プロローグ
人は誰しも夢を見る。
人はそれを皆、当たり前だと考えている。
しかし、人々は知らない。
人だけが夢を見ている事を。
「お仕事ですよ、夢神様。」
「あー、分かったよ。645番」
夢の世界、「夢想京」
今日も「夢想京」には、沢山の人が夢を見る為に訪れる。
私はここの管理人、「夢神」
所謂、夢を司る神である。
とまぁ、こんな感じに言えば、凄い存在のように感じるが、実際は「想像神」という上司にこき使われまくりの、ブラック労働者である。
この世界が生まれた頃、世界に生物は存在しておらず、宇宙や惑星といった、非生物しか存在していなかった。
しかし、地球という惑星に突如、生命体「ルカ」が誕生したことにより、この世界は未知の進化を遂げる事となる。
生命体「ルカ」が誕生したのを皮切りに、地球という惑星には、生命体が溢れかえり、宇宙はかつてないほど、不安定な状態になってしまった。
それもそのはずで、今まで生命体が存在していなかった世界に、いきなり生命体がボコボコと、誕生してしまったのだから、世界のバランスがある程度崩れてしまうのは、当然のことである。
その結果、私達「神」という存在が、誕生する羽目になってしまった。
私達「神」は、生命体とは全く別の存在として、宇宙が自身の身を守る為に作り出したモノである。
要するに、「神」は宇宙を守るプログラムそのモノであり、私達は生命体とも、非生命体とも言えない、曖昧な存在である。
私達「神」は、そんな不安定になってしまった宇宙を安定させる為、日々、働かされている。
言ってしまえば、私達「神」は、突如現れた「ルカ」の尻拭いをさせられた存在であり、「ルカ」がこの世界に生まれなければ、私達が生まれることは無かったのである。
生命体「ルカ」が突如生まれた原因について、神々の間で日々、議論はされてはいるが、現在まで、明確な原因といったものは、判明されていない。
そんな中、現れたのが、「人」である。
彼らは、この世界に生まれた、初めての知的生命体であり、個体によっては、私達「神」と同程度の知能を有する者もいる。
そんな、私達「神」と同程度、もしくはそれ以下の知能を持つ「人」だが、彼らの存在は世界に大きな影響を及ぼすものであった。
私達「神」は、それぞれ非生物である「モノ」を司る存在で、自身が司る「モノ」に、影響を与える能力があるのだが、直接生物に干渉することは出来ない。
しかし、「人」という知的生命体に、直接生物に干渉出来ないという、制約はない。
むしろ、彼らは自身の知能や、発想力を思いのままに使い、世界でやりたい放題生きている。
そんな知能と発想力を持ち、自由気ままに生きている「人」という存在は、宇宙を次の段階に進化させる可能性を秘め、それと同時に、宇宙に終焉を訪れさせる可能性も秘めていた。
宇宙のバランスを整えなければならない私達「神」は、生物に直接干渉出来ないという制約ゆえに、「人」が生まれて間も無い頃は、彼らが宇宙のことを考えず、自由気ままにやっている様子を黙ってみることしか出来無かった。
しかし、私の上司である、想像を司る神、「想像神」は、「夢」という概念を生み出したことにより、直接干渉することの出来なかった、「人」という生物に、間接的に干渉する術を得ることに成功した。
この「夢想京」と呼ばれる空間は、「人」が眠った時、「夢」を見る為の空間であるのと同時に、私達「神」が「人」をコントロールする為の、唯一の場所である。
その為、夢を司る神である、私「夢神」の責任は重大であるのだが、現在、何億といる人の夢を全て管理するのは、難しい。
なので、私は、自身の体から使い魔を作り、そのモノ達に、基本的に仕事を任している。さっき、私が話していた、645番も使い魔である。
しかし、使い魔の性能は、基本、私の劣化コピーでしか無い為、「人」の夢に入る彼らの指示は、私がやらなくてはならない。
なので私は、「人」が夢を見る夜に、使い魔に指示を送る仕事を、毎日しなくてはいけない。
私に休日というものは存在せず、日が上がっている時ぐらいしか休憩時間が無い。
まさしく、ブラック労働である。
「夢神様、今日の仕事内容です。」
そう言う、645番の指差す先には、いつものように山ずみの指令書が置いてあった。
それを見た、私はいつものように溜め息を吐いた。
「もう、この量の仕事、やらなくていいだろ。毎日、やらされてる私の身にもなって欲しいものだよ。」
「しかし、やらなくては、想像神様に怒られますよ。」
「分かってるよ、そんな事。ただ、愚痴の一つも言わないと、やってけないでしょう。」
しかし、そのことを聞いた645番は、キョトンとした顔をしていた。
それはそうだ。疲労を感じない645番には、私のこの気持ちを共感することは出来ないだろう。
私達「神」は、宇宙のバランスを取るプログラムのような存在である為、自身を構成する体は、それに適した体となっている。
その為、通常の「神」は、自身の仕事をこなす時、ストレスや疲労といった、疲れは一切無い。
しかし、「想像神」が「人」に干渉する為に、無理矢理、「夢」というモノを作った結果、「夢神」である私の体は、「神」であると同時に、「人」と似たような性質を持つこととなった。
その結果、私の体はストレスや疲労という、疲れを感じるようになっていた。
また、私の体で作った、使い魔達は、仕事に支障をきたさないように、ストレスや疲労といった感情を、得ることは出来無いように作成している。
その為、私のこの苦悩を知るモノは、この世界には存在せず、私はいつも、この「夢想京」で一人、夢の管理という、戦いを強いられていた。
だから、この645番の反応は正常な反応である。
しかし、こういった愚痴を言っても、キョトン顔をされるというのは、酷く辛いもので、その度に、私は精神的ダメージを受けていた気がした。
「まぁ、私の愚痴はもう良いとして、とりあえず、とっと仕事を始めよう。」
「はい、わかりました。夢神様。」
こうして、私はいつものように、仕事を始めるのだった。




