27話 3人のゲート破壊作戦
「お前ら、何者だ。」
「まず名乗るなら自分からじゃないんです?」
「...まぁいい、あたしはディア。夜陰教団の一人だ。お前らは?」
警戒心剝き出しで尋ねたディアに対して煽るように白が答えると、一瞬イラっとしたがすぐに平静を取り戻したディアが名乗った。
「ふっふっふ、私の名は白。賢者の一人で、王国を守る者!」
...決まった。
王都にあった本で、こういう場面で名乗りを上げるキャラがかっこよかったのだから、私がやってもカッコよくなるに決まってる。
これでゼータちゃんは私を羨望のまなざしで見てくれてるはず...
「白お姉ちゃん…かっこいい✧︎*。」
っしゃああああああああああ!!!!!!!
白はかっこつけたポーズのまま内心で歓喜していた。
やはり私の感性は間違っていなかったのだ。
ま、もちろん私のかっこ可愛さがあればこうなるのは当たり前...あーいや、かわいさはゼータちゃんとかアルス君とかエリスちゃんとかハクには負けるけどッ!
それでも今この瞬間、間違いなく私はゼータちゃんにしっかりしたかっこいいお姉ちゃんだと思われている!
その事実だけでいい――
「白?燃え尽きそうになってるとこ悪いけど、お相手さん、かなり怒ってるわよ。」
ヘスティアからそう言われ、自分の世界に入っていた白は現実に戻ってくるとディアに目を向けた。
「...そうか、お前らが賢者か。教祖様の[[rb:命 > めい]]、そして同士の仇、ここで討たせてもらう!」
ディアは勢い良く地を蹴ると白に距離を詰め、剣を振り下ろそうとした。
しかしその剣は白とディアの間に入ったヘスティアによって防がれた。
「チッ」
「んじゃ、そいつの相手は頼んだよ。」
「ええ。」
「了解。」
白はその場からゲートの方へ向かって走っていった。
ディアはヘスティアから目を離さず、白がなぜ自分を無視していったのかを考えていた。
どういう訳だ。この三人の中で最も実力があるのはあいつ(白)のはず。
私を無視してゲートの方にまっすぐ向かっていったが...
まさか...いや、賢者ならあり得る。
“ゲートを破壊する”気か!?
そうなれば作戦が破綻する。ここはあたしが行かなくては...
ディアはヘスティアの相手を辞め、白が向かった方へ行こうとした。
「ライトニング。白の元には行かせない。」
「(無駄かもしれないが...)お前ら、そいつを殺せ!」
足止めを食らったディアは自身と共にゲートから出てきたドールスライムたちに命令を出した。
あいつら(ドールスライム達)は戦闘するために連れて来たわけじゃない。
あたしが障害となるものに対応しているうちに王都に潜り込ませるための、いわば雑用のために連れて来たモンスター達だ。
本隊はこの後要請する予定の第二軍、ゲートを破壊されては王都襲撃を目的とした部隊がこれなくなる。だが...
白は走りながら襲い来るドールスライム達を次々に切り裂いていき、いよいよゲートの元へとたどり着いた。
「(小夜、また力を貸して。)」
「(しゃーねーなぁ)」
「神懸:白夜 」
白はストルム王国で襲撃者、フォルカスを倒した時のように片目が金眼、髪が黒と白のツートーンカラーになり、強大な力を帯びた姿へと変わった。
「結纏 :墨裂」
白は闇属性と水属性を結合させた属性を纏わせた刀で、ゲートに対し刀を振り斬撃を放つとゲートは切断され、やがて砕け散った。
やることを終えた白はふと後ろを見ると、先程まで20体ほど残っていた数十cm程のドールスライム達が居なくなり、代りに3~4m程の大きさを持つ、モンスターが二体現れた。
なるほど、これさっきの小さいのが合体した感じか~。
図鑑でチラッと見たことがある程度だけど、確かさっきのがFランクのモンスターで、こいつらはCランクのスライムゴーレムって奴だったっけ、あんま強そうじゃなかったから詳しくは覚えてないけど。
そうして白はスライムゴーレムに対して妖術を放った。
「流槍 」
放たれた水で出来た槍はスライムゴーレムの体を貫いたが、あまり効果はないようだった。
そして二体のスライムゴーレムたちは白に向かって殴りかかってきた。
「あれ?コアって心臓部にあるんじゃなかったっけ。ちゃんと見とけばよかった~。まぁでも、こういう時は大体...」
攻撃を避けた白は体に穴が開いた状態のスライムゴーレムの頭上に跳び上がると、頭部に向けて攻撃を仕掛けた。
「水纏:五月雨 」
するとスライムゴーレムの頭部は、その中にあったコアと共に駒切りにされ、やがて消滅していった。
だがそんな白に二体目のスライムゴーレムの攻撃が迫っていた。
「黒蝕」
スライムゴーレムの振り下ろした腕による風圧で砂埃が舞った。
その中でスライムゴーレムは自身腕が徐々に黒く蝕まれていることに困惑していると、いつの間にか背後に回っていた白がスライムゴーレムの頭をコアごと真っ二つに切断した。
やがてスライムゴーレムはその場に倒れて消滅すると、白の姿も元に戻っていた。
「よし、これで...」
急に激しい頭痛が白を襲い、その場に倒れこんでしまった。
凄い頭痛いしだるい。
体も動かせないし、なんだこれ。
あーやばい、なんか眠くなってきたし、寒くなってきた気もする。
_____。
白が静かに眠りについた時、ゼータとヘスティアはディアと戦闘していた。
「サンダーブレッシング」
「白!?」
「よそ見してる場合か?」
ゼータが魔法を唱え、ヘスティアは白が倒れたことに気を取られると、その隙をディアが見過ごすはずもなく、ヘスティアの短剣を弾き飛ばした剣で斬りつけた後、蹴り飛ばした。
この程度じゃ倒せてないだろうけど...少しはゼータに集中できる。
あいつはさっきから魔法しか使っていない所から考えるに近接戦を得意としていないはず。
それならば距離を詰めることが最優先になる。
魔法の展開は近距離での私の斬撃より遅い、ヘスティアが動けない今がチャンスだろう。
「サンダーディセミネイション」
ゼータの詠唱により、無数の雷の弾がディアへと放たれた。
しかしディアはそれらを見切りながら自分の元へと素早く距離を詰めてくる。
魔法が当たらない?いや、魔力感知を利用して躱してる。このままじゃ...
ディアはまだゼータとの距離があるにも関わらず持っていた剣を投げつけた。
何故剣を投げた?もしかして魔法による攻撃が来る?
ゼータは軽く剣を躱すと、防御魔法を唱えようとした。
「プレイスチェンジ」
「っ!?」
ディアの方へ目を向けたつもりが、目の前からは先ほど投げられた剣が迫ってきており、肝心のディアはゼータの背後に居た。
ゼータはまず目の前の剣を回避することに専念したためそこに隙が生まれ、ディアの回し蹴りによって勢いよく蹴り飛ばされてしまった。
今の感触、人間を蹴ったような感触とはまた違う。
それにあたしと戦い始めてからずっと雷魔力を纏っていることには違和感があったが...
もしかして結機族か?
だとすれば魔力切れを起こさない理由もわかる。
賢者だからだと思っていたが、結機族の賢者がいるという話は聞いたことがない。
ディアがゼータについて考えていると、ヘスティアが先程とは変わった様子で攻撃を仕掛けてきた。
「そろそろ来る頃だと思ったよ。」
「チッ」
奇襲に気づかれたヘスティアは舌打ちをしながらも攻撃を続けた。
ディアは今のヘスティアの攻撃を受けていたが、だんだんと押されていることに喜びを感じていた。
こいつ、さっきとはパワーもスピードも違う。
このままやり合っていてはいずれ負けるだろうな。
...ははっ
どうせ今回の作戦はもう実行できない、同法の仇という意思もあるが、今はただこいつらを倒す事だけを考えて戦うのが楽しいのだ。
ヘスティアの攻撃を捌き切れずに幾つかの切り傷を負った時だった。
「天月流剣術 :朧月 」
ディアの剣術により、ヘスティアの体には一瞬のうちに無数の切り傷が出来ていた。
あまりに一瞬の出来事であったためヘスティアは何が起きたか分からなかったが、一旦ディアから距離を取ることにした。
「今のは…」
「実戦で使うのは久しぶりだが、これは[[rb:天和国 > てんほうこく]]に伝わる剣術、“天月流剣術”の1つだよ。何故あたしがこれを使えるのか知りたそうだな。ま、あたしに勝ったら教えてやるよ。」
「それが無くても、元からあなたはここで倒すつもりよ。」
そこから激しい打ち合いが始まった。
互いに回避しようにもそれを読まれる事を知っているため、正面からのぶつかり合いとなった。
「はぁぁぁぁぁ!!!」
「天月流剣術:昇月」
ディアは剣を振り上げるようにし、ヘスティアがその剣を抑えるような形になった。
つばぜり合いの後互いが衝撃で離れると、再び距離を詰めに行った。
しかしディアは剣を使うのではなく魔法で攻撃を仕掛けた。
「コリエンテ」
「ファイヤープロテクト」
ディアの水攻撃魔法に反応したヘスティアが炎防御魔法を展開し防いだ。
すると水と炎がぶつかった事によリ発生した水蒸気が辺りを包み込んだ。
ディアは何処に行った?
魔力感知で...この状況だと辺りに魔力が散漫していて使えないか。
逃げた?いや彼女の性格からしてその可能性は低い。
この環境下で私に対する攻撃、さっきのゼータに対する攻撃から察するに...後ろ!
そう思い短剣を振ったヘスティアだったが、ただ周りの空気を割くだけだった。
「SCネロ・グラトニー」
元のヘスティアの正面、つまり今のヘスティアの背後から水属性の魔法を放った。
激流の砲撃に飲み込まれたヘスティアは、その勢いのまま近くにあった岩に激突すると、その岩をも貫通していった。
いくら久々に使ったからとはいえそこまで劣っていないあたしの剣術ですら防いできた。
こいつを倒すには今までのあたしからじゃ思いつかない方法...つまり魔法、それもただの魔法ではなくSCを利用した攻撃。
「...これが最適解だと思ったけど、どうやら正解だったみたいだね。貴方との戦い、楽しかったよ。」
倒れているヘスティアに近づきとどめを刺そうかという時だった。
急にディアの体が何かに貫かれていた。
それは剣の形をしていたが、ディアには見たことのない剣だった。
「な、んで...お前、が。」
「ゼータが剣を使わないって、いつ言った?」
その場に倒れたディアの後ろにはあまりダメージを受けていなさそうなゼータがいた。
そして目の前で倒したはずのヘスティアが負傷しながらも立ち上がった。
「...ゲートに向かったあいつが倒れた後、今まで攻撃しかしてこなかったお前が補助魔法を一度使ったが、まさかあたしが魔法を使うことを予期していたのか?」
「白による加勢が期待できなくなった、それと貴方から水魔力を感じたから。予期してたわけじゃない。」
なるほど、ゼータとやらはあくまでも備えとして補助魔法をかけたらしい。
それもあたしにとっては相性最悪な雷補助魔法を。
いや?そういえばこいつ、あたしと対峙してからずっと雷魔法しか使って無くないか?
確か結機族は全属性の魔法を使えるはずだが…
まさか最初からあたしの弱点属性を考えていたとは。
それに白とやらがあの強力な力を使っていたが、それによる反動で動けなくなる可能性も考え、ヘスティアは戦闘中その考えを全部理解したうえであの時敢えて隙を作った。そしてあたしの“戦いたい”という思いに答えたのか。
「ははっ、あたしの完敗だ。いいだろう、仲間以外の事なら答えてやる。」
「...じゃあお言葉に甘えて。貴方は何で王都に向かおうとしていたの?」
「探し物を探すため。ま、王都にあるのが目的の物かは知らんけどな。」
ディアは端的にヘスティアの問いに答えた。
やはりディアは仲間に関する情報を一切吐かないようだ。
ただこの回答からもヘスティアは色々考察していた。
“探し物”。これが夜陰教団が求めている物であり、ストルム王国に居たのも同じ理由だろう。
そしてその“探し物”はそこらに売っている物ではない、つまりは夜陰教団だけでなく王都にとっても大切なものである可能性が高いという事か。
自身の考えをまとめたヘスティアは、次の質問に移った。
「この質問はただ私が気になった事なのだけれども、なぜあなたが天和国独自の剣術を使えたのかしら?」
「そうだな、あれは今から数百年前...」
ディアは自分の身に遭ったことを話し始めた。
_____
暗黒神が封印されてからすぐ、魔法を使えない妖獣族が世界中で迫害され始めた。
その時に狭間の世界を治めるギルト・シュルヴィーヴルによって妖獣族と戦争孤児たちは引き取られ、そこで天和国を創った。
孤児院の中でも悪魔族はあたしだけだったし、悪魔族にいい印象を持つ者も居なかったからいつも一人だった。
あたしは暇つぶしがてらに孤児院に来ていた天月流剣術の師範からその剣術を教わった。
それから数年後、あたしにもいよいよ友達と呼べる者たちが出来たんだ。
それが“つばき”と“あずき”。
あたしらはそれ以降3人で剣術の修行をしていたんだが、それも長くは続かなかった。
10年くらい経ったある時、孤児院は放火された。
その時孤児院に居た内の約半数が焼死、その中には“つばき”も含まれていた。
あの国に居た大抵の人は犯人が何者なのか分かっていた。
あたしが悪魔族の「負の感情を感知する能力」で犯人のいる場所を探し当てて行った時、予想通りあるグループがいた。
どうやらそのグループは親しい者をモンスターや他種族、要は「魔法を扱うもの」に殺された者たちだった。これは後で分かったことだけどな。
当然孤児院に居た者たち、何より“つばき”を殺された事に憤怒していたあたしはそのグループを皆殺しにした後、天和国を出て狭間の世界を放浪していたところ、今の上司に拾われた。
_____
「...っとまぁこんな感じの事があってあたしは今夜陰教団に居る。」
「...あなたが出会うのが旧賢者様たちだったら、私たちはこうならずに済んだのかもしれないわね。」
ヘスティアは少し悲しそうな表情を見せながらも、“夜陰教団が王都や港町を襲撃したことは許されることではない”と心の中で言い聞かせた。
だが、それでも...
「一応聞いておくけど、今後人々に危害を加えず、私たちに協力する気は?」
「ないね。あたしはあたしの好きなことをやって生きてきた。私を救ってくれた方を裏切るような真似はしないよ。でも、そうだな...同情する気持ちがあるなら、最後に一つ頼まれてくれないか?」
「なにかしら?」
「あたしの親友、“あずき”に会ったら、『ディアは満足して死んだ。』って伝えといてくれ。」
「...ええ、分かったわ。」
ディアの体は薄くなってきていた。
ここまで来てはもう助からない。
自分がもしディアと同じような立場だったら、弟のロート、白やゼータたちが殺されたとしたら、私は悪の道に堕ちずに居られるだろうか。
おそらく私も、同じ道を辿るのでしょうね。
ヘスティアは相手に自分を投影して考えていた。
そしていよいよ完全に消えそうになった時だった。
「...そういえば聞いてなかったな、あんたの名前は?」
「ヘスティアよ。」
「ヘスティア、あたしの話を聞いてくれて同情までしてくれた。最後に話すのがあなたでよかった...」
ヘスティアは気持ちを入れ替え始めつつ応えた後、ディアは微笑みながら消滅した。




