二十六話
翌朝、理緒と新平はエツに結婚することを告げた。
「新平ちゃん、やっと結婚してくれるんだね。安心したよ……」
エツは目頭に涙を溜め、くしゃりと笑った。
「遅くなってごめん。僕、結婚するならばあちゃんに親切にしてくれる人がいい、って決めてたから」
「そんなこと、気にしなくてよかったのに」
「ばあちゃんにはお世話になったから」
「優しい子だねぇ」
エツはつぶやき、目頭を拭うと、理緒を見た。
「あの白蛇が言った『いいこと』っていうのは、このことだったんだろうね」
理緒は口をあんぐりと開けた。もしかして鏡弥のこと? 篠田村に住んでいるのに、エツおばあちゃんは鏡弥と会ったことがあるの?
「どういうことですか?」
理緒は前のめりになる。
「理緒ちゃんに会った日の朝に見た夢に、白蛇が出てきたんだよ。その白蛇がね、『疲れ果てて、ボロボロの娘を助けたらいいことがある』って言ったんだよ」
「えっ」
やはり鏡弥なのだろうか。でも鏡弥は夢まで見せられないと言っていた。もしかしたら、鏡弥自身、気がつかなかっただけで、夢を見せる力もあったのかもしれない。
「しかもその夢、とっても不思議だったんだよ。白蛇なんだけど、色白で赤い眼をした綺麗な男子に見えたんだよ」
間違いなく鏡弥だ、と理緒は確信した。彼の思いは久地縄村を出て、篠田村のエツに届いたのだ。
「不思議だったけど、本当にありがたい夢だよ」
「私もその白蛇に感謝しないといけませんね」
きっと鏡弥が導いてくれたんだ。ありがとう。私、絶対に幸せになるから。理緒は心の中でつぶやいた。
午後、理緒はエツと一緒に村の陶器屋に行った。
食器類がその店の主要な品物だが、二人の目的は食器ではない。食器には目もくれず、動物の置物が並ぶ一角に向かった。
猫、狸、カエルなど様々な縁起がいい動物が並ぶ中、理緒は一つの置物を手に取った。昔なら絶対に選ばなかったし、視界にも入れなかった物。
「ありましたよ。白蛇の置物」
エツに手渡す。
「おー、よかった」
エツはそれを、勘定場に持っていった。
帰宅すると、エツは白蛇の置物を居間の棚に置いた。
「ありがとうございました」
手をこすり合わせながら、置物に向かって礼を言った。
理緒も手を合わせた。そして、内心で礼を言う。
『鏡弥、ありがとう』と。




