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不穏な帰り道

今回も読んでいただきありがとうございます!

 



 五月中旬に入り、外の気候も段々暖かくなってきた。

 そんなポカポカ陽気の午後三時。

 美彩は今日用事があり先に帰ってしまったため不在。

 一人で学生寮までの道のりをゆっくり歩いていると、見覚えのある人を目の前に見つけて思わず声を出してしまう。



「は、羽崎!」



 その人は振り返ってこちらを見る。

 一度会っただけなのに顔は鮮明に覚えている。

 起こった出来事が結構印象に残ることだったからだろうか。

 雷狼、そして綴音の欠片(チップ)を操る選ばれし者(エンペラー)の一人、羽崎 光矢だ。



「あ、西宮か」



 親しい感じに名前を呼ぶが、決してそうではない。

 会ったのは一度のみ。

 それに私に悪い印象を与えているというのに、何事も無いように話す。

 どういう神経をしているのだろうか。



「『あ、西宮か』じゃない!この前は良くも」


「え、何のこと?」



 私が怒った表情で言うと、羽崎はすっとぼけた表情で言葉を返してくる。

 尚更、私は腹を立て声を荒らげる。



「あんたが寮のベランダ壊したせいで反省文書かされたんだけど!」


「なんでお前が書かされてんだ?」


「そんなこと知るか〜!」



 怒声が空に響き渡る。

 近くを通る人々がこちらを見ているのに気付いて私は顔を赤くする。

 私と羽崎は、並んで学生寮へと歩き出す。


 なぜ壊した本人ではなく、私が反省文をかかされたかというと、新澤先生が面倒くさがり屋であるからだ。

 先生あるまじき態度は、本当に慎んでもらいたい。



「そうそう。二枚目貰ったか?」



 何事もなかったかのように別の話題を羽崎は振る。

 私は再び腹を立て険しい表情をする。

 すると、羽崎は後ろに二、三歩下がった。

 私は歩くのをやめて振り返り、羽崎に強い口調で話す。



「なんで私が二枚目を貰ったと知っているのよ!」


「いや、知ってるものだと……」



 私の大きな声に対して、羽崎は聞こえるか聞こえないか微妙なくらいの声量で話す。

 少し申し訳そうに話す羽崎を見て、私は呆れてため息をついた。



「あんたね……。知ってたのならあの時教えなさいよ。何も言わずに姿消して……」


「悪ぃ悪ぃ。友達とゲームする約束してて、遅刻しそうでな」



 羽崎は両手を合わせて謝罪する。

 用があるなら言ってから行けよ、と心の中で呟く。

 これ以上怒っても仕方ないので許すことにした。



「まったく……。今回は許してあげるけど、次からはないからね……」



 羽崎は私の横に戻り、再び歩調を合わせる。



「実力至上主義制度なんてものを掲げているんだ。いつでもかかってこいよ。相手してやる」


「って、普通に話してるけどあんたは私に対して敵対心とかそういうのはないの?」



 親しい友達のように私は普通に話していたが、羽崎も普通に話してくる。

 この前は挨拶とか言って攻撃までしてきたのに、どういうことなのだろうか。



「ないよ。今は」



 とても真剣な面持ちで、羽崎はそう言う。

 それに合わせて私も真剣な表情になる。



「今は、ってどういうこと?」


「まだ知らないみたいだな。でも知らない方が幸せか……」



 独り言のように羽崎は言う。


 帰り道も後半。

 さっきまでは住宅ばかりだった周りも、次第に店が多くなってきた。

 それに連れ、帰宅ついでに買い物を済ませようとする人達が多くいて、人の声がたくさんするようになった。

 その声が私たちの会話の中に入り込んでくる。


 だがそんな声を私、恐らく羽崎も完全に遮断してお互い会話に集中している。



「一体何のこと?ちゃんと話してよ」


「友達思いのお前には、ちとショックな話だからな。それにこの話は信憑性が低い。だから言わないでおく」



 羽崎は真剣な表情から、少し暗い表情になった。

 友達思いにはショックな話とは一体どういうものなのだろうか。

 気になって仕方がなかった。



「ちょっと……。そんなこと聞いてしまえば気になってしまうでしょ?」


「俺はお前に気を遣って話そうとしていないんだ。だから有難く聞かなかったことにしておけ」



 真剣に話していることから考えて、本当に私のことを心配しているようだ。

 これ以上は深く追求しない方がいいのだろうか。

 でも気になることがあれば、また快眠を妨げられてしまう。

 だから微妙な気持ちになった。



「で、でも……」


「じゃ、そういうことだ。俺は遊ぶ約束してるから急ぐわ」



 さっきまでの声の調子になった羽崎は、小走りで私より五歩前に出てこちらを振り返る。



「ちょっ……」


「じゃあな!」



 呼び止めようとしたが全速力で走っていったのでやめた。


 私は再び一人になって学生寮に向かった。




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