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第3話 シーンヤーの華麗なる女性遍歴

「まず名前から聞かせてもらおうかな」

「はい、マスター。私はヘイゼル。古くよりあなたに仕え、時にお守りし、常にお世話をさせていただいている者です」

 深い青色の髪の美女が名乗った。ふくよかな胸もと、女性らしいなだらかでありながらスマートな腰回り。メリハリの利いた理想的なスタイルである。黒のワンピにフリル付きの白いエプロン、青い髪にはヘッドドレス――メイドさんがそこにいた。

(生メイドさん、初めて見た!)

 二次元でしか見たことのないメイドさんに、心揺さぶられる槙矢である。

 ヘイゼルの隣で、赤毛の少年が礼儀正しく頭を下げた。

「同じくレオです」

 十二、三歳といったところか。黒に赤いものが混じる不思議な髪色をしている。スポーティなデザインの服に短パン姿。元気で溌剌とした雰囲気の子だ。

「久しぶりですね、シンヤさん。名前を忘れられてしまうほどでしょうか」

 おお、初めてシーンヤーではなく名前で呼ばれた。……ってちょっと待て。

「君、俺と会ったことがあるのか?」

「お戯れを。……あなたが数々の女性を堕とし、弄んだのをこの目で見ている程度には近い関係です」

 子どもの口からとは思えない言葉がすらすらと出てきた。槙矢は面食らう。

「なに、その外道! 俺そんなことしたことない」

「またまたご冗談を。それとも覚えておく価値すらなくて忘れられているのですかシンヤさん」

 レオが言うと、平然と青髪の美女メイド、ヘイゼルが頷いた。

「あなたの女性遍歴は、それこそ神クラスです。女たらしぶりでは、全能の神と双璧を成す存在です」

「神様と同格かよ! つか女たらしっておい!」

 槙矢は眉をひそめる。ヘイゼルは無表情で告げた。

「マスターの華麗なるスルースキルが、何だかしゃくなので遍歴ばらしますね」

「癪って……って、スルーしたか、俺? それに女性遍歴って、俺はいままで彼女いない……」

 言ってて悲しくなった。ヘイゼルの金色の瞳が生暖かいものに変わった気がした。

「彼女はいないかもしれません。ですが愛人とか奴隷とか大勢」

「はい?」

「西方悪魔軍の大悪魔と名高いシフェル嬢は、あなた様の愛人です」

「誰?」

「明星と謳われる大変美しい堕天使です。西方悪魔軍筆頭にして、西では有名な悪魔です」

「悪魔の癖に光モノが好きな変わり者。あの女すら愛人とは……さすがシーンヤー閣下」

 アグレスが褒め称えた。

「いや、愛人持ってるってだけで尊敬されるのってどうなの……?」

「その昔、西方悪魔軍と南方地獄軍団は争っていましたが、それを収めたのはマスター、あなたです」

 ヘイゼルが、文章を読み上げるような淡々とした口調で告げた。

「悪魔同士の戦いを収めたあなたは、西方悪魔軍はもちろん、南方地獄軍団からも一目おかれています。……そうですねアグレス殿」

「そのとおり!」

 ゴールデンレトリバーは、心なしか胸を張ったようだった。

「我輩が、『閣下』とお呼びするのも、そうした経緯があるゆえでございます」

「そうだったのか」

 アグレスの態度に少し納得する槙矢。もっとも自分がそんな敬われる存在であることに関しては、いまだ疑いが晴れていないが。

「話を続けます、マスター。世界最古の売女……失礼『夢魔の女王』リィリスも、あなたの愛人でした」

売女って――この人は毒舌家だ。槙矢は口元を引きつらせる。

「夢魔の女王?」

「人の精を食らうサキュバスの女王です」

 サキュバス――それを聞き、色っぽいエロ姉ちゃんの姿が脳裏をよぎった。アニメとかではそんな感じで描かれている悪魔だか妖怪だった気がする。

「世界最古っていうのは?」

「星書にある最初の人間、アダーム」

(アダムのこと?)

「それの最初の女性がリィリスでした」

「最初の女性はイヴでは?」

「イヴ? イフでは」

 ヘイゼルに指摘された。考えてみれば、ここは異世界。元の世界と似ているような気がしても違うのだ。

「そのイフが最初なのでは?」

「アダームはバツイチで、イフと結ばれました。ですが最初の女性はリィリスなのです。ただあまりに肉欲に忠実だったためにアダームに嫌われ、捨てられました。それが元で、リィリスは悪魔に堕ちたのです」

「……」

 槙矢は頭の中にある一つの疑念を、恐る恐る聞いてみる。

「シーンヤーは、そのリィリスと関係を?」

「愛人でしたからね」

「過去形?」

「ええ、あまりに美しいリィリスの虜にならない者などいません。あなたも喜び勇んで彼女とくんづほぐれつしていたのですが、あまりに彼女がしつこく……その、望んでおられたのを疎ましくなり……マスターは彼女を夢幻の世界に追放されたのです」

「シーンヤーすげえ、夢幻の世界? 追放って」

「……あなたですが、マスター」

 ヘイゼルは淡々と告げる。

(どう考えても俺と別人だろ……)

 槙矢は閉口する。

「要するに積極的過ぎるのも考えものだったわけです。まあ、おかげで、彼女の犠牲になる者がいなくなったのは幸か不幸か」

 ヘイゼルが無表情に言えば、レオが口を開いた。

「ただ時々、リィリスは夢の世界から介入して精を奪っていくみたいですけどね。……シンヤさんも経験ないですか。夢の中でとびっきりの美女が真っ裸で現れて、口ではいえないあんなことやこんなことをした経験は。そして起きたら、股間のあれから精液が出てたことは」

「夢精……というやつですか」

 槙矢は目を棒にする。レオは少年らしい笑みを浮かべる。

「夢でもしつこく追いかけられているわけですね。女性というのは怖い生き物だ」

 そしてこの少年は、ドSか――槙矢が黙れば、ヘイゼルが口を開いた。

「まだありますが、続けますか?」

「もう結構」

 槙矢は首を横に振った。何だか無性に疲れてきた。考えてみれば、あまりに突拍子が無さ過ぎる。

 何故、悪魔の親分的存在なのだ?

 何故、愛人を何人も持っているようなお下劣悪魔なのか。

 どう考えたって、自分のキャラではない。そもそも悪魔なんて、元の世界では想像上の存在でしかない。

「とりあえず、君たちは俺の使い魔、ということでいいのかな?」

「はい、マスター」

 ヘイゼルは頷いた。

「君たちも悪魔?」

「いえ、私たちはメイゼ・マシュカ――魔法人形です」

(なんだよ、魔法人形って)

 槙矢はため息をつく。そこへ突然、部屋の扉が開いた。

「……もういいでしょ! いったいいつまで待たせる気よ!」

 赤毛の少女、ユリカが苛立ちも露わにやってきた。悪魔やら何やらに構っていたので忘れていた。元はと言えば、この少女が諸悪の根源である。

「って……どちらさん?」

 青毛のメイドさん、赤毛の少年――ユリカは目を丸くした。

 槙矢はヘイゼルに視線を向けた。

「俺の代わりに説明してくれると助かるんですが……何かもう疲れた」

「承知しました、マスター」

 青毛のメイドは頷いた。

「それとマスター、私たちに敬語は不要です」


次話、明日20時半ごろ更新予定です。

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