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武州妖怪奇譚  作者: 尾崎 鈴
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下老袋のハバキ様

昔々、大宮の氷川様と下老袋の軍明神様が共に「我が一宮大明神!」と名乗り挙げ荒川を挟んで戦ったのさ。


大宮の氷川様がちょこっと強くて下老袋の神様は負けてしまったのよ。


兜も鎧もボロボロになって帰って着た神様は脚に残っていた脛布を椋に引っ掛けて社の奥にお隠れになりましたのさ。


負けた神様を可哀想に思った氏子は椋をハバキ様と敬い大事にしたのよ。


それから氏子達は毎年12月10日の大宮氷川神社の十日市には決して出掛けないとさ。




下老袋のハバキ様



「我こそが古来よりの軍明神」


「左様にございます」

 

「荒川の水神が奴に味方したのだ」


「左様にございます」


人の口には曖昧にしか残らないハバキ様は、自らも曖昧にしか記憶を辿れない。


「我は弓矢尽き致し方無く退いたのだ」


「左様にございます」


「我こそが軍明神…」


「酒を持って来させましょう」


ハバキ神は荒川の水神だ。


その昔、西の国からやって来て向こう岸に居着いた氷川様に退治されたのだ。


以来、この岸の荒川は穏やかとなり渡しが作られ宿町となった。


水害で悩まされていた村人は水神を敬い、また退治した氷川神を敬い畔に氷川神社を建てた。


氷川神は川越の中程に分社の氷川神社を建て、晴れて武蔵最強一宮となった。


それから氷川神社は鈴生りに増えて関東で氷川神社を知らぬものは居ない。


ハバキはアラハバキに通じるのだろう。


負けた神は物の怪になる所だが支配されたとはいえ神として奉られた事は、氷川神の慈悲なのかも知れない。


戦いを語るであろう豊作を祝う弓取り式や酒を好む水神に因んだ甘酒を振る舞う神事が今なおひっそりと伝えられている。


こうして愚痴を肴に酒を呑むハバキ神も穏やかなのは、神事を守る氏子の気持ちが穏やかだからなのだろう。


「野狐よ、故郷には帰らぬのか」


「そのうちに」


故郷には退治された側でも穏やかにいられる場所が有るのだろうか。


そもそも、故郷に己の存在が残って居るのだろうか。


「八幡神は息災か」


「見て来ましょうか」


八幡神とは隣近所に鎮座する八幡の神だ。


ハバキ神より後に来た神だから八幡神はハバキ神に一目置いている。同じ武神の神だが仲は悪くないのだ。


3日世話になったのち、ハバキ神の神酒を携え次は八幡に宿移り。



今宵の宿は古谷本郷の古尾谷八幡様。




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