表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/152

キャンプ・ダイブ・アサルトシェイド2

 黒咲夜千代は今、体操服の状態で佇んでいた。周りは木々に囲まれ、あちこちにバンガローが並んでいる。場所は、イクシーズ外のキャンプ場。イクシーズにはキャンプ場が無いため校外学習のキャンプは外で行われるのだ。


 ……なぜこうなったんだろう。


 事は一週間前に遡る。岡本光輝とかいう野郎から受けた要求、同じ消灯係に選ばれたから体調を万全にしろ。


 夜千代は「サクラザカ」をの封印を解除したあと、異常な体調不良に襲われていた。食べ物が胃で消化されず、録に栄養補給ができない状態。その状態を、岡本光輝に治された。

 いや、というか、あの時は意識が朦朧としていたが覚えている。下着姿を見られ、腹部を触られ、胸元の近くを触られ、足の裏を触られた。……駄目だ、凄い、熱いものがこみ上げてくる。あの野郎をぶっ殺したい。乙女の体を弄びやがって。


 夜千代は少女だ。性格が最悪であれ、人並みの羞恥心がある。こともあろう事か、あの岡本光輝はそれを踏みにじった。対面でボコった事への報復だろうか。だからといって、あんなのは痴漢だ。婦女暴行だ。性犯罪者だ。


 だが、体が回復したのも事実なのである。その点では恩義を感じている。そんな黒咲は、とても曖昧な自意識に囚われていたのだった。

 そして今、ここにいる。実は、キャンプの事は忘れていた。岡本光輝から言われるまで、欠片も意識していなかった。来る気はなかった。だが、ここにいるのだ。岡本光輝に連れてこられた。くそ、めんどくさい。


 そんな岡本光輝はと言うと、すぐ近くで遊んでいた。


「光輝さん、キャンプですよ!キャンプ!わーい!」


 光輝と手を繋ぐ少女。確か学年主席のホリィ・ジェネシスだ。光輝とその少女は、手をつなぎ合いながら回る。


「ああ、そうだな。あっはっは……それ、遊んでこーい」


「わーい!」


 光輝が手を離すと同時にホリィは回転のまま遠心力で飛んでいった。


「コーちゃん……俺の、俺の愛する小説が先生に没収されてしまった!どうすればいい!?」


 今度は身長が低めの少年が光輝に泣きつく。私よりも身長が低いんじゃないか?と思ってしまうほどだ。目測156cm……くらいか?


「泣けば、いいんじゃないかな。先生も厳しいからな」


「チクショオォォォ!?」


 少年は顔を腕で覆いながら走り去っていった。五月蝿いなあ。


 今度は身長が高めで凛々しい少女が光輝の所へやってきた。アイツ地味に友達いるのな。


「やあ、岡本クン。今日も空が青いね」


「ああ、最高のキャンプ日和だ」


「木漏れ日が差すその世界は」


「まるで俺らの心を照らすように」


「私らの心は木々の隙間のように狭い」


「だが太陽はそれでもなお照らしていてくれる」


「「遥かなる光、それは救いなのだろう」」


 グッ、と拳を合わせる最弱と最強。意味がわからない。ってか、あれ瀧シエルじゃねーか。岡本光輝と仲が良かったのか。


 夜千代はそんな光景をただ見ていた。他にやることもない。他の人たちはワイワイと盛り上がっているが、そういう気分にもなれない。

 夜千代は椅子に座りボーッとしていた。その隣に、腰を下ろした人間がいる。嫌そうな顔でそっちを見てやる。岡本光輝だ。


「強姦罪で訴えるぞ医者ごっこの変態」


「傷害罪で訴えるぞ仮面ごっこの変態」


「「チッ」」


 互いに罵りあう。いや、最初に言ったのは夜千代だ。仮面の変態って……何気にコイツも根に持っているか。まあ殺しかけたししょうがないか。


「どうだ?体の調子は」


「お陰さまで全開。そんな事聞きに来たのか?」


「いや、気疲れで休みたいだけだ。お前がたまたまここに居たからしゃーなく聞いてやった」


「めんどくせー人種」


 光輝は割と本気で夜千代の体調を心配したのだろう。だが、二人の間にある壁が、お互いの言葉を歪ませる。

 まあ、これぐらいが丁度いいか。逆に表面上だけ取り繕うというのもめんどくさい。だったら、こっちのが断然楽だ。黒い言葉での罵り合い。それができるなら、気楽でいい。


「なあ、黒咲。青空は好きか」


「いや、大嫌いだ。曇天が好きだね」


「そうか。俺は好きだがな。あの雄大さ、お前にはわからんか」


「んだよそれ」


 駄目だ、岡本光輝という人種は似ているようで私と微妙に違う。そもそも、私は友達がいない。コイツには居る。


 ……羨ましい?


 夜千代の中で芽生えた何か。いや、何を考えているんだ、私は。同じ暗い人間に友達が居て、私には居ない。それが、羨ましい?


 いや、違うね。人間は一人で生きた方が絶対良い。気楽でいい。他人の事なんか、考えるだけ無駄だ。疲れるだけだ。


 夜千代は黙って座っている。光輝も黙って座っていた。他に話すことなんて無いだろう--


--「はい、では今から夏といえばこれ、肝試し大会を始めたいと思いまーす、はい皆さんいぇーい」


 壇上でカンニングペーパーを手に持ちながらやる気のない声で司会をする先生の呼びかけに、生徒達はいぇーい!と盛り上がる。いや、正確には盛り上げた、か。


 幾つかのプログラムが終わり、飯盒炊爨はんごうすいさんとかいうやる意味があるのか分からない面倒くさい過程を終えて夕食のカレーを食べ、夜。本日最後のプログラム、「肝試し大会」が始まろうとしていた。


 ひらけた場所に、1年生の全クラスが集まっている。壇上の先生が交代をし、司会が生徒会長の厚木血汐に変わった。厚木は3年生だが、どうやら生徒代表として引率に来ているらしい。本人も随分乗り気のようだ。


「ルールを説明させてもらう!開始地点から道なりに進んでいき、到着地点にあるフラッグを最初に手に入れた物が優勝者だ!優勝者には、イクシーズ内でどこでも使える商品券1万円分を贈呈する!」


 うおおおおお!!と湧き上がる生徒達。一万円。大金である。話をぼんやりと聞いていた黒咲もその言葉で少しやる気になる。1万円あれば、何か美味しいものでも食べれる。


 焼肉。焼肉が食べたい。


 ふと脳内で浮かんだ欲望。次の瞬間には、もう夜千代の脳内は優勝狙いただ一つしかなかった。黒咲だって年頃の少女である。焼肉を腹いっぱい食べたくなる時もあるのだ。


「なお、勿論のこと妨害はあるから気をつけるんだぞ!友情、努力、そして勝利!それが青春、それが肝試しだ!」


 話を終えると、厚木は壇上から降りていった。

 煮え立つ周囲。皆、優勝してやろうという心意気で一杯のようだ。はたして、これらを押しのけて優勝が出来るのか?私は、一人だ。他の奴らと違って皆で協力するなんてできない。


 いや、やってみせる。私になら出来る。私は天才だから。


 肝試し大会が始まる。スタート地点は人数が多いためクラス毎に用意された。

 ホイッスルが鳴り、皆が一斉に動き出す。夜千代はペース配分を気をつけて進む。妨害はある、とされた。だとしたら、無闇やたらに先走るのは頂けない。かといって遅れることのない、先頭より少し後ろ辺りが妥当か。


 木々が鬱蒼と茂る中、皆は懐中電灯を頼りに進む。他に明かりは木々の隙間を縫う月明かりしかない。何が飛び出してくるか。これはあくまで肝試しだ。


 先頭がふと、止まった。目の前には、何かが居るみたいだ。それは、死に装束で身を包んだ長い黒髪の……「男」だ。


「う~ら~め~し~や~」


 死に装束の上からでも分かるはち切れんばかりの胸筋、その開いてしまっている胸元から胸毛が見えている。体育教師の剛田ごうだ先生が口紅を塗りカツラを被って女装をしていた。


「ぶっふおぉ!?」


 先頭はその姿の衝撃に笑いを堪えきれず、転倒。何が起きたか遠巻きで理解できた夜千代は、目線をできるだけそちらの方へ向けずに横を走り去った。


 なつほど、確かに「怖い」。これが肝試しか、恐ろしい……っ!気がつかない内に、夜千代は楽しくなっていた。


 幾つかの妨害を通り越して、大広間に出る。周りを見渡すと、他の通路からやってきた別クラスの生徒たちが。


 なるほど、ここが合流地点か。問題は、ここから先を争って進まねばならないという事か……!


 だが、夜千代の予想は外れていた。先を見やると、一人の少女が闇の中で佇んでいた。懐中電灯が当てられる。白いカッターシャツに、赤いスカートの後ろ姿。背中には赤いランドセル、長い黒髪をなびかせている。有名な妖怪、トイレの「花子はなこ」風の姿だ。


「天使から残念なお知らせがある。そう、それは君たちにとって残酷な通知さ」


 少女は振り向く。その顔が誰かの懐中電灯に当てられた。その人物は「瀧シエル」だった。


「ゲームオーバーだ」


 どうやらこの化物を協力して倒せ、って事らしい……。


 夜千代はチッ、と軽く舌打ちをした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ