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白き侍/黒き侍3

 すっかり寒くなってしまった夜の街の中で、天領白鶴は佇んでいた。隣には同じ対面グループ「白夜隊」であり白鶴の友人、多々羅(たたら)二之助にのすけが同じように建物に背を預け立っている。

 多々羅二之助。女だというのにまるで男のような名前。どうも彼女の親は娘にそう育って欲しかったらしく、幼少期は剣道を学ばされとある道場で白鶴と多々羅は出会った。


 しかし、成長するにつれて彼女の人生は少女としての生活に方向が傾いていき、結果。多々羅は普通の女子高生に戻った。……筈だった。


 ある日、突然に対面グループ「白夜隊」が出来てしまい、多々羅は白鶴の補佐として白夜隊の幹部となってしまったのだ。


「いや、すまんな」


「んー?」


「巻き込んでしまって」


 申し訳なさそうな表情で多々羅に侘びを入れる白鶴。白鶴が「白金鬼族」の「白銀雄也」を倒したという知名度を持ってしまったせいで、幼少時代共に切磋琢磨した多々羅の名が引きずり出され、やむを得なく。多々羅は再び、対面の場に身を投じる事になってしまった。


 本人からしたらいい迷惑のはずだ。一度は退しりぞいた道なのだから。しかし、多々羅は嫌な顔をしない。


「別に。昔を思い出してお前と一緒に居るのも楽しいもんよ。卿と並べば最早、敵無し!……ってね」


「はは、それは助かる」


 白鶴は腕が立つほうだ。レートは貫禄のA。数多く居る能力者の中でも強いほうの部類。そして多々羅はBレート。可もなく不可もなく、中途半端な立ち位置。

 しかし、多々羅もひと度剣を握れば、その腕前は滅法強い。能力をガン無視してもその才能は眼を見張るものがあり、能力が回復系統の「ヒーリング」なのが特に悔やまれた。能力が身体強化系統なら、白鶴を超えて「天下取り」の才能があったと言われるレベルで。


 けれど、それは生まれ持った才能。それを悔やんでも、仕方なく。それより、多々羅は白鶴が心配だった。


「……最近、焦ってる?」


「……まあのう。「聖夜祭」まであと二週間ばかりしかない。しかして、私は私なりの答えというものを見つけられていない。今のまま戦えば確実に負けるだろうな」


 白鶴が自身に出した厳しい結論。分かっているのだ。今のままでは、Sレートに及ばないという事が。兵法に頼れば、格上を崩す事も叶わなくはない。それこそ、白銀雄也を倒した時のように。


 戈を止めると書いて、武。武とは卑怯な物、弱者が強者をくだすためのもの。それでいい。しかし、それをずっと続かせるというのは難しい。それはまるで綱渡りのように。今のまま勝ち越すというのは、運否天賦のようなもので。


 足りないのは、実力。地力。たかだか「Aレート」如きが「Sレート」に連戦連勝するというのは夢物語に近くて、白鶴はそんな自分に「進化」を求めていた。

 あれをすればこう勝てる、こう動けばこう勝てる。……そんな御託を並べて唸るより、もっと確かな力。圧倒的な力。そんな力を求めていて。そしてその答えは未だ、出ない。


「いいんじゃない?」


「え?」


 あれよこれよと悩む白鶴に対して、多々羅はあっさりと答えた。


「だから、負けてもさ」


「……負ける?」


 白鶴は首を傾げる。


「うん。だってさ、二年後も五大祭はあるよ。別に今年優勝しなくちゃいけないって訳じゃないでしょ。だったらさ、めんどくさい事考えずに普通に行けばいいんじゃないかな?負けたら負けた、勝ったら勝ったで」


「ほう……」


 多々羅は続ける。白鶴はその言葉を聞いてみる。


「誰かが勝つってことは、誰かが負けるって事。絶対に「勝つ」なんてありえないんだからさ。二択な訳じゃん。じゃあ、負けてもいいんじゃないかな」


 確かにそうだ。その通りだ。自分が勝つとは、他の誰かが負けることで。他の誰かが勝つという事は、自分が負ける事で。


 なるほど当たり前である。当然とは、すぐ近くにあるからこそ気付きにくい。灯台下暗し、単純な答えこそ眼前に転がっていて。

 そんな単純な「理屈」にさえ気付かなかった。……のだが。


「……まあ、ものの考えだな。少なくとも某はまだ、勝ちたい」


 しかして、そんな御託で収まっていいのだろうか。多分、駄目な気がした。今の私は勝ちに飢えている。なんというか、勝ちたいのだ。

 人より上だって、強いんだぞって、凄いんだぞって。勝ちたい。それは若気の至りでしかないのだろう。しかし、今の私を突き動かすには十分な物で。今はその感情論で動きたい。


 認めたくないんだ、自分より強い奴が居るって事を。先に進みたいんだ、自分が出来るって証明の為に。


「それならそれでいいんじゃない?ぶっちゃけ、私がとやかく言う話でも無い気がするし。それはもう白鶴が満足行くまでやって、挫折するか乗り越えるかの話になるからね」


 多々羅は壁から背を起こすと、白鶴に背を向けて歩き出した。


「五大祭、私は白鶴を応援しているから」


 去りゆく背中を見送る白鶴。多々羅の言うことはごもっともで、間違っていなければ嫌味ったらしくもなく、一人の若者としては至極正論であり的を得ていた。しかし。


 すまんな、私は私の感情に身を任せたいのだ……。


 人の感情とは人に諭されて簡単に変わってしまうものではない。ましてやプログラミングを施された機械でなく、「そういう考え方もあるのだろう、けれど私は違う」という答えで簡単に結論づいてしまうものだ。


 人の話を聞くというのは簡単だ。しかし、それを理解して飲み込むというのはまた別の話であって。それが長年連れ添った友の言葉であっても、受け入れないことは多々ある。実の親の言葉にさえ、反論する年だ。故に「思春期」。それは、人が自我を形成する上で大事な時期。考える葦の為の、心の成長期。


 今の白鶴はそれだ。分かっちゃいるけどやめられない。そういう理屈。だが、人間ならそれでいいのだ。迷い考えることにこそ意味が有る。


 白鶴は自己嫌悪しつつ、その場に居座る。不出来な自分を落ち着かせるために。未熟な自分を育てるために。


 ……一人とは、静かなものだな……


「よう」


 ふと、声をかけられた。白鶴はその方向を向く。そこには、見たことのある青年が居た。


「……けいか」


 岡本光輝。星姫が惚れ込んでいるという、少年。その理由は分からないが、白鶴には密かな自信がある。それは、この少年が「強者」だという事。


 握手した時に感じた、手のひらのマメ。それは一朝一夕でなく、確かに戦った者の証。


「空いてるか?」


「ああ。対面か?」


「よくわかったな。その通りだ」


 しかし、これは奇遇。冗談で言ってみたつもりだったが、まさかのそのとおりだったとは。白鶴の頬には笑みが浮かぶ。


「なんつーのかな。アンタと対面してみたくなった」


 以前はやる気が無いと言われたが、これは好都合。一度、手合わせしてみたかった者だ。


 白鶴は鞘から「オービタル・ノブナガ」を抜く。殺傷能力の無い模造刀。しかし、対面でなら十分。


 対する岡本光輝は一振りの黒い「特殊警棒」を取り出す。なるほど、機能美という点では模造刀にも勝る武具だ。リーチは模造刀に少しだけ劣る、か。それ故の取り回しやすさもあるのだが。


 分かっている。目の前の少年は立ち合いというものを分かっている。それは嬉しいことだ。


「では、いざ」


「尋常に。対面――」


「「開始ファイッ!!」」


 そして、二人は踏み込み、目の前で――すり抜け、またひと度見合って剣撃が衝突した。お互いの開幕の動きは、奇しくも同じ歩法「絶影」。忍の技術を取り入れた、侍の型。


 なんと――


 やっぱり――


 二人は思っただろう。目の前の人物の立ち回り、その型。


 ――面白いッ!!


 向かい合う二人の「侍」。ゆめうつつたぐまれなり、二人はまさかの「同門」だった。

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