エンドロール
ゲーム内容はふんわり設定。
天主=プレーヤー
我ら=キャラクター
遥か遥か昔。
とある国の山里にて。
ひらり、ひらり。
舞い散る花弁が薄紅色に視界を染める。
『・・・、み・・な・さん・・』
ぐずるような声は天主が・・・。
始りは神託だった。
天主はこの山里に屋敷を作り、神託を授けた戦う者を、薬師を、鍛冶師を集め。
屋敷内の諸事のためと式神を遣わし。
厄神討伐に向け、少しずつ力を蓄えた。
思い起こせば、小煩い天主だった。
誰かがかすり傷ひとつ負えば撤収。
-かすり傷を負った隊員の口から魂が出かかった-
ちょっと苦戦すれば、戦略的撤退。
-出陣隊員全員で呆けていたら屋敷に戻っていた-
天薬の在庫が8割を切れば、最終攻略直前でも撤収。
-薬師の目が据わった-
思い起こせば優しい天主だった。
雑魚狩りを嬉々として命じ。
-おかげで里の周りはいたく平和になった-
隊の誰一人とて余すことなく育て。
-おかげで厄神相手の戦闘が一撃で終わった-
敵大将を勝ち取る度に盛大なお祝いとしていそいそと宴の準備をし。
-おかげで屋敷の式神達が料理上手になった-
誰かの位階が上がるたび、その者にあう武具防具をこっそりと枕元にひそませ。
-おかげで装備自慢が出陣前の定例行事になった-
そしていつからか。
出陣し強い敵に当たる度、
『ひょぇー・・』
と力が抜けそうになる天主の悲鳴を背に、隊員同士互いに補い合い負傷を避けるようになり。
新しい戦場に向かう度、
『みてくるだけで帰ろう、うんうん』
との天主の呟きに、斥候役が白目を剥きながら鍛錬に鍛錬を重ね短時間でも持ち帰る情報量を増やし。
誰かが負傷する度、
『ひーっ、く、薬、くすりーっ』
と全回復するまで投薬し続けることを知った薬師が目の下に隈を作りながら最上級の天薬を精製するようになり。
武具防具が破損する度、
『親方ーっ、さーせん、さーせんっ、うちの戦略がまずくて、こんな傷がぁぁぁ』
とぐずぐず泣きながら謝る天主の声に鍛冶師の棟梁が鬼気迫る表情で武具防具に付加が付くような手入れをするようになり。
里の子供が雑魚討伐のお礼を届けに来る度、
『ありがとねー、あ、待って待って、お駄賃お駄賃』と甘味を持たせ。
勝利を手にする度、
『うぅ・・よかったよぅ・・』と鼻をすすり。
帰還する度に、
『みんな ただいまー!出陣のみんなもお疲れー!』と嬉し気に声を弾ませ。
そしていつの間にか、出陣部隊の帰還時には屋敷中の連中が転移門に何気なさを装いつつ集まり帰還部隊を迎え怒涛の宴会が開かれるようになった。
心配性で、暢気で、涙もろく、声しか聞こえぬ、姿かたちの見えぬ我が天主。
長い月日を共にし、厄神討伐が終わった今宵。
いつものように宴会で騒ぎながら、みな天主の神命が全うされたと感じていた。
どことなく緊張感が漂い、皆の言葉少なくなった時。
「桜が・・・」
庭に植えられていた桜の大樹が淡く光り、瞬く間に満開に咲き誇った。
誰もがその光景に魅入られひらり、ひらりと庭の桜の花弁が舞う様を呆然と見つめる中、ひとひらの花弁がふわりと浮かび、部屋の中を漂っていく。
配膳をしていた式神の前でくるりと舞い、-式神達は笑顔で見送り泣き崩れた-
居住いただした薬師の前でふわりと揺れ、-薬師達はゆっくりと平伏した-
酒を酌み交わしていた鍛冶師達の前でゆらりと漂い、-鍛冶師達は俯き肩を震わせ、棟梁は天井を見上げきつく目を瞑った-
そして我らのもとへひらりと。
隊の最年少のやんちゃ坊主が泣きながら唇を尖らせた。
弓隊の隊長が困ったように眉尻を下げ俯いた。
斥候役の忍びが小さく唇を噛み目を伏せた。
盾役を任される偉丈夫が静かに頷いた。
特攻隊長を自負する強面の男が切りあがった眦を潤ませた。
十数人の戦う者である我ら一人一人にあたかも挨拶するかのようにひらりひらりと。
そして最後に。
我の目の前でひらりと舞う花弁。
『あ、ありがどうぅう・・、いっづも頼っでばがりで、役立だずの天主でごめんん・・・、ほ、ほんとにありがどう・・ござい・・まじだ』
既に聞きなれたと思っていた天主のぐずぐず声に、それでもこみ上げる涙はこらえきれず頬に一筋流れた。
皆の前を舞い漂ったそのひとひらが「天主様に」と用意されていた上座の敷物にぽとりと落ちた時。
時は満ちたとばかりに、庭の桜の満開の花弁が花嵐のように舞い散った。
『・・・、み・・な・ざん・・』
皆が見つめる薄紅色に染まったその先で、今まで顕現することのなかった天主がその顔に泣き笑いの表情を浮かべこちらを見つめているのが朧げに見え隠れする。
「・・・、主殿っ」
たまらず叫び身を乗り出そうとするも誰一人とて動かぬ身体に、焦りだけがつのる。
もう終わりなら、伝えたいだけなのだ。
屋敷の連中と笑いあったありきたりな時間も、戦場での命のやり取りすらも、主殿と、皆と過ごした年月がたまらなく大切に思えると。
できることなら、このまま、と。
何一つ言葉にならないまま縋るように見つめた先、天主が深く深く万感の想いを込めたようにその頭を下げるのが見えた。
あぁ・・・、本当に、これで。
『・・・、あり、がどう・・ございまじだ・・、まだ、いづか・・・』
頭を上げ、ぐずぐずの声で、ぼろぼろと涙をながしたまま天主、我らが主殿は不器用に笑った。
「・・主殿っ」
「・・・あるじっ」
ようやく動くようになった身体で、みなが駆け出し、手を伸ばし、叫ぶが、主殿を取り巻く花弁は渦巻くようにさらに舞散り、主殿の姿は薄紅色の花の中に消えていった。
ふわり、ふわりと、天に舞い上がっていく花弁から、
ひらり、ひらりと、泣き崩れる皆の手にひとひらづつ花弁が舞い落ちる。
『・・また、いつか・・』
そっと花弁を握れば、主殿の言葉がよみがえる。
・・・主殿。
また、いつか、共に・・。
続きそうですが、今のところ続きません。