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遠い夏の思い出はファンタ

作者: 竹空

よし!行くぞ、と、突然どこからか、六歳上の兄貴が家に帰ってきた。うるさいクマゼミの鳴き声も多少やんできた夕暮れ間近のこの時間、そう、兄貴がクワガタ取りに連れて行ってくれる合図だ。家で暇していた僕はすぐさま兄貴のもとへ駆け寄る。

時間がないから乗れ、と言われ、僕は兄貴の自転車の後ろにとび乗り、兄貴の腰のあたりをぎゅっと握る。そしていきなり動き出す二人乗りの自転車。登り坂で兄貴が立ち漕ぎになると、僕はぱっとサドルを掴み、左右に揺れる自転車のバランスを気にしながら重心を調整する。下り坂では腰にしがみつき、流れる景色にドキドキする。あそこを左折すれば僕と兄貴しか知らない秘密の黒いあぶらの木。にやにや。

いつもの太い幹に流れる蜜には、ほら、黒光りした大きな虫!七センチくらいのヒラタクワガタだ。兄貴はばっと取って、僕のおでこあたりに。後ずさりする僕に笑顔でクワガタを持たせるとすぐさま木の根元を調べる。小さなコクワガタのメスがいて、また渡される。僕の両手にはクワガタ。

突然、暗くなる前に帰るか!と自転車に跨る兄貴。慌てて後ろに乗ろうとするが、短足な上、両手がクワガタでふさがっているのでもたもた気味の僕。その間に、兄貴は前かごから、何やら飲み物を取り、プシュとあけて、ぐびぐび飲んでいる。半分くらい飲んだところで、よし、交換、と振り向かずに左手を後ろに回してジュースを僕に渡す。僕はジュースをもらいながら、メスを兄貴の手のひらにそっと渡す。そうすると、兄貴はメスを右手の指で軽く挟んでペダルを漕ぎはじめる。ほぼ片手運転の二人乗り自転車はゆるりと動き出す。僕の右手には元気な七センチのヒラタクワガタ、左手には兄貴の飲みかけのジュース。自転車から落っこちないように股に力を入れて鉄のイスを挟む。

ようやくゆるやかな、長い下り坂にさしかかると、「今がチャンス!」と兄貴。

僕はその合図でジュースを口元へ。さーっと下り坂を滑る自転車の後ろ、ヒラタを落とさないよう、自分も落ちないよう、でも、意識は口元に集中させながら、ぐびぐびぐびぐび。つんと鼻にくるオレンジの炭酸。

大人になってたまにファンタを飲んでいると、遠い夏の日を思い出す。兄貴、元気にしてるかなあ、御中元にビールでも贈ってみるかなあ。


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