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38 真価



ジョエル・マクレインを踏み台にして大きく飛び上がった私は、そのままの勢いを利用して魔族へと飛び掛かる。


「集え、我が心のうちに宿りし烈火よ、その熱、その怒りを持って我が敵を打ち砕け!」


 同時に詠唱をはじめ、右手に集めていた魔力を魔法へと昇華させる――!


「――『炎拳(イグニス)!』」


 炎に包まれた拳を魔族の顔面に向けて振り下ろす。


「――っ!」


 振り下ろした拳は魔族に触れる寸前で、見えない壁に阻まれたかのように止まってしまう。それでもその障壁を破壊しようと、魔力を腕に注ぎ続けるが、二秒と持たずに均衡が破られ、私は障壁にはじき飛ばされた。


 炎拳は自分の体に魔法を付与することで、攻撃力を跳ね上げる魔法。それがこうも簡単に防がれたということは、魔族の使ったあの障壁は、魔法だけでなく、物理攻撃も跳ね返すということだ。


 魔族の能力が魔法にのみ秀でているという希望的仮説は、これで消えた。


 ……ならばっ!


「我が呼び声に応え、穿て――貫き――切り裂け――っ!」


 魔族の前方に『雹弾(ブランド)』で弾幕を張る。当然、この程度の魔法では魔族に傷を与えるどころか、先ほどと同じように障壁に阻まれて終わるだけ。だけど――。


『……む』


 ――気づかれた。魔族は雹弾を気にも留めず、後ろを向き、手をかざす。すると……、キン、キキキキン、と硬質な音を立てて、見えない刃が見えない障壁にはじかれていく。


 正面の雹弾(ブランド)を囮にして後ろから風刃(スラッシュ)を放つ……予定だったのだが、魔法が発動する前に気付かれた。……だが、まだだ。


 風刃を防ぐ魔族の足元から、すさまじい速さで一本の太く、鋭い針が伸びる。


『ほう』


 が、それも魔族は体をひらりと動かすことで難なく避けた。


 正面と背後からの魔法に対応しているうちに、地面から『土槍(スピア)』による攻撃を行う。それがこの攻撃の一連の流れだったのだが、そのことごとくが失敗に終わった。


『なかなか器用な真似をする。さすがは完全適正者と言ったところか』


 余裕の笑みを浮かべながら、魔族はそんなことを口にした。


 普段の私であれば、そのこちらを馬鹿にするような口調にカッとなっていただろう。だが、今は冷静なままでいられる。ジーンの作戦のおかげだ。


 最初の炎拳と雹弾による攻撃では、奴は身動き一つとることなく攻撃を受け切った。なのに背後からの風刃は、わざわざ後ろを向いて、手を掲げていた。最後の土槍に至っては、防ぐこともせずに回避を選んだ。

 

 奴は、すべての攻撃を無効化できるわけではない。正面から押し切るにはとんでもない威力が必要だろうけど、常に全方位に障壁を張っているわけではないし、障壁を張るにも少しは時間がかかる。


 それだけわかれば、突破口はある。


『どれ、我も少し遊んでやろう……』


 魔族が右手をこちらに突き出す。


 何が来る……? 予想がつかないというのは、ひどく怖い。ただ右手を突き出しただけ。たったそれだけの動作に、私は身を固くした。


『foier』


 ――え?


 その聞いたこともない詠唱に疑問を覚える暇もなく、魔族の手から炎がほとばしる。その威力は、高威力の炎魔法『爆炎(ブレイズ)』に匹敵するものだった。


 ――早すぎるっ!


「くっ、『清流波(アクアリング)!』」


 やむを得ず、詠唱を破棄して水属性の防御魔法を使う。こういったとっさの場面では重宝するが、発動が早い分、無詠唱では魔法の成功率も魔力効率も大幅に下がる。底が見えない相手にはなるべく使いたくはなかったが……。


「そうも言ってられないのよねぇッ」


 虚空から現れた水流が、周囲を覆うように流れてゆく。魔族の生み出した炎とぶつかり、お互いを消し合う。……ジーンが言っていた。魔法というのは、一度発動してしまえば、あとは自然法則に準拠する。魔力を使い続けることで指向性を持たせることは可能だが、その性質が炎である限り、水で消えないはずがない。


「……っ!?」


 はずなのに、私を守る清流波はだんだんとその勢いを無くし、魔族の炎は衰えることを知らずに、いまだにごうごうと燃え盛っている。


『どうした。その程度かアイーダ。早くしないと、焼け死んでしまうぞ』


 勝ち誇ったような魔族の声が、炎の向こう側から聞こえてくる。確かにこのままでは、私の魔法が先に破られる。でも、この後のことを考えると、魔力は少しでも温存しておきたい……。


『よもやその程度の力で、我を殺すなどとほざいたのか? っくははは、笑わせてくれる』


「……っく」


 だめだ。このままじゃ持たない。上級防御魔法の重ね掛けでしのぐしかない。


「――っ」


 そう思い口を開きかけた時、すぐ隣に、誰かが降り立ったのが分かった。


「よく耐えてくれた、アイーダ。ここから、反撃だ」


「――うん」


 その言葉はどんな魔法よりも心強く、私の心に響く。


 右手を前に出す。すぐに、彼の左手が重ねられる。


「集え」


 彼が詠唱を開始する。


「我が力は彼の者へ、我が心は彼の者とあり。今、求めるは守護の力、その身、その心に宿るのならば示せ」


 つながれた手が温かな光に包まれる。この光全てが、目に見えるほどに凝縮された彼の魔力であることを私は知っている。私は信じている。



「――『魔力協生(マナ・エンカウント)!』」



 魔法の発動と同時に、すさまじい量の魔力が一瞬で流れてくる。体中に行き渡り、この身を満たす。溢れんばかりの力で、今私たちを守っている水流波を強化。一気に勢いを増した水流は、私たちを取り巻いていた魔族の炎を一瞬にして消滅させ、それでもなお衰えることを知らず、私たちの魔力に呼応するように周囲に浮遊する。


『――なんだ、その魔法は』


 魔族が初めて、警戒の色を見せた。


「これが、私とジーンの魔法」


 つないだ手をぎゅっと握りしめ、告げる。



「あなたたちが出来損ないとあざ笑い、偽物と侮った――ジーンの本当の力よ!」





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