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エモーショナル・バウンサー14

 光学兵器のビームネイルにより砕け散った電磁フィールド。言うまでもなく、佐之は無防備だった。しかし、笑みをこぼす。


「ほう」


 深之介の踏み込みは足りなかった。直後、次に動いたのはナナイ、この好奇を逃さんとす。無論、それを吾郎が許す訳もなく。踏み込んだナナイに吾郎が攻撃を仕掛ける形となった。


「螺掌紋!」


 ナナイ、それを無視。優先目標は言うまでもなく黒幕「佐之・R・ミュンヒハウゼン」。「カンタータ」はさっき撃った、溜めが足りない。仕方なく力が乗り切らない螺旋の拳を放つが、横から吾郎の攻撃を受け、佐之に対して甘い攻撃で終わってしまう。上半身にねじ込んだが、感触で分かる。「足りない」。


「っぐ、はははっ!!足りん!」


 アルテミスの加護が乗った人間、それもどうやらそれだけじゃない――威力で意識を奪いきれず、ここで佐之を逃がす口実を与えてしまった。佐之が後退し始める。まだ、誰もついて行けない――!


 トン、トン、トンと。佐之は空中を駆け上っていく……いや、正確には電磁フィールドを足場にして何段も空中を飛び跳ねたのだ。それは「まさか」の使い方だったろう。事前に佐之が電磁フィールドを展開出来る事を知っていたとはいえ……。

 地上30メートル、皆が追いかけあぐねる。唯一着いていけそうなナナイは吾郎に応戦している。一度取っ組み合っては無理だ、吾郎はナナイに対して尋常じゃない執着心を抱いているのは誰の目にも明らかだった。


「さあ!逸らさないでください!」


「チッ……!」


 そして佐之が飛んだその先には、吾郎が用意した空間の裂け目。これが逃げ道だった。完璧な逃走ルート、逃すわけにはいかない。


「成る程、統括管理局も私の力に勘付いたようだ。さて、此処は失礼しようか。夜はまだ終わってない」


「待て――」


 佐之が空間の裂け目に飲まれる。深之介はフリーだが、あそこまで行くには――


「乗ってけや浅野!行け!!」


 声に振り向いた深之介の目に飛び込んだ光景は、空を行く幾つもの「光の剣」。シャインは拳を地面に付けたまま、それを未だに射出していた。


「早くしな!誰でもいい、奴を追いかけろ!これはっ、俺がダメになるまでしか持たん!!早くだ!!」


 周囲、コンマの沈黙。月の兎達も、警官達も、気付いたのだ、「追いかけるならこれしかない」。こうしている間にも、空間の裂け目はその口を閉じようとしていた。


「っ、任せろ!」


 深之介、空を行く光の剣の一本に飛び乗り柄を握り締めた。重量を増やした光の剣は、しかし減速する事なく空を行く。

 そして、さらにもう一つ。光の剣に骸骨を絡ませてしがみつき飛んでいく者が居た。薄い褐色肌の女。


「闇夜の海へヨーソロー……さあ、一緒に地獄に行こうさぁ!!」


 エリザベス・ロドリゲス。深之介と共に空間の裂け目へと突っ込む。そして、それを送り届ける者。


 あと少し、あと少しなんだ。


 シャインはその場にしゃがみ込んでいる。というか、この姿勢でないと無理……!光の剣を空に放つだけで精一杯だ。一つ一つのコントロールなぞ、やってのけられる物では無い。ただ数を放って、それを目標まで突き立てるだけ。そして、ナナイは吾郎と戦っている。つまりシャインは今。


 月の兎が、シャインになだれ込むように襲ってきた。警官の束を押しのけて。


 果てしなくピンチだ!俺がこれを手放せば、月の兎達に反撃出来るだろう……!しかし、そうなれば!深之介とミシェルを送る事が出来なくなる……。それだけは駄目だ。絶対に有り得ない。奴を叩くなら今だろう。深之介と、ミシェルなら。


 ニィッとシャインは歯を食いしばり笑った。


「俺が倒れようが、くたばろうが。この手は止めねぇよ……!来いやぁ糞野郎共」


 腹を括った。倒れてもいい。けれど、仕事だけはこなす。それが、「シブい男」って奴じゃあねぇか。なぁ、ナナイ……!


 襲いかかる、かかる、月の兎達。シャインはその光景を、目を見開いていた。歯を、食いしばって。


 そして、その目前に走る電撃の槍。月の兎達は電撃に痺れ、その場に硬直して直ぐに倒れた。


 !!?シャインの脳髄に稲妻のような刺激が流れた。


「「鳴神(なるかみ)」……!馬鹿な、来雷(くーらい)……?なぜ此処に!!」


 シャインはその電撃の槍をよく知っていた。来雷(くーらい)娘々(にゃんにゃん)、よーく知った、友人の技「鳴神」。その電撃そのものだった。しかし、彼女は警察でも統括管理局でも無い。あのプライドの塊でええかっこしぃの統括管理局が応援を出したとは思えない。一体、なぜ……?


「いいや、私だ。弱気なんて槍が降るぜ?パイセン」


 光の剣が空間の裂け目に入ったのを目指して、シャインはその構えを解いて振り返った。深く聞き覚えのある声に、深く安堵した……。


「おせえぞ、夜千代」


「わりっす、道が混んでまして」


 夜千代が差し出した拳にシャインもまた立ち上がり拳を掲げ、コツンと重ねた。そして敵に向き直る。


大地(ガイア)口付け(キス)しな、雑魚共が』


 フラグメンツ二名。荒事ならお任せあれ。さあ、反撃はここからだ――


――深之介とミシェルは同時に地面に着地した。深之介はその手と足で、ミシェルは骸骨で。


 辺りは真っ暗。電気が通ってないのか……?辛うじて光は空のスクリーンだけ。満点な偽りの星空が、この場で二人を照らしていた。


「おいおい、こりゃ何の趣向だい?アタイらショーパブに来たんじゃないぜ」


「……」


 茶化すミシェルと、無言の深之介。思惑する、敵の意図を。すぐ其処に奴は居るはずなんだ。


「ふむ、二人か。思わぬ闖入者(ちんにゅうしゃ)……。呼んだ覚えはないがね、LAの悪魔「エリザベス・ロドリゲス」」


 カッ、とお約束のように暗闇にライトアップされた言葉の発言者、佐之・R・ミュンヒハウゼン。距離の離れたそれに、ミシェルは減らずの口を叩いた。

 

「ありゃりゃ、御呼ばれでないかいそーかいそーかい。知ったこっちゃねぇ。入場料が要るなら幾らでも積むぜェ?」


「なら、それでは「君の命」を頂こうか」


 パチン、と佐之が指を弾く音。それと同時に周囲のライトが点火した。どうやら此処は、広い路地のようで。そして、その壁には幾つもの――


「おもてなしは私の分身が、ね」


――緑色の繭。薄い膜の内側には液体と、そして幾つもの裸体、男の裸体、「佐之・R・ミュンヒハウゼン」の肉体が。


 パチン、と一斉に膜が割れて中身が地面に落ちる。目覚め出す、幾多数多の肉人形。動力源は、佐之の能力「シンパシー」。


「こういう使い方もある」

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