episode 1 羊の街
二、三話で終わります。
三人は、最初の街。
羊の街に辿り着きました。
街の大きな入口には大きな門があり、そこには、こう書かれていました。
『すべての住人は等しく公平である』
門をくぐる時、いつも冷静なタイカが、珍しく少し興奮した様子で言いました。
「きっと、ここは素晴らしい街だ。すべての人が平等なんだ。すばらしい差別の無い街だ」
早速、三人は、移民局で移住の手続きを済ませました。
担当官が、三人に住む場所と仕事を斡旋してくれました。
移民局の担当官は、羊です。
街を歩く姿も、みんな同じ羊です。まったく見分けがつきません。
そして、担当官が最後に不思議なスーツを三人に渡して言いました。
半透明の全身タイツのような形をしていますが、かなりゆったりしています。
むしろブカブカと言った方がいいでしょう。
「この街にいる間は、外に出る時は必ずこれを着用しなさい。さもなくば犯罪者として追放になります」
キーユが、言いました。大きすぎて動けないと。
担当官は、無表情のまま答えます。
「サイズの事は、御安心なさい。着用後に着る者に併せて伸びたり縮んだりするから」
アユムが、言いました。どうして着なくてはいけないのかと。
担当官は、無表情のまま答えます。
「それが決まりだからです。みなが等しく平等に生きるためには大切なことです」
キーユもアユムも釈然としませんでしたが、タイカに促されて新しい住まいへと行きました。
羊の街の街並は、どこも同じような形をしています。
ビルもみんな同じ高さ同じ形。歩く人も同じ羊・・・。
そして、羊の姿で無い三人は、ひどく異質な感じがします。
街の人も三人を、警戒しています。三人は、とても居辛い気持ちに苛まれました。
三人の新しい家は、閑静な住宅街にあるのですが、家を探すのにとても苦労しました。
なぜなら、みんな同じ形の家ばかりが立ち並ぶからです。
やっとのことで、家に辿り着くと三人は、疲れてそうそうに眠りにつきました。
明日からは、新しい仕事が待っています。
おやすみなさい。
次の日の朝。
三人は、朝早くから出かける準備をします。
外へ出るためには、例のスーツを着なくては、いけません。
三人は、恐る恐るスーツを着てみると不思議なことが起こりました。
スーツは、みるみる三人それぞれにピッタリの大きさになり、途端にその姿を羊に変えてしまったのです。
これには、三人とも大慌てです。
急いでスーツを脱ぐと、元の姿に戻れましたし、スーツも元の大きさになっていました。
「なるほど、みんな同じ姿だから容姿での差別は無いってことか。ミスコンなど容姿差別だもんな」
タイカは、一人で納得してそそくさとスーツを着込んで羊の姿になって仕事へ出かけました。
キーユとアユムは、なにかおかしいと感じていました。
しかし、具体的にどうだという訳ではないので、スーツを着込んでタイカの後を追いました。
「何なのよ、これは一体・・・」
キーユが呆れています、アユムに至っては、あんぐり口を開いています。
とても大きなフロアの中で、沢山の同じ姿の羊が同じ仕事をしています。
二人とも仕方なく用意された自分の机に向かって仕事を始めます。
お昼の時間になりました。
三人ともお腹がぺこぺこなので、食堂に急いで行きました。
アユムが言います。
「僕は、ハンバーグがいいな」
それを受けてキーユが吠えます。
「何言ってんの!仕事してる時は、餃子かカツ丼って決まってんのよ」
かなり片寄った思想に、男の子二人は苦笑いです。
「ふざけんじゃないわよ!」
キーユの怒声が食堂に響き渡ります。
「料理が一種類しかないって、どう言うことなのよ!切り刻むわよ!」
今にも、係りの人に飛びかかりそうなキーユをアユムは、羽交い締めにして必死に止めました。
タイカが少し小馬鹿にしたように、キーユを諭します。
「ばかだな、色んな料理があれば貧富の差によって食べられる物が違ってきてしまうだろう?平等って事さ」
その日、一日中キーユは、不機嫌でした。
そして、三人は同じ金額の日当を貰い家に帰りました。
それから数日、同じような日が続きました。
同じ時間に仕事に行って、同じ時間に家に帰る。仕事場の食堂も、街のレストランも同じ味の同じ料理。
すべてが同じような生活にキーユもアユムも辟易していました。
しかし、救われることもありました。
ある日、一人の羊が声をかけてきました。
彼は、名をアパスと名乗りました。
彼は、初日のキーユの大立ち回りを見て興味を持ったらしいのです。初めてワクワクしたと嬉しいそうでした。
それから、毎日彼と一緒に昼食を食べるのが日課になりました。
彼は、羊の中では珍しく色んなことに興味を持っていました。
特にキーユは、彼の人柄が気に入っていました。アパスも彼女に一番興味がありそうでした。
アユムは、そんな二人を見る時間が、一日の中で一番好きでした。
それ以外は、どんなに仕事をがんばっても報われることは無い、ただ、同じ仕事量を求められる。
面白みのない毎日です。
ただ、タイカだけは、この街が気に行った様でした。
皆が平等だと、秩序に守られた街だと喜んでいました。
ある日、事件が起きました。
一人の羊が羊スーツを脱ぎ捨てました。アパスの姿を見たのは、これが初めてです。
強い決意と優しさが伝わる顔だちです。
無機質な職場にあって、彼は唯一まともに見えました。
彼は、歌を歌いたいと両親らしい羊に訴えています。
親羊は、オロオロするばかりです。なにか様子がおかしいです。
彼は、歌を歌い始めました。
とても綺麗で、心を震わすような歌声です。
彼は、沢山の羊に取り囲まれました、しかし、歌うのを止めません。
そして、どこかへと連れていかれてしまいました。
それ以来、この街で彼の姿を見ることは二度とありませんでした。
家では、キーユが泣いていました。
彼女は、あの時、アパスを助けようと飛び出そうとしました。
しかし、タイカに止められました。
タイカの意見は、秩序を乱したのだから罰せられるのは当然ということです。
それに、飛び出していったキーユも、ただでは済まなかったでしょう。
キーユも、タイカが正しいことは分かっています。
しかし、心の何処かで許せない、譲れない想いが消えません。
キーユは、その日、涙が止まりませんでした。
この日から、三人の関係はギクシャクしていきました。
キーユは、タイカがどうしても許せませんでした。
アユムは、毎日が息苦しくて心の病気になりそうでした。
タイカは、少しずつ秩序に順応できない二人を疎ましく思うようになりました。
タイカは、思っていました。
彼らのような人が、人を差別するのだと。違うことを賞賛する人たちが、違うことを材料に差別するんだと。
「ねえ、アユム。もうこの街を出よう?タイカも変わっちゃたし・・・」
「うん。ここは僕らには辛いよ・・・」
「そうだね。私も。今でも歌声が聞こえてきそうだもん」
「タイカには、内緒で行こう。置き手紙をしていこう」
「うん」
そうして、キーユとアユムは、荷物をまとめると置き手紙をして羊の街を出て行きました。
羊の街を出る時、門の裏に掲げられている言葉に初めて気がつきました。
『外に、安住も安寧も無い。内にこそ秩序はある』
「ずいぶん傲慢ね」
キーユは、笑って駆け出して行きました。
アユムが慌てて後を追います。が、転びました。