ミエナイモノ
見えない存在と関わっていくのは難しいですよね。
俺は難しいとかじゃなくまず怖いですけど。
僕は誰にも見つけてもらえない存在だ。
幽霊か何かなんだろうか。
正直僕自身自分がなんなのかよくわかっていなかった。
そんな僕には気になる女の子がいる。
彼女はいつもそこにいた。
もちろん彼女も僕のことは見えていない。
そんな彼女はいつも本を読んでいた。
「こんばんは」
そんな彼女の背中にこうして、一方的に挨拶するのが日課だった。
もちろん返事は帰ってこない。
僕は確かにここにいて、彼女は目の前にいる。
だけど僕はここにはいないんだ。
こうして僕の一日は彼女の後ろ姿を眺めて終わる。
話しかけても、隣に座ってみても気づいてもらえないんだ。
だから、そうするしかないんだ。
次の日もやはり彼女はそこにいた。
愛らしい背中に今日も声をかける。
「おはよう。」
「.....おはよう」
.....。
気のせいだろうか。
今彼女が返事をしたように思えた。
そんなはずはないのに、やはり期待してしまう。
...確かめたい。
「もしかして僕のことが.....」
「ごめんね。前から気づいてはいたんだけど姿が見えないから幽霊かと思って怖くて.....」
彼女は確かに僕に気づいていた。
すごく嬉しかった。
「ううん!そりゃあ、怖いよね!」
僕はもう嬉しくて嬉しくて声が自然と大きくなってしまっていた。
ずっとずっと話したくて仕方なかった彼女に気づいてもらえた。
嬉しさで涙が出そうだった。
「でも、どうしていきなり返事してくれたの?」
やはりそこが気になった。
今だって姿は見えてないだろう。
「なんでだろ.....あなたなら大丈夫だと思ったから.....かな」
もう素直に嬉しかった。
「ありがとう、僕に気づいてくれて」
「うん」
「もし嫌じゃなかったらたまに、話しかけてもいいかな?」
「もちろん、いいよ」
.....。
それから僕達は毎日のように話した。
話の内容は他愛のないようものばかりだ。
何を話しても楽しかった。彼女も同様に楽しそうだった。
とくに彼女は本の話をするときは生き生きしていた。
僕は正直本のことはよくわからない。
でも、彼女が楽しそうに本の話をしている姿を見ているだけで、それだけで満足だった。
「ほんとに好きなんだね」
「うん、大好き」
本のことを言っているのはわかっているに少し期待してしまう。
そんなことあるはずないのに。
あれから彼女は嫌がらず、ずっと僕の話し相手になってくれる。
僕の心は彼女という存在で溢れていた。
そうして彼女と話すようになって半年ほどの年月が経っていた。
「僕はなんなんだろう」
ふとそんなことを言ってしまった。
彼女の性格からして真面目に考えしまうとわかっていたのに.....仲良くなったせいで気持ちが緩んでしまっていた。
「んー。」
案の定本を片手に真剣に悩んでいた。
彼女は優しい。優しすぎるくらいだ。
「どんなに考えても君は君だよ。君は確かにそこに存在しいるんだからさ。私と一緒で確かにここにいるんだよ。」
「そっか.....そうだよね。」
「うん、そうだよ」
彼女は優しい声で静かに言う。
でも、僕はずっとずっと不安に思っていることがあった。
「でも僕.....怖いんだ。」
「怖い?」
「僕は.....いつか.....消えてしまうんじゃないかって.....」
僕の体は震えていた。
彼女も無言で考え込んでしまった。
またやってしまった。
何をしているんだ僕は。
どれだけ彼女に甘えてしまっているのだろう...。
これじゃダメだ。
「ごめん、今日は帰るよ」
僕はそういって黙りこんだ。
帰る場所なんてない。
ただ話しかけなければ僕はそこにはいないんだ。
だから彼女からしたらいなくなっことに変わりはい。
それから、僕は彼女に話しかけるのをやめた。
これでよかったんだ。
.....。
彼女に話をかけるのをやめてから何日たったのだろう。
それからも毎日彼女はそこにいる。
彼女は本を読みながら辺りをキョロキョロ見回していた。
僕を探してくれているのだろうか。
なんどか目があったがやはり彼女は気づかない。
それもそうだ、彼女の見える世界に僕はいない。
やっぱり僕はそこに存在しないんだ。
僕は独りで座り込んだ。
そんなとき彼女が目の前に来て立ち止まった。
僕の座っている位置に何かあるのだろうか。
そう思ったが違ったみたいだ。
「そこにいるんだよね」
彼女はそういって僕の背中と自分の背中を合わせるようにして座った。
僕のことが見えているわけではないようだ。
じゃあ、なんで僕の位置がわかったんだろう。
「なんで.....」
僕は彼女の方を見ることもなく言った。
「だって。君が泣いてたから」
「え...あ。」
自分でも気づかなかった。
確かに涙が頬を伝って流れていた。
情けない...弱い自分に腹が立った。
「ねぇ、私ね。」
彼女は澄んだ優しい声でいう。
「君がいないと寂しいよ」
「.....え?」
僕は唖然とした。
すごく嬉しかったけど、突然のことに思考が追い付かなかった。
驚きすぎて涙も止まってしまった。
嬉しい、すごく嬉しい.....でも.....
「でも君には僕は見えない.....」
そう言った瞬間、彼女は僕を後ろから抱きしめた。
思わず一瞬息がとまった。
そして、耳元で彼女は優しい声で言った。
「見えないなら、触れて感じればいいんだよ」
その言葉と彼女から伝わる体温が僕の鼓動に変わった。
そしてこの時、初めて僕は確かにここに存在した。
.....。
今日も彼女はそこにいた。
「やぁ。」
僕は彼女の背中に話しかける。
慣れたものだ。
「来たよ。ほら、座って!今日は星がきれいだよ!」
彼女は自分の隣を手で叩いて言った。
そこに座れということだろう。
君の方が綺麗だよ、とかそんなベタな台詞は言えなかった。
そんな僕の心を読み取ったかのように彼女は口を開く。
「君の方が綺麗だよとか言ってくれないの?」
意地悪な笑顔で言う。
「恥ずかしいっての」
僕は星空を見て誤魔化した。
彼女の方を見ると彼女も星空を見て目を輝かせていた。
そういえば、彼女の読んでいた本の題名にも星とかそういうのが入っていた気がする。
星が好きなのかな。
「確かに星空もきれいだよ。でもやっぱり君の方が綺麗だよ」
あっ。
思わず口に出してしまった。
彼女は聞こえなかったフリをして星空を見続けていた。
しかし、顔を真っ赤にして口許が少しにやけてしまっている。
ずるいぐらいに可愛いかった。
やっぱり僕は彼女のことが好きなんだなと思う。
「あの...さ」
「ど、どうしたの?」
さっきの台詞のダメージがまだ残っているようで返事がぎこちなかった。
しかし、僕は追い打ちをかけるように言った。
「ずっと僕の隣にいてほしい。」
「え....え!?」
いきなりの言葉に彼女は更にテンパっていた。
相変わらず可愛い反応をしてくれる。
正直言葉にした僕が一番恥ずかしかったのは内緒だ。
けど、ちゃんと自分の気持ちを伝えたかった。
そして。
「もちろんだよ!」
彼女はこれまでにない笑顔で言った。
恥ずかしかった僕はまた星空に目をやった。
そして、そっと彼女の手を握った。
僕は誰にも見つけてもらえない存在だ。
幽霊か何かなんだろうか。
正直僕自身自分がなんなのかよくわかっていない。
そんな僕を想ってくれる人がいる。
彼女はいつも隣にいてくれる。
僕は彼女と一緒にいるとき確かにそこに存在するんだ。
読んで頂きありがとうございます!
どうでしたでしょうか。
やはり恋愛が関係してくると少し苦手かもしれません。
もっと色々なものを書けるように勉強しておきます。
また次回作も一生懸命に書きますのでよろしくお願いいたします!