顔がない
「貴方、なんで死んだんですか?」
もう何度も顔を合わせていた男から唐突に質問されたとき。
俺は何も思い出せなかった。
「お前と俺は違う──。」
「オマエハサイテイダ!」
違う、俺は教会の利益のために。
『兄さん。今日は一緒に食べてくれるよね?』
もう一人でも過ごせるだろ。
『兄貴。大変なら言ってくれよ。』
『兄貴……。』
煩い。
構うな。
俺は、お前の為に。
「オマエハイツニナッタラ顔ヲヲ見ル!!」
俺は見てる。
「違ウ!オマエハ!オマエノ中ノ理想ヲ勝手ニ現実ダト思イ込ンデルダケダ!」
言ってる意味がわからないよシュンフォイ。
俺は教会の為にアイツ等を殺して、
教会の為に人々を捧げて、
教会の為に……
俺は、
俺は……。
俺は教会の利益のために全てをかけてきた。
家族も友達も棄てて、
笑顔も幸せも金も家も棄てて、
夢も希望も憧れも棄てて、
なのに、
なのに、
この手に残っているものはなんだ?
荒れ果てた教会の祭壇で、
マキャベリックは手袋を嵌めた両手を眺めて冷えた瞳をしていた。
黒。
黒は嫌いだ。
まるで俺のようで。
いや、
俺はこれでいい。
これでいいんだ。
アイツのことも、
アイツのことも、
……あの子のことも、
忘れればいい。
忘れればいいのに。
マキャベリックはまた、自らの腕に杭を突き刺した。
この痛みがあれば忘れられる。
あのとき、あの人が教えてくれたのだ。
俺には何もいらない。
俺は教会の利益のために。
俺は何もかも棄てる。
何もかも捧げる。
「俺はお前等とは違うんだ。」




