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番外編

 ――私のこの想いは、恋と呼べる立派なものなのだ。きっと。



 私のこの想いが、あのバカへと恋なのだと気付いて数日後、私は告白するべきかしないべきか悩んでいた。

 今更な気がするし、彼女もいるし、今更な気もするし……!

 でも言わなかったら言わないで、自分が後悔するのは目に見えていた。

 なので思案中。言ってもいいけど、今のこの関係は確実に壊れる。てか彼女いるわけだし。なにこいつ空気読めて無さ過ぎと思われるのは明白だ。

 言わないまま、このまま、友達としての関係を保ったほうがいいのかもしれない。

 そうすれば、あいつは私の気持ちをずっと知らずにいるだろうし、彼女いるから自重はするけど友達でいられるだろうし。

 あー、でも言わないと絶対スッキリしない。なんかもう一生モヤモヤしてそう。

 はぁ……。自分自身でもどうしたいのか謎……。


 そんな風にモヤモヤ、悶々として一ヶ月ほど過ごした。

 その間、朝はなるべく早く行くか遅く行くかの極端にしてあいつに会わないように登校して、帰りは友達と別れたあと遠回りをしながら家に帰った。

 もちろん見事に、あいつに会うことはなかった。

 あいつと彼女を見かけた商店街も、絶対に通らないようにした。


 あいつと一切話さなくなってだいぶ経ったある日のことだった。

 友達と話していて学校自体出るのが遅くなったあと、さらに遊び歩いてた為すでに夜の八時を回っていた。

 さすがにこの時間にいることはないだろうと思い、とくに遠回りもせずに家への道を真っ直ぐに帰っていた。ふと、家の近くにある公園で足を止めてつい公園の中へと行ってしまった。

「げっ」

「げっ、ってお前なぁ。女子がそういうこと言うなって」

 あいつがいた。

 なんか一人寂しくブランコを漕いでいた。

 無視してくるりと方向転換する私。

「おいおいおいおいおい! なんで今来たばっかで帰ろうとするんだよ!」

「べつに。ただなんとなく立ち寄っただけなので私は帰ります」

「そんなに俺が嫌なわけ?」

「は?」

 その言葉に思わず振り返ってしまった。

 気付くとあいつはブランコから立ち上がっていた。

「は? じゃねえよ。ここ最近ずっと俺のこと避けてるじゃん」

「べつに避けてないわよ」

 避けてたけれども。

「そのわりにわざと朝行く時間ずらしたり、帰りは遠回りして帰ってんじゃねえか」

「……なんで知ってるのよ」

 むしろ怖い。

「そんなのどうだっていいだろうが。やっぱり俺のこと避けてるじゃんか」

「……避けてないってば」

「避けてる。なに? 俺なんかしたっけ?」

「してない。そもそも避けてないから」

「何かあるならはっきり言えばいいじゃん。なんで俺がお前のこと気にしなきゃなんないわけ?」

「なんであんたが怒ってるのよ」

「そりゃ怒るだろ。なんで何もしてないのに俺が避けられなきゃいけないわけ? 意味不明じゃん」

「そもそも避けてないっつの。人の話を聞け」

「お前が聞けよ。なんで俺避けられてるわけ? ……なんで俺が寂しいとか思わなきゃいけないんだよ」

「え……」

 今なんと? 俺が寂しい? 何に対して? 私が避けてることに対して? え?

「だーかーら、なんで……俺がお前が全然絡んでこないことに対して寂しいとか思わなきゃいけないんだよって言ってるんだよ」

「なんで私があんたに絡まなきゃいけないのよ。彼女に絡んでもらいなさいよ」

 どう考えても私の意見がもっともだと思いますよ。

 なんで彼女いるのにこいつはこういうこと言っちゃうかなー。

「は? 彼女?」

「なに惚けてるの。そもそもこの時間に公園にいること自体おかしいじゃん。彼女と待ち合わせでもしてたんじゃないの?」

 もう時刻は九時近い。こんな時間に外にいるのも、こんな時間に待ち合わせするのもおかしいと思うけれど。

「いやいやいやいや。え? ……いや、話がさっぱり見えてこないんだけどさ。俺に彼女っていたの?」

「はあ? 何? あんたなんなの。広沢さんが泣くよ」

 いや名前しか知らない女子だけど。

「いやお前こそなんなの? なんでそこで広沢が出てくるわけ? 広沢はべつに彼女じゃないし、そもそも俺に彼女なんていないし」

 ……?

「……はてな」

「いや疑問符をわざわざ口に出さなくてもいいから。いやだから、俺に彼女なんかいないっつの」

「え、だって、広沢さんに告白されて……え、だって……付き合うことになったんでしょ?」

 本気でハテナマークばかりが浮かんでいる私の頭。

「いや確かに告白はされたけど断ったよ。そもそも俺お前に彼女できたとか言ってないだろ?」

「うん、そうだけど……。あ、じゃあでもっ、えーっと先月広沢さんと商店街のカフェにいたのはなんだったのよ! 私ちゃんと見てたんだからねっ!」

 なんかもう意味不明で逆ギレしちゃってる自分が悲しい。

「は? 先月? あー……、確かに行ったな」

「ほらみろーっ!」

「うるせえ! 近所迷惑だ! いいから人の話を聞け!」

「はい……」

「いいか。一から話すとだな」

「はい」

「先月広沢に確かに告白された。だけど断った」

「……はい」

「そんで、広沢も広沢でそっかってなって吹っ切れたみたいで、じゃあ友達になってもらってもいいかっていうからそれまで拒む必要は無いからそれは了承したわけ。そんで、カフェにいたのは俺たちだけじゃない。男は俺だけだったけど、広沢の友達二人もいたから合計四人いた。二人っきりじゃない。分かったか?」

「……はい」

 なるほど、自分だけがいい感じの暴走していたと……。

 勝手な妄想をして勝手にそれが現実だと決め付けていたと。

「ちなみに広沢は既に気になっている人がいるらしく、ちょっと相談されました」

「そうですか」

 心の中じゃ『尻軽女がっ!』とか思って相談乗ってそうだなー。

「で、なにか。お前は広沢と俺の関係を誤解して俺を避けていたと」

「はい、そうなりますね」

「ふーん。べつに誤解してたとしても避けるもんじゃねえと思うけど」

 そこはまあ誤解したわけも充分入っているけれど、自分の気持ちの問題だ。

「まあいろいろあったのよ」

 広沢さんとの関係が誤解だと分かって私は落ち着いてどっこいしょとブランコに座った。

「ふーん。いろいろね」

「そ。てかなんで広沢さんの告白断ったの? 中学の時からあんたにはもったいないような美人がわりと告白してきてくれたのに」

「好きな奴がいるから。俺にはもったいないような美人を受け入れるわけにはいかないだろ」

「へっ、へぇー! そうなん、だっ!」

「なにお前ぎこちなくなってんの。ブランコから落ちるなよバカ」

「バカのくせに私をバカって言うな。落ちないわよ」

 さすがに動揺しました、はい。

 そうだよなぁ。広沢さんとのことが誤解でも、好きな人がいないわけにはならない。

 うん、そう……だよなぁ。

 キィ、キィ――と私がブランコを漕ぐ音だけが響く。

「お前はいないわけ?」

「……なにが?」

「だからお前はバカなんだよ。話の流れ上分かるだろうが。好きな奴だよ」

「うるさいわね分かってたわよ」

「じゃあ答えろよバカ」

 ――キィ、キィ。

「んー……、いるよ」

「へえ、意外だな。この前俺が言った言葉によって分かったんだ?」

「まあね」

「どんな奴?」

「バカな奴」

「なにそれ。そんだけ? てかお前自身がバカなのにバカって言われたくないだろうな」

「うっせえバカ。そういうあんたの好きな子こそどんな子なのよ」

「バカな奴」

「そんだけ?」

「そんだけ」

「バカなのに好きなんだ?」

「お前だってそうじゃねえかよ」

 確かに。

 ――キィ、キィ……キィ。

「てか帰らないわけ? お前の母さんあたり心配してると思うぞ」

「あんたこそ」

「お前が帰るなら帰ってやる」

「偉そうに」

「俺のが偉いからな」

「むかつく。死ね」

「お前俺に軽々しく死ね死ね言い過ぎじゃね? 本当に俺そのうち死ぬぞ。お前のせいで」

「うるせえ死ねハゲ」

「ついにハゲまでっ!? ハゲないもん! 俺はハゲないもん!」

「はいはい良かったねー」

「もういいから帰るぞ。九時ですよお嬢様」

「きもっ。言われなくても帰りますぅー」

 よっ、という掛け声と共にブランコを飛び降りる。

 涼しい風がふわりと抜け、虫の静かな鳴き声だけが聞こえる。

「スカートめくれるぞー。お前のなんか見る奴いないけど」

「死ねハゲ。ハゲ死ね」

「ハゲ死ねって何!? ハゲて死ぬのとか悲しすぎるだろ!?」

「……」

「なーに黙ってんだよ。ほら、帰るぞ」

「ん……」

 なんだか少し、寂しい。

 この公園になんとなく立ち寄ったのはたぶん、自分の気持ちを落ち着かせる為だった。

 そんで結局、どうしようもない気持ちを抱えたまま、ブランコを漕いでたりしてたに違い無い。

 ――こいつが、いなければ。

「なにしおらしくしてんだよ。お前らしくもねえ」

「……」

「なに? なんか言いたいことあるなら言えよ」

「え?」

「お前昔っから言いたいことあるとすぐ黙るじゃん」

 なんでそんなこと、お前が知ってるんだよ。

 ……意味不明な奴。

「じゃあ言うよ」

「どうぞ?」


「好きだよ」


 かぁーっと言った途端に顔が紅くなったのが自分でも分かる。

 照れまくってる自分気持ち悪い。もうやだ。何も言葉がでない。

 俯くことしかできない。涙よりゲロのが出そう。


「ははっ」

「ちょ、何笑ってんのよ! だいいち今ので分かったの?」

「分かるよ」

「なんでよ」

 私の頭にポンと手を置く。

「お前のことなら知ってるよ。俺も好きだから」

「……恥ずかしいです」

「知っている。なぜなら俺も恥ずかしいからである」

「……ぶっ」

「笑うなよ。そもそも言ったのそっち」

「ソウデスネー」

「うわ何その言い方! 文字で表したなら絶対全部カタカナだったよ!」

「チガイマスー」

「なに? お前は今日から外人としてでも生きるつもりなのか?」

「……っ、あははっ」

「笑いすぎ。ていっ」

「いたっ。チョップすんなよバカー」

「チョップくらいさせろよ。あとキス」

「きっ……! ……チョップはダメだけどキスならどうぞ」

「なんでキスならいいんだよ。まあじゃあ、お言葉に甘えてさせてもらうけど」

「やっぱり待て」

「なんでだオイ。今俺は完全にキスする気満々だったんだからここで待たされても困るぞオイ」

「なんかいろいろとアレだから」

「そうかアレか」

「そうだアレだ」

「アレなら仕方が無いな」

「そうです。仕方ないです」

「うむ。どうでもいいけどちょっとお前」

「なによ」

「顔になんか付いてる」

「えっ! 嘘!?」

「ほんとほんと。ちょっとこっち向いてみ?」

「むぅ」

 チョイチョイっと手を招く。私は大人しくあいつのほうを向――

「!?」

「ぶっ、驚き過ぎー。かわいいー」

 ――いたはいいけれど、キスされましたとさ。

「なっ、ん、え」

「おーおー、すごい動揺してる。顔真っ赤ですよお姉さん?」

「うっ、るさいっ!」

「ごめんごめん。俺が悪かったからそんなに怒らないで下さいー。どうしたら機嫌が直りますか?」

「じゃあなんか一つ言うこと聞いて」

「いいですよ。なんでもどうぞ」

「……」

「そこで考えるんかい」

 考えてるんじゃないよ。

 ちょっと勇気が必要だから止まってしまっただけ。


 私は意を決して行動を取る。


「……お前可愛いなー」

「うるさい。黙れ。ハゲ死ね」

「不思議とこういう状態でハゲ死ねと言われると嬉しい」

「ドM野郎が。キモいから死ね」

「いいの? 俺死んだらお前すげえ泣きそうじゃん」

「……」

「そこで黙るところも可愛いね」

「うるさいっ」

「はいはい」

「はいはいってお前なぁ!」

「はいはい。なんですかお嬢様?」

「っ、もう――!」


 此処が家から近い公園だったのが恨めしく思った。

 家からずっとずっと遠い、公園だったならよかったのに。

 せっかく、こんな夜でも暑い時期に手を繋いだのだから――。


 手を繋ぎながら互いに(主に私が)ギャーギャー騒ぎながらゆっくりと歩きながら帰って行ったので、ご近所さんにはとても迷惑な夜だったことだろう。

 ごめんなさい。


 でも、当人の私達はすごく楽しかったと思います。

 すいませんでしたまる。

こんな青春がよかったですまる。

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