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異世界家族 パパと僕、ときどき、ママ、わたし  作者: 芝大樹
第二部「魔法使い、ガイコツと踊る」
100/150

第二部 第5章―7

 ハルヒコは地下書庫の秘密の部屋で出会った魔導書の虜となっていた。暇な時間を見つけては、ページをめくり、その内容の解読に夢中になる。メモ帳程度の大きさゆえ携帯もでき、文庫本を読むような手軽さも拍車をかけた。

 本来、図書館の書物は持ち出しが禁止されている。

 ――まあ、そこらへんはもう随分とうやむやになっているけどな……。

 貸し出しの仕組みも整えようと計画は立てていたが、それは図書の分類など整理が一段落ついてからの話だろう。

 ともかく、ハルヒコは禁を破ってその魔導書を持ち出した。それは彼の性格を考えると、とても珍しいことであった。どうしてもその魔導書を優先的に読みたい。要は独占したかったのだ。

 ならば、筋の通ったやり方はいくらでもあったはずだろう。たとえばザイン学長に申し出て許可をもらったりと――。

 だが、ハルヒコは魔導書を懐に忍ばせてしまった。その書物のことも発見した秘密の部屋のことも内密にして。

 ――この本を最後まで読みきるまでは……。

 申し訳ないが一人占めさせてもらおう。こんなにも特別な魔導書だ。取り上げられる可能性だって大いにありうる。

 躊躇いなくハルヒコにそう決断させたのは、すでに魔導書と彼の魂が繋がってしまっていたからだろうか……。

 ちなみに秘密の部屋は、ハルヒコが足を踏み出したその瞬間より二度と現れなくなった。テロンの魔法で近くの壁を掘ってみたが、部屋らしき痕跡など一つとして見つけることはできなかった。

 ――あれは空間が歪められていたんだろうな……。

 突飛な空想ではない。今まさに自分が手に携えている知識の中に、不確実ではあるがそれらしき記述が見てとれるのだ。

 ――それにしても、だ……。

 これが魔導書であることは、もはや疑いようの余地がない。だが、あらゆる面で他の魔導書とはその規格がかけ離れていたのである。

 一般的な魔導書は古代文字で書かれているが、発見した魔導書は未知の文字で記述されている。また、一般的な魔導書は――魔導書以外の書物も――革を貼り装飾を施した板表紙がつけられている大柄で大仰なものだが、ハルヒコが手にした魔導書は飾り気のない革表紙だけの、サイズも手帳程度と、まさにメモ帳と呼ぶにふさわしい代物であった。それらはすでに先に述べた通りである。

 この魔導書には、さらにもう一つ、特筆すべき他の魔導書とは異なる特徴があったのだ。

 ――これ、やっぱり本当にメモ帳なんじゃないのか……。

 書かれている内容はとにかくシンプルだ。一般的な魔導書なら、その著者が自分の業績を誇示するかのごとく要らぬ言葉を飾りたて、中身のある内容は半分にも満たないものが大半だ。それに対して、地下に眠っていたこの魔導書のページには、闇や星、魂に関する魔法の根本的な原理がわずかな応用と共に必要最低限の言葉で記載されている。

 ――いや、そう書かざるをえなかったのかもしれないな……。

 その文章は練りに練られたものではなかった。まるで思いついたアイデアを殴り書きしていったみたいに、文や言葉はその内容と共にページのあちらこちらを飛び回り、さらには言葉では表現しにくい概念は文章で表すことをすぱっとあきらめ、簡単な図を描くことでそれに換えようとする潔さまであったのだ。

 ページに載っている一つ一つの要素に意味が込められ、無駄なものは削ぎ落とされ、これを書いた人物の聡明さを際立たせていた。そして、やはりこれはメモ帳なのだと確信する。閃きや発想、そういった頭の中にたまたま、あるいは必然的に生じた電気信号のざわめきを、雲散して失われてしまわないうちに書きとめていったのだろう。

 ――応用に関しては、あまり載ってない……。

 続きは自分で考えろということか――。

 著者の意図をハルヒコはそうくみ取った。後の世代にこの魔法の発展を託し、あるいはまるで挑戦するかのごとく。

 ――やってやろうじゃないか。

 困難なことほどハルヒコは燃えてくる。

 ――まずは壁と塀の補修だな。

 その課題を解決するには、土の魔法だけではもう限界をむかえていた。それをこの魔導書に書かれた魔法を使うことで打破できるかもしれない――ハルヒコの脳裏にはすでにそのビジョンが見えていた。


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