表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

File1.ブラッククィーンの登場

夕日が差し込む海辺を、黒いベンツが颯爽と走り抜ける。

僕の隣で運転するのは、絶世の美女。

これが、デートなら絶好のロケーションだが・・・。

「また、集団自殺なの?困ったものね」

話している内容に色気のかけらもない。

僕は善法寺伊作。

25歳で、これといって取り柄の無い・・・って違うって。

まぁ、とにかく監察医である。

監察医というのは、伝染病・中毒・災害による死亡の疑いのある死体、その他死因の不明な死体を、死因究明のために検案・解剖する医師のことだ。

そして僕の隣、確実に捕まるような凄まじいスピードで運転しているのが、今年23歳、大学で法医学の教授をしている年下の上司、工藤由佳先生。

その容姿もさることながら、本場ドイツで、飛び級制度を利用して法医学を学び、3年前日本に戻ってきて、そのまま大学の法医学の教授の地位に着いた、若き法医学界のホープ。今まで解決できなかった事件はなし。

そのためか、警察を

「人手だけあって推理力のまるでない石頭」

と叱咤したこともあるほど。

とにかく僕の及ぶところにいる人では無い。

はぁ、やっぱり違うよな・・・。

「伊作君はどう思う?やっぱりネット自殺かしら?・・・・・・伊作君?聞いてる?伊作君!」

急に話を振られて、はっと我に返った。

「あっ、えぇっと・・・」

「また、聞いてなかったの?まぁ、もう慣れたけどね。

いい加減にしなさいよ、自分の世界に入り込むのも。

もう一回聞くわよ。

伊作君はどう思う?やっぱりネット自殺?それともこれはただの偶然?」

「さぁ・・・どうなんでしょう?でも、偶然にしては出来過ぎていると思います」

無難で曖昧な答を返したが、工藤先生はそれについて何も言わなかった。

海辺沿いの公園に着くと、工藤先生は公道の端に車をとめた。

時期は夏。

やはり海にはたくさんの人がいたのだろう。

そして・・・その大半が警察の張ったこのkeep outの黄色いテープから中を伺っている。

工藤先生は微かに柳眉を潜めた。

興味本意で現場を見に来る人が、大嫌いなのだ。

「行くわよ」

工藤先生はそう言うと、白衣をバサリと羽織り、ハイヒールを鳴らしながら野次馬を押し退け(気付いた半分位は、顔を見て鼻の下を伸ばして道を譲ったが・・・)黄色いテープを潜った。

「ご苦労様です」

せいぜい警部補ぐらいの警官が敬礼をした。

「せんぞっ・・・いや、立花警視は?」

「あちらに・・・」

その警官が指差した方に歩いて行く。

夏草の匂いがする。

しっとりと汗ばむような湿度。

少し歩くと見知った顔が確認できた。

「仙蔵!」

男にしては長い絹のような黒髪をなびかせて、その美男子は振り返った。

「伊作か。こっちに来い」

いつもの命令口調で仙蔵はそう告げる。近寄ると他にも見知った顔がいくつかあった。

「よぉ、伊作・・・っと、誰だ?」

これを言ったのは潮江文次郎。

仙蔵の部下だ。

「はじめまして。大学で法医学教授をやっています、工藤由佳です」

僕が紹介するより早く工藤先生が言う。

「あぁ、あのブラッククィーンか。よろしく」

仙蔵が言ったブラッククィーンとは、マスコミがつけた工藤先生の通称である。

ブラックジャックをもじったものらしい。

工藤先生は曖昧な笑みでそれをかわすと、シートを被っていた死体に近付いた。

手を合わせて黙礼し、そっとシートをはいだ。

「死体の様子から見て、死後3時間。死因は一酸化炭素中毒とみてまず間違えはなさそうね」

一見しただけでそこまで読み取って、工藤先生は僕達の方に向き直った。

「聞きたいことがあるの。監察医務院までいいですか」

いつになく厳しい表情の工藤先生がそこにはいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ