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第7話 まるで宝石のような

「つ……、疲れましたわぁ……」


 純蓮がへろへろと座り込んだのは、遊園地内に設置されたとあるベンチだ。時刻は午後五時過ぎ。太陽が傾き始め影が延びてくる、そんな時刻だ。


 園内を歩き回ることで酷使した足を休めながら、彼女はふぅとひとつ息を吐いた。


「もうそんなへばってんのか? 体力ねーのな、お嬢サマ」


 呆れた顔をしたアルマは、そう言いながら純蓮へとペットボトルの水を差し出す。純蓮はそんなアルマの物言いにじとりとした視線を向けるものの、確かにアルマはけろりとした様子で、そこには疲れの一片も見受けられやしない。


 おもわず口を尖らせながら、純蓮はぼそりとつぶやいた。


「……わたくしの体力がないからではなく、アルマさんが体力オバケなだけではありませんか」

「は? 何だそれ」

 

 半分は本当で、もう半分はきっと嘘だ。確かにアルマの体力が無尽蔵なのは否定しないものの、普段車で送迎をされ、運動の機会など週に何度かある体育の授業のみである純蓮は、どう考えても同年代の女子高生と比べて圧倒的に貧弱なのだ。


 手渡された水をごくごくと飲み、純蓮はほっと息をつく。


仮に、純蓮の体力がないことは百歩ほど譲って認めたとしよう。ただそれでも今日一日がかなりのハードスケジュールだったことは否定のしようも無い。

 いまだ満足はしていない、といった様子で園内マップを広げるアルマを横目に見つつ、純蓮は今日乗ったアトラクションを指折り数える。


 まず一つ目に乗ったのはジェットコースターだ。初めて乗ったあの凶悪な乗り物は、ぐわんぐわんと純蓮の三半規管を揺さぶった。自らあのような恐ろしい体験をしに行くなど、とても正気だとは思えない。


 次に乗ったのはコーヒーカップ。小さな子供も多く、これならきっと大丈夫だろうと思っていたのに、対面に座るアルマがものすごい速度でカップを回すものだから、純蓮の目はぐるぐると渦を巻いてしまったのだ。


 その他にも、お化け屋敷やゴーカート、フリーフォールにバイキング。よく考えると、何やら刺激が強いものばかり選ばれていたような気がしなくもない。


 ようやくそう思い当たり、純蓮は恨みがましげにアルマのことを半眼で見た。ただ、当の本人はそんな視線に気づかないままで意気揚々と次のアトラクションの品定めをしている。


「もしかしなくても……、わたくしよりアルマさんの方が楽しんでいるのではありませんか?」


 ぽつりとこぼれた純蓮のひとりごとに、アルマはぎくりと肩を震わせた。ごまかすように彼は笑うと、ずいとマップを純蓮の方へ向けてくる。


「い、いや、そんなん勘違いじゃね!? ほら、だったら次はお嬢サマが乗りたいやつ行こうぜ!」


 慌てたアルマのその提案を、純蓮は小さく繰り返す。

 

「わたくしが……、乗りたいもの、ですの?」

「おう! だってそもそもお嬢サマが楽しむためにここ来たわけだしさ。なんか乗りてーヤツねえの?」

「え、ええと…………その……」


 アルマからの単純な疑問に、純蓮はおもわず口ごもる。自分の希望を口にするなど、一体いつぶりのことだろう。


 ふらふらと純蓮が視線をさまよわせていると、ふと家族連れの姿が目に映る。その家族は子供を真ん中にして三人で手を繋いでおり、きっと昔自分がここに来た時もあのような様子だったのだろうと思うとなんだか少しほほえましい。


 ――あのときわたくしは、お母様たちと……。


 純蓮の脳裏に浮かぶのは、三人で共に乗った観覧車の思い出だ。夕方の観覧車の窓から見える夕焼けがきらきらと宝石のように輝いていて、その光景はまるで映画のワンシーンのようだったのだ。


 握るこぶしに力を込めて、純蓮はおずおずと口を開く。


「……ア、ルマさん。わたくし……、観覧車に乗ってみたい、ですわ!」


 きゅっと目をつぶりながら、彼女は言葉を口にする。彼女の覚悟を知ってか知らずか、アルマはにっと笑みを浮かべた。


「よっしゃ。そんじゃお嬢サマの気分が変わらないうちに早くいこうぜ!」


 立ち上がった彼は、純蓮とともに歩きだす。なんだかその速度が少しだけゆっくりになっていた気がするけれど。


 きっと。きっと、気のせいだ。

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