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十六話 魔女の使い魔

 キアラがブロンゾの本拠地へ帰って。

 彼女の顔を見ない事にも慣れつつある日の事だった。


 不意に、彼女の助けを求める声が聞こえた。

 お守りを介した救援である。


 それに気付いた私は、椅子から立ち上がった。

 その反動で、椅子が倒れる。


「ベルベット様?」


 唐突な行動に、ゲオルグが私の名を呼ぶ。


「キアラが助けを呼んでる」


 私は短く答えると、召喚の魔法陣を発動した。

 行き先は、キアラの持っているお守りに仕込んだ魔法陣に直結している。


 だから、この魔法陣を発動させるだけで、キアラの所へ一瞬でワープできる。

 発動すると瞬時に、私はキアラのいる場所へ召喚された。


「デュワ!」


 するとそこは視界の少し高い場所であり、ざっと周囲を見渡すと広場にみっしりと人が詰まっていた。

 あまりにも多い人々の注目を浴びて、少しビビる。


「えー、どういう状況……。ああ、だいたいわかった」


 問いかけながらキアラを見ると、彼女は杭に体を括り付けられた状態だった。

 彼女の周囲には藁が詰まれ、しかも既に火が点いている。


 どこからどう見ても大ピンチである。

 どういう経緯かわからないが、彼女は火刑にかけられようとしているのだろう。


 こうなる前にもう少し早く呼んでもよかったと思うんだけど……。


 まぁいいや。

 間に合ったし。


 魔法で火の点いた藁を吹き飛ばす。


「さて」


 私を捕らえようと駆け寄ってくる兵士を召喚した拳で殴り飛ばす。


 そして大出力の体内電気を周囲へ発した。

 狙いを定めない、威嚇のためのものだ。


 雷光と轟音に、人々は怯えを見せる。

 うずくまる者、そのまま立ちすくむ者、と反応はさまざまだ。


 私は少しばかり腹が立っている。

 友人をこんな目に合わされたのだ。

 それも当然だろう。


 少しばかり、怖い目に合ってもらう。


「我が名はベルベット! スターリの辺境に住まう、森の魔女! ベルベットだ! 我が友キアラを害するならば、この雷光の餌食となると心得よ!」


 歌舞伎のように大見得を切り、私は声を張り上げた。

 そして、キアラの拘束を解く。

 魔法で身体強化して彼女を抱き上げると、そのまま空へ飛ぶ。


 そうして私はキアラを助け出した。




「それで、何があったの?」


 家に帰る途中、キアラは意識を失った。

 それから彼女は二日ほど眠り続け、少し前に起きた所だ。


 ゲルハルト老の時には作らなかったが、結局彼女のためにベッドを作る事になった。


 普段は丁寧に撫で付けられた髪の毛が乱れており、いつもと印象が違う。

 まるで野生児の様だ。


 そんな彼女にお粥を振る舞い、それを食べ終わったタイミングで私は問いかけた。


「うーん、どう言っていいのか……。権力闘争の駆け引きに使われたというのが正しいか」


 キアラは肝心な所をぼかしてそう答えたが、多分その原因は私を見逃して帰ったからだろう。

 はっきり言わないのは、私を気遣っての事だ。


「これからどうするんだ?」


 そして逆に問われる。


「どうするとは?」

「本拠地に魔女の侵入を許し、しかも罪人を奪われたのだ。ブロンゾ聖堂会はこの屈辱を雪ごうとするだろう」

「ここに攻めてくるって?」


 問い返すと、キアラは頷いた。


「まぁ、何とかするよ。何とかできなかったら逃げればいいし」


 そう答えて、私は部屋を出た。


「というわけで、家が動けるように改造しようと思います」


 私はゲオルグにキアラとの会話を伝えてからそう告げた。

 彼の眉根が寄せられ、眉間に皺が刻まれる。


 多少の動揺があったようだ。


「つまり、早々に逃げるという事でしょうか」

「いや、とりあえず準備しておくだけだよ。正直に言えば、ここは居心地がいいから離れたくない。でも、ブロンゾの報復に対処できなければすぐに逃げなくちゃいけないから」

「かしこまりました。しかし、何故家ごと?」

「十年以上も一つ所で暮らせば、持ち物も増えるもの。そのどれも捨てたくないからね」


 家ごと移動すれば持って行く物の取捨選択も必要ない。

 あと、動く家というのは何かロマンがある。


 城じゃなくていい。家でいいのだ。

 若人さんボイスの火の悪魔などいないから、動力は私自身になるだろうが。


 などと思っていた時だ。

 森に入る人物を感じた。


 見てみると、私の弟ルドルフだった。

 私はゲオルグにお茶の準備をさせ、彼が家に辿り着くのを待った。


「姉上、大変です!」


 ルドルフはノックもなく家へ入り込み、開口早々に緊迫した声で言う。


「どうしました?」

「ブロンゾ聖堂会の聖騎士団が姉上の討伐に向かっているそうです」


 おお、もう向かってるのか。

 行動が早い。


 ルドルフがそれを知っているという事は、部隊が国境を越える事についてスターリに了解を求めたという事だな。

 そして、それを伝えに来たという事は、すでに許可は出されている。


「戦力の規模はわかる?」

「聖騎士団の規模は、全体で一万前後だと言われています」

「びっくりするぐらい多いね」


 以前の王子様とは桁が違う。


「これがただの兵士なら、私は心配しません」


 そうなの?

 一万ってかなりの数だよ?

 もう抵抗せずに逃げようかと思うほどの数字だよ。


剛竜ドラゴンを単独で倒せる姉上を相手に、一万では少な過ぎます。それより重要なのは、これが全員聖騎士だという事です」


 そう言われて考えが至ったのは、キアラの存在だ。

 一万人のキアラか。

 正直、いまいちどう大変なのか実感が沸かない。


 ……みんなめっちゃしつこいのかな。

 あと、お酒好きとか……。

 友達になれそうだ。


 戦いが終わった後は大宴会だな。


「何故、ニヤニヤしているんですか? 聖騎士は魔女の力を弱らせる力を持っているのですよ。姉上にとって天敵ではないですか!」


 そう言われて私は困惑する。

 弱体化された覚えなどない。

 多分、聖印の力についての話なのだろうが、どういうわけかあれは私に効かない。


 とはいえ、わざわざ私を心配してここまで来てくれた弟の気持ちは素直に嬉しい。


「わかりました。でも、手に負えなければ、逃げるつもりなので大丈夫ですよ」

「なら、良いのですけれど……。行き場がなければ、城へお戻りになってください。誰にも文句は言わせません」

「ええ、ありがとう」




 ブロンゾの聖騎士団が到着したのは、弟が訪れた日から二日後の事だった。


 それは赤い空が……黒と混ざり合い始める時刻。

 逢魔が刻……。


 ある草原に聖騎士団が到着した時、私の方がそちらへと出向いた。

 村への被害が無いように、事前に察知するための魔法陣を仕掛けておいたのだ。


 この草原ならば、どれだけ激しい戦いになっても周囲の村に被害は出ないだろう。


「いたぞ! 魔女だ! 突撃隊形!」


 指揮官の声に、騎士達が隊形を変えていく。

 彼らの装備は、キアラと同じものだった。

 白銀色の鎧と槍、聖印の刻印された盾だ。


「突撃!」


 隊形が整うと、聖騎士団は私へ向けて突撃を開始した。

 赤いマントをはためかせて向かい来る様は実に壮観である。


 一万は、やっぱり多いね。

 視覚情報だけで気圧されそうだ。


 数は強いな。

 戦う前から、心が折れそうだ。


 なら、私も数を揃えようか。

 少し本気を出そう。


 聖騎士団の軍勢が目前まで迫る。

 その槍の切っ先が私へ届く前に、特大の召喚魔法陣を展開する。


 召喚魔法陣から拳が伸び、迫り来る聖騎士を数人殴り飛ばした。

 普段なら、この拳のみを召喚する。

 しかし、今回は違う。


 魔法陣から、のっそりと拳の主が姿を現す。

 蜘蛛の顔、六本の腕を持つ、身長二十メートル近い巨大な悪魔である。


 姿を現した悪魔が雄叫びを上げると、それに気圧されるように聖騎士達の足が止まった。

 見上げるばかりの巨体に驚愕を顔へ貼り付け、怖気からか駆け足が後じさりに変わる。


 でも、これで終わりじゃない。


 私は周囲に、いくつもの召喚魔法陣を展開する。

 その数、ざっと九十九。


 その全てから、様々な姿の悪魔が召喚される。

 合計百体の悪魔達が、私の前へ姿を現した。


「何だと! この数の悪魔は何だ!」


 丁度その時だった。

 赤い空が、完全な黒へと変わった。

 夜の闇が下りる。


 妖怪や鬼でない事が残念だが、これが私の百鬼夜行……。

 いや、百魔夜行だ。


「怯むな! 聖騎士団の気概を見せろ! 悪魔を相手にする事こそ、我らの本領だ!」


 指揮官の声で聖騎士達は再び、戦に挑む意欲を取り戻したようだ。

 槍と盾を構え、突撃してくる。


 なら、こっちも応戦しないとね。


「さぁ、悪魔達よ。私に力を見せて」


 私が声をかけると、悪魔達もまた聖騎士達へ襲い掛かった。


 それを迎え撃つように、聖騎士達は盾の聖印から光線を発する。

 幾体の悪魔がそれを受けたが、まるで意に介さぬように動きを止めず、聖騎士へ攻撃した。


「馬鹿な! 聖印が効かない!」


 まぁ、それはそうだろう。


 あれから、私は聖印や悪魔について調べてみた。

 本を読んだり、パブリチェンコ老にも話を聞きに行ったりした。


 それでわかった事がある。


 一般的な魔女は、自らの魔力で現世へ悪魔の肉体を作り、魂だけの存在に近い悪魔に実態を与えて召喚する。

 そして力を貸してもらう契約を行うのだ。


 それによって、魔女は悪魔の魔力を使って常人に行使し得ない魔法を扱う事ができるようになる。

 魔力による繋がりを持つ事で、悪魔自身も現世へ干渉しやすくなる。

 具体的に言えば、魔女を介して自分の魔力で好きな時に実体化できるようになるそうだ。


 そして悪魔は魔力の強さを重要視するらしい。

 悪魔にとって、魔力の差は絶対だ。

 自分より魔力量の多い者には、従うのだ。


 私に召喚された悪魔は、その殆どが私を一目見て臣従を誓った。


 つまり、私は悪魔達から力を得ているわけではない。

 皆、私が支配しているのだ。


 聖印が悪魔の力を弱らせるものであるならば、悪魔から力を間借りしているらしい一般的な魔女は弱体化させられてしまうだろう。


 だが、私には当てはまらない。


 私の召喚する悪魔達は自分の力で現世へ顕現しているのではなく、私の魔力によって現世へ顕現しているからだ。


 だから、この悪魔達の体は全て私の魔力で作られている。

 悪魔の力を弱体させる力の影響を受けるわけがない。


 などと思っている間に、悪魔達が聖騎士団を次々に倒していく。

 半数ほどの聖騎士達が倒れ伏し、もはや壊滅状態と言えるだろう。


 ちなみに、私の魔力で顕現されているので召喚というより私自身の放つ攻撃魔法に近いため、非殺傷設定が有効だったりする。


 悪魔達が、拳で叩き潰したり、爪で引き裂いたり、頭を噛み千切ったり、目だ! 耳だ! 鼻だ! と執拗に顔面を痛めつけたり、どんなえげつない攻撃をしようと相手は傷つかない。

 ただただ痛いだけである。


「うわあああぁっ!」

「来るな! 来るなぁ!」


 整っていた陣形は時間と共に崩れ、兵士達は戦意を失い、一方的な蹂躙から一帯は阿鼻叫喚の状況を呈していた。


 声を張り上げていた指揮官も、大暴れしていた蜘蛛の悪魔の暴威に巻き込まれて意識を失っている。


 もうこの事態を収拾できる者は聖騎士団になく、彼らは混乱の中で悪魔達に倒されていった。

 気付けば、戦場となった草原に立つのは百体の悪魔と私だけになっていた。


「正直不安だったけど、やってみるもんだ」


 私はそう呟くと、指を鳴らす。

 一瞬で、召喚した悪魔達が白い塵のようになって姿を消した。


 残るのは倒れる聖騎士団と帰路を歩む私だけだった。

 書いている時は気付きませんでしたが、蜘蛛の悪魔は那田蜘蛛山に出てきそうですね。

 ちなみにこの蜘蛛の悪魔、ドラゴンを倒した時に活躍した奴なのでドラゴンに匹敵する強さです。


 今回の召喚で使った総魔力量は、ベルベット全体の三割ほど。

 うち二割は蜘蛛の悪魔の召喚に費やしています。

 ベルベットの召喚する悪魔の中には、九割ほど魔力を食う奴もいるため実は今回かなりの低燃費です。


 次回、聖騎士編最終回です。

 また、しばしのお別れとなります。

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― 新着の感想 ―
[一言] こんだけ軽く使役できる魔力量で9割持ってかれる…かつ殆どは即従う中で刃向かったやつもいそう…。 つまりそれって魔王とか呼ばれる存在なのでは…?
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