桜の駅が語るとき
その夜、強い風が吹いた。
無人となった改札口で声がした。
「むかーし、むかし、この辺は桜がたくさん咲いてだな…」
「誰だっ」
あたりを見回してもいない、夜の無人駅。
「君に見せてあげよう、その時の姿を」
その声の主は、そう話した。
あたりの風景が一変した。昼の光景。
桜だ。
桜が線路沿いに咲いている。
それも満開だ。
「この辺は地元の人の隠れた花見場所だったのさ」
「知らないよ、こんな光景」
「若いからね君は」
そう、僕は最近ここに越してきたばかりなのだ。
「もう少し付き合ってもらおうか」
「その前にお前は誰だよ」
「駅だよ」
「駅がそんなことするわけないだろ」
「ふふっ。古い駅はこういうこともできるのさ」
場面が変わった。
自分のいる駅構内。
いやだいぶ違う。
駅員が何人かいる。
プラットホームの屋根がない。
いやプラットホームに待合室
木もプラットホーム植えてある。
きっぷ売り場と書かれたの奥に
なにか赤い機械がある
《デーン デーン デーン〉
「なんだあれは」
「タブレットの機械だよ」
「タブレットって端末だろ」
「いや、よく見るがいい、通票閉そく器だ」
場面が変わる。
なにやらその赤い機械から出てきた。
銅でできていて丸くて
真中が三角にくりぬいたものを
ショルダーバックみたいな鞄みたいのに入れて、
それで鉄の丸い輪のがついて肩にかけている。
「どうするの」
「タブレット交換だよ」
しばらくすると
電車ではなく
赤とクリームの2色に塗られた
2両の気動車がやってきた
上りと下りに止まった
「ほら、さっきの交換しているだろ」
「本当だ」
その輪のついたものを交換している。
「タブレットは鉄道の安全を司る通行手形なのさ」
場面が変わった
「こんなのも走っていたんだよ」
見たこともない車両だった
凸型の小さなディーゼルエンジンの機関車が
自動車を2段重ねの貨車で運んでいる
「えっ、こんなことしてたの」
「そう、昔はね。さて今夜はこの辺にしておこうか」
「もっと、もっと知りたいけど」
「いや、今日はここまで」
「そんな」
「鉄路がある限り、駅はみんなを見ているよ」
桜の花びらが目の前をふわりと横切った。
目の前にあるのだれもいない夜の改札口だった。




