僕の天敵はプードル!
私の弟は可愛すぎる!
僕は、三歳のお肉がだーい好きなお子ちゃまである。あ、大切なことが抜けていた。とってもプリティなお子ちゃまである。
僕の名前をつけたのは、下のお姉ちゃん。どうやら、鎌倉時代にいた歴史上の人物から名付けたんだって。でも、その子は幼くして死んじゃってお母さんが縁起悪いって怒ってた。僕は、気に入っているよ?だって、僕の可愛い容姿にあった可愛い名前なのだから。
僕がもう少し幼い時、僕は多分人生の最高潮にいたんだと思う。会う人、会う人僕のことを可愛い可愛いと褒めちぎって大好きなお菓子をくれた。お姉ちゃんとお母さんは、あなたは可愛いんだから知らない人には警戒しなさいよ、といつも言ってきて可愛い僕はちゃんとそれを守っている。
僕は、みんなのアイドルなんだ。
その時、僕は本気でそう思っていた。あとで、それがとんでもない誤解だとは知らずに。
ある日のことだった。
お姉ちゃんがいつものように、ドタバタと大きな音を出して帰ってくる。お姉ちゃんは、帰ってきた途端僕の名前を叫んで抱きついてくるから、今日もそうなんだろうと身構えていたんだ。
「ただいまーー!!! 」
そう言ってリビングに入ってきたお姉ちゃんに、僕はやれやれと立ち上がる。ただ、待っているより迎えにいってあげた方がお姉ちゃんは喜ぶのだ。僕のことが好きすぎてちょっとしつこいお姉ちゃん。だけど、僕だってお姉ちゃんのことが大好きだ。だから、お姉ちゃんを喜ばせたい。
「おかえり」
僕がトコトコ歩いて行くと、お姉ちゃんは僕の方に向かっていって横を通り過ぎた。
え……。
お姉ちゃん、僕はここだよ!!
僕が見えなくなったように、行動するお姉ちゃんに僕はパニックになって何度も僕の存在を主張するけど見向きもされない。
我慢ならなくて、お姉ちゃんの手を叩いたら存外に、僕を見もしないで「後でね」と適当な返事をする。こんな扱いを受けたことは初めてだった。
「お姉ちゃんは、僕が一番でしょ!?」
必死に叫んでも、お姉ちゃんの返事はおざなりで。お姉ちゃんはこたつと言う暖かい、お母さん曰く人を駄目にする道具に足を入れたお母さんの元へドシドシと走って行った。
「お母さん、見て!! おばあちゃん家、飼ったんだって」
「えーー! 本当!? 」
何を言っているか分からないが、取り敢えず二人は盛り上がっていて。僕は、初めてのこんな酷い扱いに不貞腐れてソファの上に座る。
そうしているうちに、暖房の暖かい風にうとうとしているとお母さんとお姉ちゃんが突然、コートを着て外に行く準備をしだした。
僕は、外出が大好きだ。二人が出かけるときは、必ずと言っていいほどついて行くから、勿論その時も付いて行こうと眠いのを堪えて立ち上がった。
すると、そうなるのを見据えていたようにお姉ちゃんが僕に聞いてきた。
「おばあちゃん家行くけど行く?」
おばあちゃん家!
それは、僕の別荘だ。おばあちゃん家では、お母さんのお姉ちゃんとおばあちゃんが僕を甘やかして、大好きなお菓子をくれる。つい最近出来たと言う家は、とても綺麗でリビングも広いから僕は転げ回って遊んだものだ。
そんなわけで、僕はおばあちゃんが大好きだ。
意気揚々とお姉ちゃんに付いていき、車に乗り込んだ。僕は楽しみで楽しみでならなくて、お姉ちゃんたちも楽しそうにるんるんしている。
「お邪魔しまーす」
「ほら、見て見て!」
おばあちゃん家に着いても、いつも僕に飛びついてくるはずのお母さんのお姉ちゃんが玄関に迎えに来ない。僕はさっきから感じる僕の扱いの雑さに、一抹の危機感を感じリビングに行けば、皆んなが小さいダンボールを覗き込んで、可愛い可愛いと言っている。
そんなだらしない顔で可愛い可愛いと愛でる相手は僕でしょ?
あと、僕はいいけど僕を可愛がる時の顔は、出来る予定はないけど恋人に見せない方がいいよ。きっと100年の恋も冷めちゃうから。
「皆んな、僕が来たよ。僕だよ?ねぇ、なにをみてるの?」
「あー!いらっしゃい!見て見て、今日からこの子が家族になったのよ」
そう言って、お母さんのお姉ちゃんはダンボールから出したそれをお盆にした両手に乗せて僕に見せる。
「うわぁ!!」
「この子は、奈々ちゃんって言うの。仲良くしてやってね」
そこには、赤茶色でもじもじゃした四足歩行の生物がいた。頭と胴体が同じくらいの大きさで、胴体の上にあるもっこりとした部分はしっぽ? その生物は、何を考えているか分からず、表情がない。でも、小さくて小さくて、僕が叩いたら死んでしまいそうな大きさだから怖くて近寄れもしない。
「えっ、えっ、何こいつ!?」
驚いた僕にお姉ちゃんは、にっこりと幸せそうな顔で言う。
「プードルの赤ちゃんだよ。何、そんなにビビってんの?まだ赤ちゃんなんだから優しくしてあげなね」
赤ちゃん!?
プードルの!?
僕は、改めて自分の身体を見直した。全身を覆うシルクのような白い毛、でもそれだけでは無くてアクセントのように耳には茶色く染まっている。触り心地は、まるでベルベット。抱っこ犬と言われヨーロッパの貴族の間で飼われていた由緒正しき高貴なわんこ、そう、僕はマルチーズ。
くるりんと丸まった尻尾に、大きなまぁるい瞳。足はちょっと短いけど、可愛いぬいぐるみだって手足は短い。だから足が短い僕はキュートなのだ!
だが、しかーし!!
プードルといえば、飼い主人気ナンバーワンのウルトラわんこだ。元の身分は水中回収犬、鳥獣猟犬。……ふっふっふっ僕と違って野蛮だ。
プードルという突如現れた敵に、僕は水を切るように身体をブルブル震わせた。これは、武者震いだ。こいつは、あまりにも強力な敵だ。
それに、人間は赤ちゃんが大好きだから、今はこのプードルばっかり構うだろう。だけど、そのうち僕の可愛さで目を覚ますはず!
きゅんきゅん鳴く突然現れた僕のライバルは、確かに可愛い。でも、僕だって負けないんだから。そう、僕の別荘にあいつが現れてから僕の戦いは始まった。
「お姉ちゃん、お母さん今日も行くの!?」
お昼の間何処かへ行ってしまうお姉ちゃんとお母さん。僕は、その間お昼寝して二人が帰ってくるのをまだかまだかと待っているのだけれど。最近の二人は、帰ってきて僕に抱きついたと思ったらすぐに離れて、僕の遊び相手もせずに、おばあちゃん家に行こうとする。
全ては、あのプードルを構うために。
僕は、納得がいかない。
お気に入りのプープー音がなるキリンのおもちゃを投げて、と要求しても一向に答えてはくれないし、ちゃんと僕を愛でてもいない。その状態であいつの元に向かうなんて間違っている!僕は、この家のアイドルなのに!!
「おかしい!おかしい!ひどい!ひどい!僕のことも構ってよ!!」
あんまりにも悔しくて喚いたら、お母さんに「うるさい」と叱られてしまうから僕はもっと嫌な気持ちになって、喚き回った。
「じゃあ、茶々丸も行く?」
「行く!」
本当はあいつのいるところなんかに行きたくはない。でも、うちで一人残されるよりはましだ。僕は、お姉ちゃんに抱っこされて、おばあちゃん家に向かう。
そして、僕は唖然とした。
僕の別荘が、あの憎きプードルのためにカスタマイズされているのだ!僕が来た時には何も変わらなかったのに……
これは、目の前のお肉をドヤ顔でお姉ちゃんに食べられた時と同じような屈辱と敗北感を感じた。腹いせとマーキングを兼ねておしっこをカーペットの上でしたらお母さんにめちゃくちゃ怒られた。おかしい。奈々がしてもあまり怒らないのに!!
あいつだけ特別扱いしている!
僕は、雪辱を誓う。
こうして、あいつは僕のライバルから天敵となったのだ。
そして、現在に至る。
「ちゃちゃまる!!」
僕の天敵、奈々は僕より大きく育った。
「ちゃちゃまる!あちょぼ!あちょぼ!あたちとあそぼ」
プードル独特の長い足と運動能力で、僕の首をがっしりと掴んで僕を振り回す奈々は、いつも元気だ。やめて欲しくて堪らないのに、奈々は僕を離さないし、お母さんたちは辛そうな僕の姿を見て笑っている。
「やめろよ、僕は静かにしたいんだ」
「あちょぼあちょぼ。あたち、プロレスごっこちたいの!!」
プロレスなんて大嫌いだ。僕は、プープーなるオモチャは好きだけど犬同士の雑なじゃれあいは好きじゃない。そのプープーなるオモチャだって僕が最初に持っていたやつを奈々は横取りするし。僕は、大人しくいたいんだ。そう思ってじゃれてかかる奈々の腕を必死に取ろうとするけど、何せ体格が違う。
僕が、長い奈々の手足と格闘していると、お姉ちゃんとお母さんは、いつも持っている四角い板を僕らに向けた。
「やばー!可愛い!もっとじゃれて!」
「ムービー撮ろう!ムービー」
誰もあてにならない。だから、僕はじっと我慢することにした。僕の方がお兄ちゃんだから我慢。
「あちょぼ!」
我慢。
「あちょぼ!」
我慢。
「あちょぼ!」
がまん。
「あちょぼ!」
がま……
「あちょぼ!」
「うわーーー!!!!!!!」
ついに、堪忍袋の尾が切れた。僕がいつまでも大人しい男だと思うなよ。牙を剥き出しにし、飛びかかれば奈々つぶらな瞳をパチクリさせてフリーズした。流石に恐怖心はあるらしい。
「僕だって怒るんだぞ!」
「……」
もう一度威嚇すれば、奈々はシュンとしてお母さんのお姉ちゃんのところへ行く。
「やった!僕の勝利だ!!」
勝利宣言をする。
僕は、内心喜んだ。尻尾を揺らすほどの喜びではないが、嬉しいことに変わりはない。お姉ちゃんたちが見れば僕がいかにドヤ顔しているか分かるだろう。そうだ。お姉ちゃんたちも僕が打ち勝った様子を見て……
!!??
お姉ちゃん達は、悲しそうな顔をしながら怒っていた。
「ごめんね。茶々丸が凶暴で。せっかく奈々ちゃんが仲良くしてくてたのに」
「そうだよ。茶々丸、駄目でしょ?ワンワン言っちゃ」
え?
え?
え?
なんで僕が悪者なの!?
だって、僕だっていっぱい我慢して。我慢して。我慢したよ?
でも、確かにお姉ちゃん達から見たら遊んでいる間に急に怒ったように見えてしまうのかもしれない。そうすれば、被害者はあいつになってしまう。それで、僕は悪者。奈々の好感度が上がって、僕の好感度が下がる!
あいつ、馬鹿なくせにそんな作戦を建てるなんて!
こうして、僕の奈々へのヘイトがひとつ増えて、その二分後落ち込みから回復した奈々にまた襲われ、ヘイトがまたひとつ増える僕であった。
でも、本心で言うとあいつが嫌いなわけではない。ただ、僕より構われるのが赦せないのだ。
僕の天敵はプードル。
いつか絶対にお前をギャフンと言わせて見せるんだから!!
「ちゃちゃまる!!」
奈々が僕に飛びつく。
「あーもー、お前は僕に構わなくていいの!!」