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エモーショナル・バウンサー17

 踏み込んで、殴る。


 暗闇に電撃が迸った。佐之の纏った電磁フィールドが、唸りを吠えて弾ける。佐之が仰け反った。


 深之介は握りこぶしを作って殴った。素手、だ。ビーム・ネイルは使えない。悪手かもしれない。けれど、今の自分には深く考えている余裕など無い。本能に促されるまま。それがシンパシーの制約。とりあえず、体が動く限り!!


「受け取ったというのか、私の意思を!」


 表情を悦楽に歪め、嬉しそうな顔の佐之。深之介は、あえて彼の能力を受け入れた。理由は、単純。彼を、殺すため。身体能力を強化する為に。


 下手をすれば精神汚染の結果、佐之の支配下になっただろう。けれど、そうならないという根拠の無い自信に賭けただけだ。結果、この場ではそれが功を成した。


「お前の意思は汲んじゃいない。断ち切るために理解しただけだ」


「構わん!!」


 佐之は押され気味の肉体を空中で立て直すと着地し、しっかりと足を地面に据え、再度前に進む。深之介との一騎打ち。


 電磁フィールドは絶対的な防御力を誇る。故の弱点……それを深之介は突いていた。佐之が展開するそれ、佐之を中心に広がるバリア。微動だにしないバリア……バリアを、殴って「吹っ飛ばす」。そうすれば、理論上佐野が「吹っ飛ぶ」。壊れないバリアに引っ張られて。


 けれど、それだけ。有効打になるとは言い難い。


 深之介はただただ殴る。拳から血が吹き出る。それがいつまで続くのか……ただ、機が熟すのを待つのみ。彼は、待っていた。


 対して、佐野は深之介の攻撃に耐えるだけでいい。ただ、耐えた。電磁フィールドに防御を任せて、足を前に動かす。体勢を立て直して。


 無駄!迂闊!愚直!それでは、私を倒せるわけがない!!


 ただ、耐えるだけ。明快な優劣。相性の問題だ、佐之が深之介を踊らせている状況。


 そして、君はやがて肉体に披露を訴えかけるだろう。それがこの戦いの終わりを告げる。そろそろだ、君の肉体は限界だろう!!


 ……深之介は殴る。まだ殴る。勢いを乗せて、右拳を、左拳を、次から、次へと。


 さあ!限界だろう!倒れたまえ!平伏すのだ!


 深之介、止まらない。その気配は見せない。違和感。アルテミスの加護下であっても、常人であればとっくに息が切れる筈。痛みに手を引っ込める筈。佐之の脳内に疑問が走る。


 そして、瞬時。バリアを貫通して、深之介の腕が、佐之の肉体に刺さった。


「げぇあっ!?ふっ……ぅぅぅ!?」


 佐之が地を転がり、痛みに呻きを漏らす。そして問う、「何が起きた!?」……単純な疑問。とはいえ、紐解けば意外と難しいことじゃなかった。


「急所が外れた。次は殺す」


 肺活量。単純な身体能力、継戦能力の差。浅野深之介という男の五体に刻まれた記憶が、状況を作る。


 闘争に対する集中力、経験、気兼ね。その他諸々が、この数瞬の奇跡を作った。ボロボロになっても止まらない深之介に対して、佐之は心の中でほんの少しだけ「油断」をした。ただそれだけ。電磁フィールドの展開理論を間違えた。根比べに負けた、という事だ。


 とはいえ、明確な決着には至らなかった。深之介と佐之の身体能力の差、それはアルテミスの加護下で互角。戦闘経験、深之介有利。能力、佐之有利……。


 ここで佐之がアクションを起こした。


「コード・ゼロ……!私はね、君を知りたかったんだよ」


 展開していた電磁フィールドを右手に集めた。歪曲した空間の塊が、佐之の手の中で異次元を生み出す。危険な香りだ。


「私と同じ名を持つ者の意。君は及第点だ。納得したよ、決着だ」


 そして、その異次元を目の前の男に放つ。掌から拡散する、異次元の破壊光線。


「プルート」


 稲妻を纏った黒くおぞましい光?が、深之介に迫った。速度からして避けられないだろう。勿論、佐之は勝利を確信する。


 けれど、深之介は避ける必要なんていなかった。だって。


 その場に居たミシェルが、骸骨でそれを受け止める。群がっていたクローン達は異次元の波に飲まれゆくが、ミシェルの偽骸人は壊れない。


「っとぉ、なんだこんなもんかよ」


 そう。深之介は居なかった(・・・・・)。故に、避ける必要がなかった。


「すり替……ッ!?」


幻世(ヴィジョン)


 背後から聞こえる声。佐之は振り向いた。気が付けば、すぐそこに。後ろに、浅野深之介が迫っていた。


 深之介は「アルテミスの加護」で増幅された自信の能力で、触れなくとも佐之に幻覚を見せていた。歪曲した空間の状況を。


 佐之は展開する、電磁フィールドを。瞬時、ドゴン。と、そこに、大きな衝撃。


「汝に不吉あれ。オーメンだ」


 冷酷な、ミシェルの声。そう、後ろから。骨の弾丸が打ち込まれたのが分かった。余程強大だったのだろう、佐之のフィールドが一気に収縮する。


「背徳の輩があァァァァァッッッ!!」


「――禅」


 息をする暇も無く、無慈悲に迫る深之介。その拳が、佐之の胸部へと迫る。最早、ミュンヒハウゼンは電磁フィールドに頼る事しか考えていなかった。


 そして、再度の展開。瞬間、深之介の拳にブツが握られている事に気付いた。


 バッテリーを失った筈の、ビームネイル。


 放たれた電磁フィールドがビームネイルへとぶつかり、急に膨大な電力を与えられたビームネイルはエラーを起こす。そして、爆発した。深之介の右手と、佐之の心臓を道連れにして。


 最後まで立っていた深之介の眼には、仰向けに倒れゆく佐之の最後が映っていたその顔は、何処か嬉しそうに。


 なるほど。これが結末か。


Oh,yeah(それでいい)……」

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