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エモーショナル・バウンサー11

「はいはーいよく聞けよ貴方らども。この私が直々に説明してやる。が、私はおんなじことは一回しか言いません、二度聞かなくちゃいけねーってのは余程の馬鹿か耳が遠いかよ。そこんとこよかとね」


 警察署の会議室、ウェーブのかかった黒髪を掻きながら倶利伽羅綾乃はその場にいる警察官達に面倒臭さ全開の表情で説明を始めた。「感じが悪い」。決して良くはない。しかし彼女ならしょうがない、とその場の全員は納得している。黒咲夜千代でさえも、だ。有無を言わせない。


「知らねーやつもいんかんなー。イクシーズには昔、地下に娯楽施設があったのさ。15年も前の話だよ、あんときゃ私も若かった……」


 小声で辺りから笑みが漏れた。彼女なりのギャグだろうか、張り詰めていた雰囲気が少しだけ和らいだ。


「あ、今笑った奴後でしばくから」


 ビクン!と身体を硬直させる数人。可哀想に。より空気が張り詰めた。


「んで、賑わったわけよ。裏のイクシーズ、その名も「地下繁華街」。ムーディな街でな、空には開発当初のNPHネオプラズマホログラフィックを採用、明るい夜と暗い夜の二つを採用して昼と夜を区別した。街灯が夜を照らす、大人向けの世界さ。しかしガキも憧れた……マセたガキがいっちょまえにカッコつけてよ、アソぶ訳よ。したらどうよ、物は壊れるわ、春が売られるわ……大人とガキの境界線が曖昧になっちまった。表と裏にイクシーズ作っちゃ、警備も薄くなってな。後は、言うまでもねぇか。そっから先は「地下犯下街」って呼ばれた暗黒期よ」


 気が付けば、綾乃はその手にメビウスライトを摘んでいた。……此処は禁煙の筈だが。口から煙が吐き出される。


「最後は不良の戦争に使われてオシマイ。それが決定打で封鎖されちまう訳。ま、やったのはバックボーンに凶獄組付けて依頼受けた私なんだけどさ。実際に地下繁華街を潰したのは統括管理局なんだが、これ一般には内緒な。あくまであれが潰れたのは不良のせいで、統括管理局は悪く無いって話」


 正直、この時点でついて行けてない人が多い。綾乃が対面グループ「不動冥王(フドウミョウオウ)」の初代総長だったというのは有名だが、そのバックに凶獄組があって、しかもその依頼で地下繁華街を潰したというのは。そんな人物が今や警察の対策一課な上に学校の臨時教師。人間というのは分からない。


「さって、昔話はここまでだ。要するに、そういう場所が「あった」って、しかも今も「ある」って事。入口はコンクリで封鎖されてるが、施設は丸々イクシーズの地下だ。電気も生きてるらしい、これ切っちまうとイクシーズの機能そのものに支障が出るからまだ弄れない。サボってたツケだな。そこにミュンヒハウゼンと大宮は逃げ込んだ。ので、私がお前らを地下街に放り投げてミュンヒハウゼンを討伐してもらいます。以上!後はスクリーンを頼んだ!」


 小声で「でぇれ疲れた……」と呟きながらメビウスライトを味わう綾乃。後は背後のスクリーンが全てを語った。


 地下繁華街には入口が三つある。北、東、南にそれは分かれており、それら全てに警察を配置。地下繁華街は電磁フィールドで覆われているため、突入の際にはそれを極限まで弱める。入口は封鎖されており、その瞬間に綾乃が全員を能力「常夜の闇」にて無理矢理に空間移動、入口の向こう側へ。

 それを全ての方角で順次に、そして素早く行う。後は三つの方角からローラー式に月の兎の討伐、終点の「地平線の泉」という公園がある西方向まで進むという物。空間移動が入口までなのは、本人の負担を減らすため。ただでさえ10年以上前の記憶を頼りに電磁フィールド越しに空間移動するのだ、いくらSレートであってもそれを何回もというのは辛い。とてもじゃないが奥までは無理だ、空間移動には集中力が居る。


 そして、黒咲夜千代の配置は終点から一番遠い東の地区だった。ナナイやシャイン、浅野や聖夜等の強力な部隊は比較的西へと向かいやすい北口と南口。そう考えると東口は比較的楽な位置……。


 という訳でも無いんだな、これが!


 夜千代は部隊を率いて月の兎と交戦していた。両手に「光の剣」を握り締め、前線で戦う。


「こんなに残党が居るなんて聞いてねぇぞ!」


 まだ入口付近だというのに、街中に潜んでいた月の兎達が遅いかかってくる。夜千代の部隊の数9人に対して、敵は二桁。明らかに教会戦で逃げた数より多い。こりゃ予め地下繁華街に残していやがったな。前線だけじゃ押せない、後方支援に手伝ってもらうしか!


「支援、まだかよ!」


「乱戦で狙いが……!」


「チィッ!場が悪いか!」


 地下繁華街の地理は地図を見て想定していたよりも更に「悪い」。入り組んだ街中、街すべてが裏路地みたいにややこしい。そして夜深く故の周囲の暗さが関係してくる。そこで強襲を仕掛けられたら、迎撃出来るつもりが対応で手一杯だった。


 しかし、こんなトコでへばってるようじゃあ……!


 トッ、と街中に降り立つ一つの影。バーテンダースーツに身を包み、顔には他の信者同様の兎の仮面。そして、手には身の丈の二倍はあるサイズの「旗」。長い柄の先には黒字に黄色いマークの月を模した旗が括られている。月の兎を現す旗のようだ。


 男……青年?奴は……!?魂が黒い!!?


「――」


 ドン!男は旗を奮う。一体どんな怪力か、月の兎の軍勢を的確な間合いで吹っ飛ばした。


「なっ……?」


 仲間割れ!?


 月の兎と思われた男は、その旗で他の月の兎達を蹂躙し始めた。


 突き、振り、旗包み、目隠しからの大薙。その細身からはとても感じられない程のパワフルな動きで瞬く間に辺りの月の兎達は地に倒れ伏した。


 夜千代達、その場を眺めていただけ。手を出せなかった。邪魔になるというレベルで「(テク)い」。その様、まるでダンスのように。


「……なんだ、誰だい?テメェは……」


「……。」


 夜千代が問いかけると、男は無言で旗を柄から外すと、それを夜千代に放った。


「なッ!おいッ!」


「――」


 目隠し。旗を夜千代が光の剣で押し退けた時には既に、男はその場からいなくなっていた。


「……んだったんだよ……」


 助けてもらった、という認識でいいのか?奴の目的が何かは分からない。しかし、こっちの手伝いをしてくれたというのは確かだろう。


 夜千代は男の魂の色を思い出す。夜千代の目には魂の色が視える。月の兎達は皆揃って魂が「透き通るような無色」に近い。行動原理が本能そのものだからだろう。合理的な物でないのだ。


 対して佐之や大宮を見た時の色は「果てしなく黒」。恐らく、アルテミスの加護を受けつつも頭で考えて動いているのだろう。だとするなら、さっきの男はきっと幹部クラスだ。ただの信者では無い。


 尚更、なら何のために……?

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