第6話 「エッチぃことをするのです」
紫がかった長い髪の美少女が微笑んでいた。
身体の上にまたがった美少女は一糸まとわぬ姿。その豊満な胸を揺らし、あどけないその顔に妖艶な笑みを浮かべた。
『ねえ、またこうして会えたんだし……いっぱい、いぃっぱい、いいことしようね』
(誰?)
知っているような知らないような――もやもやした思考。美少女は口元を歪めた。
『またそうやって冷たくするのね。……でも身体は正直よね』
槙矢は困惑した。だが身体は、柔らかな肌が肌と重なり、温かく、包み込んでいくような感覚に身を任せる。じんわり、だが直後に全身を快感が駆け巡った。
『時間はたっぷりあるわ。……たっぷりね……フフフ』
がらんどうの瞳。少女の目つきで槙矢は悟る。こいつはヤる気だ。
直後に、絶頂がきた。
「うわあああああっ!」
槙矢は飛び起きる。ベッドの上。全身に汗をかいたのか、下着がべとついた。息が荒い。悪い夢を見ていたような気がする。
場所は召喚されたときにいた部屋だった。元の世界の自分の部屋だったらよかったのに、と思いつつ、部屋を出たときに比べて日用品が持ち込まれていることに気づいた。そもそもこの部屋にはベッドすらなかったのだが、いまはそのベッドの上にいる。
「マスター」
唐突な声に、槙矢はびっくりした。青髪メイドが無表情にただずんでいる。
「おはようございます」
「お、おはよう」
いきなりの挨拶。槙矢は面食らう。
「ひどい夢を見ていたのですか、マスター」
「夢……いやにリアルだった」
槙矢は悩む。夢の中で、美少女とチョメチョメをしていたような気がする。本来、そんな夢を見たら気分がよくなるものだが、何故かいまは頭が重く感じた。
「なんかひたすら口ではいえない事ばかりしていた気がする……」
「何を、とはあえて聞きません」
ヘイゼルは立ち上がると部屋のカーテンを開けた。
「マスターが眠っている間に衣服を数着揃えておきました。下着をお換えください……夢魔の女王との久しぶりのアレは楽しかったでしょうか」
淡々とメイドさんは聞いてきた。まるですべてを見通しているようだった。槙矢は憂鬱になる。
(夢魔の女王……あぁ、あれがリィリスだったのか……?)
変な話を聞いたために見た夢だと思いたかった。夢魔の女王と夢のなかでエロいことをしていたなどと認めたくない。だが股間が妙に生暖かい。
(……出したのか、俺は)
途端に情けない気分になった。ベッドから降り、用意された下着をとる。ヘイゼルは背を向けていた。
「俺はどうなったんだ? 確か……リリナさんと食事をしていて」
そのあと気を失った。食べ物に何か入っていたのだろうか。
「丸一日、眠っていたんですよ、マスター」
ヘイゼルは告げた。槙矢は驚く。
「一日!? そんなに」
「おそらく魔力を消費したせいでしょう。アグレス殿に聞きましたが、ユリカの魔法封じを解除する以外にも魔法を何度か使われたとか」
「確かに使ったけど……」
槙矢は下着を替え、上着をとる。
「気を失うほどなのかな。何か突然、ふらっときたんだけど」
「魔力は肉体と精神、双方の力が必要です。集中力が途切れるように……消耗すれば意識を失うこともあります」
「そんなものなの?」
「そういうものです」
ヘイゼルは振り返った。槙矢は着替えを終えていた。
「マスター、ご予定がないようでしたら――私が相手を務めますが」
「相手? 何の?」
意味がわからず聞き返せば、ヘイゼルは人形さながらの無表情で言った。
「召喚が不完全だったのか、マスターの魔力がかなり低下しているようです。その補充をかねて、私の肉体を提供して魔力を捧げたいと思うのですが」
「……つまり?」
やはり何を言いたいのかわからなかった。槙矢の問いに、ヘイゼルは答えた。
「エッチぃことをするのです」
「なんだ、とっ!?」
槙矢はうろたえてしまう。青髪の美しいメイドさんと、え、エッチなことをするなんて言われたら……。
「どうされたのですか、マスター? こんなことはいつものことではありませんか?」
「いやいや、俺は、そんな、やったことないから!」
思わず後ずさる槙矢。ヘイゼルは小首をかしげた。
「記憶が混乱されているのですね。私はマスターが必要な時に、魔力を供給できるように準備しているメイゼ・マシュカですから。エッチぃことは役目の一つです」
「いや、そう言われても」
動揺する槙矢とは対照的に、あくまでヘイゼルは表情を崩さない。
「ただ魔力を供給するだけではありませんか。そのついでにマスターを気持ちよくさせるだけです。……そんなに腰を引かれても」
「ま、魔力の供給って? それとエッチなこととどう関係が?」
聞いてみれば、メイドさんは答えた。
「わざわざ口に出せと……だいぶ記憶が戻られたのでは。お答えします。相手の身体に触れて、接吻して――身体を重ねるのです。精のつながりは強力な魔力のつながりです」
「せっ……せっ……」
言葉にならなかった。身体を重ねるとは、男と女がアレをするということだろう。あの豊かな胸に、スタイルのいい体、美しい顔立ち――そんな素敵なお姉さんと、する、なんて……。
ヘイゼルは魔法人形だと言っていたが――人形とエッチするのはちょっと寂しい気もする――彼女は本物の人間にしか見えなかった。だから槙矢は頭の中が真っ白になる。
「すんません、俺、童貞なんです!」
「つまり、『俺様は何もしないから、お前が奉仕して俺様を悦ばせろ、この人形が』ということですね、承知しました」
メイドエプロンを外そうとするヘイゼル。槙矢はいよいよパニックに陥った。
そのとき部屋の戸が開いた。やってきたのはヘイゼルの相方、赤毛の少年レオだった。
「あ。シンヤさん、お目覚めになられましたか。おはようございます」
「お、おはよう、レオ」
槙矢は、救いの神の到来とばかりに拝みたい気分だった。レオはそんな槙矢と、脱ぎかけのヘイゼルを交互に見やり、ニコリとした。
「ああ、お邪魔したようですね、申し訳ありません、シンヤさん。出直します」
「いや! ここにいてくれ! ちょうどいいところにきてくれた!」
何とか引き止めねば、メイドさんに襲われる。……いや、それも悪くないかもしれないけど、心の準備というものが――
「3○をご希望でしたか。それはまた空気が読めずに申し訳ありません。僕も脱ぎますから――」
「違うっ! つか、脱ぐな! お前ら!」
「えぇ、違うんですか」
「なに爽やかに、残念そうな顔するんだよ! ヘイゼルもそれ以上脱が……うわっ、でっけえ胸……じゃなくて、服を着る! とりあえずご飯! すべてはそれからっ!」
鼻血が出そうになったが、槙矢はこらえる。ヘイゼルのおっきなお胸様にはそれだけの迫力があった。
次話、明日更新予定。時間は……いつにしよう。とりあえず夜。