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白き侍/黒き侍

ハクー。アンタ最近、対面グループ作ったの?」


 授業が終わり学校からの下校途中、一宮星姫は天領白鶴に問いかけた。


「作った、というか、出来ていた、というか……」


 白鶴のその言葉は間違っていない。気がついたら出来ていた。「白夜隊」は意図的に作られた物では無い。成り行きの産物だった。


「ふーん……」


 星姫は空を見上げる。そこには既に黒い翳りが。この時期になると、夜が訪れるのがめっぽう早い。その分、星が長い間見れて星姫はそれが好きだ。


「まあ、アンタが楽しいなら良いわ。どうせなら五大祭も取りに行っちゃえば?」


 五大祭。幾多数多もの強者が集う場所、無類の対面好き達によるビッグイベント。勿論、白鶴もそれを意識していた。


「ああ、是非とも」


 白鶴は星姫に憧れている。彼女みたいに、強くなりたい。

 白鶴は挑む。迫る五大祭の一つ、「聖夜祭」。決戦に向けて自己を高める!――


――「素手が剣より弱い時代など、とうの昔の御伽噺だ!」


 頭をスキンヘッドに丸くした、お寺のお坊さんのような青年。能力は腕の強化、といったところだろうか。拳を主体としたバトルスタイルから見て取れる。

 特段と強いわけではない。しかし、間合いの取り方、駆け引き、気合い、どれもが普通のそれより格段に上。総じて「立ち回り」が巧い。


 御陸みろく歩牛ほうし、Bレート。白鶴が彼に感じた物は、静かな「覇気」。まるで修行僧。静と動を使い分ける者。


 剣と拳の応酬、歩牛は白鶴の剣撃を数ミリ単位で拳でずらし、その追撃を狙ってくる。一撃一撃が確かに重く、手数もあり、フェイントに混ぜられた渾身の一撃は「極一刀流」で身体強化されていると言えど受けたくはない。


 間違いない、手練。これは、戦ってきた者の拳だ……!


ぜん――」


 歩牛は一度息を吐くと両の拳を背後に回し、息をすぅっと急激に吸い込む。瞬時、動きが止まった。


 チャンス?


 白鶴の一瞬の思考。焦りから来る希望論。 


 違う、これは――


 直ぐにその考えを捨て去る。その構えが、一体何を意味するのか。


 ――危険だ!


「――たっ!!」


 次の瞬間には、白鶴の体は吹っ飛んでいた。体制は崩さない。刀で相手の拳を「半分」防いだからだ。しかし、残りの「三発」の拳をボディにモロに食らった。


「……陸式ろくしき阿修羅あしゅら


 同時に放たれた、計六発の拳の連打。いや、連打というレベルの話じゃない。機関銃マシンガンというより散弾銃ショットガン。一発の一撃は正拳程の重さに達せずど、その総計の瞬間威力が肉体に与えたダメージは深刻だった。


 意識が飛びかける。歯を食いしばる。すんでで意識が繋がる。浮いた脚が地に降り着く。


 嗚呼、痛い。辛い。苦しい。なんで私はここまでして立っているんだろう。なんの為に立っているんだろう。


 白鶴は大きく開脚し、両足を地に据えて這わせるように。模造刀オービタル・ノブナガは下段に構え、大地と水平に歩牛へと向ける。真っ直ぐへと進むという事を約束した、「牙刀」の構え。それはまるで、猛獣の牙のように。


「……鬼羅きら一刀閃いっとうせん、星の輝きは瞬く間に」


 歩牛が追い打ちをかけてくる。刀が届く距離。まだだ、有効範囲じゃない。白鶴は敵の喉仏を牙で掻っ切る一時を待つ。この一撃は、正真正銘最後の一撃。これで倒れないなら私の負け、これで倒れたなら私の勝ちだ。


 白鶴が立つ理由。別に崇高な理由を掲げる訳じゃない。そこに正当性などなく、「強くなりたい」、ただそれだけで。


 強いて言うなら、それは――意地。若気の至り。「戦って勝つ」、ただの暴走した感情論。


 くだらない?しょうもない?だが、それでいい。だからこんなにも楽しいんじゃないか!


「――禅!」


 歩牛が踏み込む。彼の有効間合い、刀が活きない「筈」の領域。白鶴のデッドゾーン。


 だからこそ、人は油断する。「有り得ない」を覆す。それが、逆転を産む。


「人の世は星の輝きにひとしくみじかけり」


 白鶴はこれまでで最大の「殺意」を放つ。瞬時、歩牛は拳を放つ。人間が恐怖を感じた時の条件反射、白鶴はそれを利用した。


 フェイント。「間合い」において、それは最大限に生きる。逃げられない位置の敵はなすすべなく反射、結果「取るべきではない」行動を「取ってしまう」。人という存在がすべからく持つ、心があるからこその弱点。


 白鶴は落とした腰を摺り足と忍び足の併合歩法「絶影」で動かし、歩牛の横を歩く。歩牛はまだ反応出来ない。白鶴は下段に構えた刀を一気に上段に構える。これで最後だ。


 白鶴は刀を上から下へと振り抜いた。なんとか振り向いた歩牛は「腕の強化」で固めた両腕で頭部をガード。「極一刀流」により振り抜かれた模造刀オービタル・ノブナガの一閃は、しかし無慈悲にその防御を貫いて歩牛を地にねじ伏せた。決着だ。


「ぐがッッ……!」


「故にい。それ夢幻ゆめまぼろしごとくなり。秘剣「兜割かぶとわり」」


 白鶴は挑む。戦う、闘う。そうすれば何かが見えるかもしれない。強くなるための何かが、見えてくるかもしれない!――


――イクシーズ西区、船着場。海岸沿いの遊歩道、夜天の下で二人の少女が見合っていた。他には誰も居ない。波が堤防を打つ音が響く。


「対面に次ぐ対面、噂は常々聞いている。君の躍進は眼を見張るものがあるよ。だから君に興味をいだいた。……夜の船着場、ここなら人も来ないだろう」


 ストレッチジーンズにシャツ、その上から薄手の白い上着。ラフなスタイルだ。中性的で凛々しく美麗な顔立ち、東洋人らしい美しく長い黒髪。表情には柔らかな笑み。その様は「神々しく」ある。


「貴女に此処で逢えた事、只々感謝をしたい。そして、此処で――貴女に勝つ」


 黒髪をポニーテールに結った、白い羽織袴に身を包んだ張り詰めた顔の少女、天領白鶴。彼女はその手に握った模造刀を目の前の少女、瀧シエルに向けた。


「人は進化する。人生とは毎日が勉強だ。立ち止まる事は許されず、それは死を意味する」


 シエルは両の腕を大げさに横に広げた。それはまるで、天使が翼を広げるかのように。


「挑めや少女。君の目の前にあるそれは世界最大の「不浄理」だ」


 二つ名「聖天士」、イクシーズ最強の異名を持つ「瀧シエル」。彼女に勝つ、何が何でも!――


――白鶴は刀を杖にしてその場に立つ。息を切らし、顔を引きつらせる。満身創痍。


「君は強いね。ここまで強いとさすがの私も嬉しくなる」


 対するシエル、無傷。息も乱れず、その顔から笑みは消えない。


 格が違う。そうとしか言い様がない。攻撃を当てるとか、防ぐとか、駆け引きだとか、そういう次元じゃない。「無理」なのだ。


「ははっ、それは嬉しいな……」


 彼女が「最強」と呼ばれる理由を垣間見た。これが不浄理、これが瀧シエル。どうあがいても勝てやしない。事実、白鶴の刀は一度たりともシエルに届かなかった。


「まあ、まだ空は広がっている。夜にせよ、朝にせよ。その空には無限の可能性がある。いいかい、諦めなければ可能性は可能性のままだ。0%は決して無く、人がそこに居る以上「絶対」は無い」


 シエルは白鶴に背を向ける。追いかける事も出来やしない。その場に立っているだけで、精一杯だ。


「君が諦めなければ、また私と戦う時が来るかもしれない。じゃあね、白鶴。君の名前は覚えたよ」


 シエルはその場から姿を消す。その幕を皮切りに、白鶴は地に倒れふした。文句なしの決着だった。

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