[藤尾]
俺はすこぶる良い気分だった。
目の前では、高梨が顔色を失って震えている。心底俺を恐れている。
奴は、俺のことを本当の超能力者だと思っているのだろう。最初はそんな存在は信じないと言っていたが、その信念もぐらついているようだ。おそらくは雨の降る深夜に古びた洋館という禍々しい雰囲気、そして俺の真に迫った話し方に釣り込まれたのだろう。
それらの効果の程は当初の狙い通りだった。日取りも時間も場所も、すべてはこのため──高梨に最大の恐怖を与えてやるために念入りに計算したものだった。
そして俺の作戦の一番の要は、スキー旅行の時に起きた奇跡の体験だった。
あの体験は確かに見ようによっては超能力の類にも思えたが、そんな非合理的な結論は受け入れられない。俺は最終的にはあれは偶然の岩の自壊と結論付けていた。
おそらく積もった雪や、地表や山肌との摩擦、そして岩の自重や重力などのさまざまな条件が重なってあのタイミングで岩の強度が限界を迎えたのだろう。絶対にあり得ない話ではない。
しかし、極めて珍しい話であることもまた確かだ。高梨は俺と同じくあの現象を間近で見た一人──俺があれを自分の仕業であるかのように言えば、簡単に否定することはできない。奴の目にはきっと、俺が恐ろしい存在に映っているのだろう。自分の行いを後悔してもいるはずだ。
高梨は今、俺から何をされるか本気で恐怖している。話の最初に奴自身に確認させたのが効いているのだ──超能力者と対峙した時、一般人に生き延びる術はないと。
もういいだろう。
高梨の怯えた顔を拝むことが出来て、十分溜飲は下がった。
そろそろ、種明かしの頃合いだ。
俺は立ち上がり、手を広げた。高梨がびくりと肩を震わせる。
「なあんちゃっ──」