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04 家族-2

 


 泣きじゃくるメイアと手をつなぎ、抜け道を歩く。道は敷地のはずれにある庭につながっていた。


「ごめん。ごめんな、メイア……」



 伝える意思もないのに、言葉が漏れる。


 すべては俺が招いたことだった。俺が、魔法を使えないから。父の言ったとおりだ。俺さえいなければこんなことにはならなかった。母はどうなっただろうか。俺たちが逃げた後、ちゃんと自分も逃げられたのか……。最悪なことに、なっていなければいいが――。



『ジィィィンン! メイアァァァア!』



「っ!」


 屋敷のほうから父の罵声が轟く。遠くに聞こえるその声だけで身がすくむ思いだった。


「おにい……いや、兄さま……」


 メイアが不安そうな表情で俺の袖をぎゅっと握る。


「メイア……」


 どうするべきか。とりあえず、貴族街にとどまるのは論外だ。下町の商業区に出て身を隠したいところだが、貴族街から出るには警備兵のいる門を通る必要がある。今、貴族街で俺のことを知らない者はいないだろうし、確実に足がつく。


 学園内にも、……アイーダとよく使った抜け道があるけれど、今は学園に行くことすら不可能だ。


 父は俺が遠くに逃げると考えているだろうから、むしろ貴族街にとどまるのも手かもしれない。いや、それでは父が警備兵に捜索を依頼したら終わりだ。貴族街は広いが、厳重に守られている場所も多い。逃げる場所は限られる……。


「くそっ!」


 考えがまとまらずに、無事な手でがしがしと頭を掻く。こんなみっともない仕草をするのは、ずいぶんと久しぶりだった。


「兄さま」


 くいくいっと、メイアが俺の袖を引く。


「兄さまが帰ってくる前、かあさまが教えてくれたの。うちの庭には、商業区につながる抜け道があるって」


「な、本当か!」


 十五年、この家で過ごしてきたというのに、知らないことばかりだ。どうしてそんなに抜け道があるのだろう。それに、父ならばともかく、どうしてマクレイン家に嫁いできたはずの母が知っていたのだろうか。


「家の女性にだけ代々伝わってるって、かあさまが言ってたわ。息抜きのために遊びに行ったんだって。マクレインの男は亭主関白が多いからって、笑って……。笑って教えてくれたの……」


 言いながら、メイアはまた目に涙を浮かべる。


 きっと、それが母との最期の会話だったのだろう。俺に魔法が使えないと聞いて、母は想像したんだ。父が俺を殺そうとすると。だからメイアに託した。俺を救うための手段を、自分が、犠牲になる前提で……。


 涙をこぼすまいと、きつく目をつむる。


「大丈夫だよ、メイア。母さまも、マクレインに嫁いだときに国王様から魔力を授かっている。きっと、生きているはずだ」


 限りなく低い可能性だということはわかっていた。だがゼロではない。そんな風に自分を納得させて、メイアに慰めの言葉をかける。


「ありがとう。メイアのおかげで、ここから出られそうだ。その抜け道に案内してくれ」


 そう言ってメイアの手を取った時、




「ジィィィィン!」




 すぐ近くで、父の声が聞こえた。


「――っ!」


 声にならない悲鳴とともに、背筋が冷え、全身の鳥肌が立つ。

とっさにメイアを抱き寄せ、近くにあった木の幹に体を隠し、しゃがみこむ。


 屋敷の方向を覗き見ると、草花と点在する木の間から父の姿が見えた。右手には抜身の剣が握られたまま、そして、反対の手にも何かを持っていた。



「……なんだ?」



 すでに日は落ちており、暗闇の中で父の剣だけが凶悪なきらめきを放つ。そんな中で俺は父が左手に持つ何かに、必死に目を凝らす――と。



「っ――‼」



 それが何か認識した瞬間、俺は何も考えられなくなった。


「兄さま、どうしたの? 父さまは?」


 メイアが父の姿を確認しようと身を乗り出す。その動作で、俺は正気を取り戻す。


「っダメだメイア!」


 父に気づかれない最大限の音量で叫び、俺は急いでメイアを元の場所へと引き戻す。


「きゃっ、ご、ごめんなさい兄さま」


「いや、……いいんだ。驚かせてごめん。ちょうど、父さまがこっちのほうを見ていたんだ」



 よかった、間に合ったみたいだ。



 メイアにこれ以上負担をかけるわけにはいかない。ただでさえ、ショックな出来事の連続で気を張っているんだ。……もしここであれを見れば、気が狂ったっておかしくない。


「父さまにバレないよう、静かに抜け道を目指そう」


「うん」


 メイアに先導を頼み、俺が父の様子を見ながら進む。こうすれば、メイアは父のことを気にせずに済む。



 メイアは見るべきではない。




 実の父の手に捕まれた、首だけになった母親なんて、見るべきじゃない。






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