閾(しきい)の少女
「眠れない。眠れない。眠れない。
と呟いたところで、眠れるはずもない。
はあ、もう夢が終わってしまった」
抱きしめているはずの彼女の声で目を覚ましたけど、彼女はいなかった。
ホテル内は静まり返っていて、さらに誰もいない。
取りこのされた気分だ。
誰もいないカプセルホテルを出ると、そこには誰もいない街があった。
まるでちょっと前まで、大勢の人が溢れていたであろう街。
「そこの君、こんなところで何をしてるんだ」
赤いツナギを着た少女に呼び止められた。
赤いツナギには【閾】と言う文字が大きく書かれていた。
「彼女と逸れたみたいで、探してるんですけど」
「彼女?とは恋人と言う意味の彼女?」
「まあ、そうですね」
「君は何を言ってるんだ?ここは背景倉庫だよ」
「背景倉庫?」
「うん、もうここの世界は終わったからね。片付けてるところだよ」
「片付けているところ?」
「そう」
「僕の彼女、恋人の意味の彼女はどこに?」
「多分、違う世界で生きてるんじゃない。違う世界だからきっと君の事知らないよ。違う世界で違う夢を見始めてるはずだ」
「えっ?」
「だって違う世界だもん。当然でしょ」
「僕はどうすればいい?」
「ここにいると言う事は君は【閾】でしょ」
「しきい?解らないけど」
「とりあえず、ここの世界の片づけを手伝ったら」
「えっなぜ?」
「管理官とは当分連絡が着かないから」
と言われた。
誰もいない街。
僕は、その静まり返った風景を見渡した。
とりあえず、僕は赤いツナギの少女を手伝う事にした。
完




