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出発

「お前、護衛の依頼書を不正で出したよな?しかも受付全員の認識を弱める魔法まで使って。それもジジイに変身した状態で」

「はい…この街が危険な事を知り、女の体では危ないと思って変身の魔法を使いました。依頼書は…最初に何割か申請料としてお支払いしなければならないと知って…手持ちがなくて…でも一人では中央国家までの道のりは分からないので、良くないとは分かっていましたが認識を弱める魔法を使って貼り出して貰いました」

「手持ちがない!?お前、5000万セル持ってんじゃねぇのかよ!?」


バンッと机を叩いてリヒトは身を乗り出した。

ネロはバツが悪そうに目を泳がせている。

最初から金など持っていなかったようだ。

そもそも、ただの旅人がそんな大金を持って歩けるわけもない。

どうぞ盗んで下さい、と練り歩いてる様なものだ。


「ネロ、先程から聞くにお主は相当な魔力を持っているようじゃな?変身魔法と認識を弱める魔法を同時に発動していた…そうじゃな?」


魔法を同時に発動させる事はとても難しいことで、相当な魔力を持っているだけでは扱えない。

何年も何十年も血吐くような修行をし、魔力を操る力を身に付けるしかない。

修行したとしても可能性は五分五分。

それが出来るネロはいわゆる天才なのだろう。

この場にいるリヒトやラナ爺でさえ、魔力量、魔法を扱うセンス、どちらもネロには遠く及ばない。


体術を得意とするラナ爺にも魔力はあるが、人並み程度であるが故に魔力に頼らず戦う術を身に付けた。

そして、魔力量はあるがセンスがないリヒトにも同じ様にそれを教えたのだ。

だが、今目の前にネロという天才が現れた。

ラナ爺はこれを好機だと思ったのだ。

魔法を教えられる程の知識も実践もない自分より、この少女に託した方が賢明だと判断した。


「はい。かなりの魔力を消耗するので二つ同時発動が限界ですが…」

「そうか…リヒト、この子を中央国家まで送って行ってやれ」

「はぁ!?俺はこいつに依頼を取り下げるよう言うつもりだったんだぞ!?それにこいつを送って行っても金がねぇんなら無駄足だろ!」

「壊した壁の修理代を免除にしてやろうかと思ったのじゃがのう…?」

「なんで俺が壊したことになってんだよ…」


長い髭を撫でながらラナ爺がへっへっへと笑う。


「ネロ、中央国家に送っていく代わりにリヒトに魔法の扱い方を教えてやってくれんかの?こやつはまだ未熟者で初歩的な魔法も扱えんのじゃ」

「うるせぇーつーの」


口ではそういうが、リヒトも内心は同じ事を思っていた。

魔力を上手くコントロール出来れば、仕事の幅が広がるし、暴発させて周りに迷惑を掛けることもない。

それに、高度な魔法を扱える人間から直接教えて貰える機会などそうそうない。


「分かりました!教えられるか不安ですがやってみます!あと、お金は無いのですが…中央国家に行けば、代わりの報酬を渡すことができます。」


ネロは自身のピアスに触れてにっこりと笑った。

見るからに高そうなアクセサリーである事は分かる。

5000万セルには届かなくても、それを売ればそこそこの良い値は付きそうだ。


「その付けてるもんでもくれんのかよ?」

「いえ、これではなく、これを持っている者が入れる場所に遺産があります」

「ほう…誰の遺産じゃ?家族はおらんのじゃろう?」

「私に名前をくれた人です。別の国で出会った時に中央国家にある遺産を譲ると言われました」

「その人はもう…?」


ラナ爺の問い掛けに静かに頷き、寂しそうな表情でピアスを撫でる。

もうそれ以上は誰も聞くことが出来なかった。


外から冷たい空気が流れ込んでくる。

天井から吊り下げられたランプが風に煽られ、ゆらゆらと揺れた。


「まぁ、こまけぇ話は後でいい。行くんだろ?中央国家」

「…! うん!」


ガタッと椅子から立ち上がったネロは、嬉しそうに目を輝かせた。

依頼書を出した時、急いでいたので必要事項を書いていないことに後で気付いた。

これではもし、依頼を受けてくれた人がいても会うことが出来ないと考え、役場近くで見張っていた。

結果、リヒトにぶつかってここまで辿り着いたので結果オーライだ。


「じゃあ、今から行くぞ!」

「えっ?」

「ちんたら朝を待っててもしょうがねぇだろ?早く魔法の使い方教わりてぇし、お前だって早く行きてぇだろ?」


そう言いながら席から立ち上がったリヒトは、そのまま穴の空いた壁から外へ出て行き、梯子を壁に立掛けた。

屋根裏部屋に上がっていく音が聞こえ、暫くするとドタバタと何かを準備している気配がした。

きょとんとした顔でネロとラナ爺は顔を見合わせて、天井を見上げた。


「うっし、忘れ物なーし!準備万端!おい、お前、出発するぞ」


突如天井の1部が空いてリヒトが顔を出す。


「きゃあああ!?」


突然目の前に出てきた首から上だけのリヒトを見て、ネロは悲鳴を上げた。

ラナ爺はやれやれと首を横に振りながら、ティーカップに入った紅茶を啜った。

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