアの崩れた壁や塀を次々と直していった。それは魂の魔法の修練にもちょうどよかったのだ。勢いにまかせて、ハルヒコは自宅の半地下の部屋に念願の井戸まで掘ったのであった。

 ――擬似的な魂ってプログラミングみたいなもんなんだよな……。

 魂を錬成する際には、もしこんな場合ならああしよう、このときにはこうしようと、厳密ではないにせよ想定される場面でどのような行動を取らせるかイメージを作っていく。

 井戸を掘らせるときは単純であった。すなわち土魔法に付与した魂に、水が湧き出るまで土をかき分け穴を掘らせていく。と同時に、掘った穴の周囲を融合させガラス質の硬質な壁を作っていく。

 ルアンの村で汗水垂らしてツルハシを振るっていたあの苦労はどこへやら、魂を付与した土魔法は一発で井戸を掘り当てたのだった。

 ――井戸掘りの事業を始めたら、もう大儲けでウハウハになるんじゃないか?

 左うちわの生活を想像して、まあ自分には向いていないかと、ハルヒコはすぐにその妄想を振りはらう。

 慎ましく、目立たず――。

 多くのものは求めない。家族がいてくれさえいれば――そこそこに不自由でなければ――それで充分だ。過度の贅沢は不幸を呼び寄せる。身を滅ぼす。そんな予感がいつもハルヒコに付きまとうのだ。

 ――また、ポンプを据えつけないといけないな。

 ハルヒコは次に何をすべきか考えていった。その中で、ふとひらめいたことがある。

 ――もしかすると、あれにもこの魔法は使えるんじゃないか……。

 思い立ったらもう我慢できない。ハルヒコはうずうずしながら夜が明けるのをひたすら待ちわびた。


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