第7話 鈴木の追放を阻止しろ2
俺達は大聖堂の敷地内にある小ぶりな貴族の屋敷のような建物に案内された。
俺達が今日寝泊りする場所らしい。
メイドさんや執事らしき人もいる。
各自部屋に案内されたあと、瑞希の話を聞くメンバーが談話室のような場所に集まった。
集まったのは、俺のグループの6人と瑞希のグループ3人の合計9人だ。まずは鈴木は呼ばずに瑞希の話を聞く。鈴木には部屋で待っておくよう言っておいた。
瑞希の話を聞くと、感情的に色々言ってはいたが、あゆみが襲われている時に鈴木がバットを持ってそばにいたが助けなかったという話だけで、新たな情報は無かった。
これはある程度予想していたが、問題は鈴木をどうするかだ。
瑞希と同じグループの男子の高橋と山野は、悲しんではいるが、瑞希のように鈴木に文句を言う様子はない。おそらく二人はあゆみのそばにはいなかったが、鈴木と同じように動けなかったのだろう。
あの時すぐゾンビと戦ったのは、俺が見える範囲では、俺の他には剛士とハイドと日野さんだけだった。そして少し遅れて安本と黒井が戦っていた。高橋と山野が戦っているのは見ていない。だから鈴木を責める気にはならないのだろう。
今明確に鈴木に怒っているのは、瑞希、ハイド、亜美、ミレイの4人だ。この4人を納得させなければいけない。他は悲しんでいたり深刻な顔はしているが、明確に鈴木を責める発言はしてはいない。
まずは俺だけで鈴木と相談しよう。そのために一人で鈴木に会いに行く必要がある。
「話は分かった。これは鈴木にけじめを取らせるべきだな。」 瑞希たちを刺激しないよう、俺は瑞希たち側であるという前提で話す。
「ああ!鈴木をボコして謝らせようぜ!」 ハイドが言った。
「ああ、まず俺が鈴木に説教してここにつれてくる。そして皆の前で謝らせようと思う。」
本来鈴木が謝るのも違う気がするが、鈴木は悪くないと主張しても悪化するだろう。鈴木が謝ったうえで、俺が庇う方向で鈴木と相談しようと思う。
「俺も行くぜ!」 ハイドが来るのはマズい。
「いや、ハイドが行って鈴木をボコしたら喋れなくなるだろ。俺だけで行く。ボコることより謝らせることが重要だと思うからな。」 どうにか俺だけで鈴木の話を聞きたい。
「そうか? まあ確かに殴っちまいそうだが・・・」 ハイドは微妙な反応だが一応納得したようだ。
「俺も行くか?」 剛士が聞いてきた。
「いや俺だけで行くよ。皆もそれでいいか?」 今回は剛士も鈴木を庇わないみたいだしな。
「うん・・・」 瑞希は泣きながら言った。色々皆に話して少しは落ち着いたように見える。人に話すだけでも多少楽になるものだしな。
「光輝君にまかせるわ。」 愛理が言った。多分愛理は話がこじれそうなら介入してくるつもりだろう。愛理なら鈴木を追放したりはしないだろうが、別行動を提案してくる可能性はある。優良サポート職のオタク達と別行動は避けたい。
亜美とミレイはちょっと納得いかない顔をしているが、とりあえず様子を見るようだ。
「うん。皆俺の我がままを聞いてくれてありがとう。じゃあ行ってくる。」
こういう状況では気遣いの言葉が重要だ。こんな感じで言っておけば亜美とミレイの態度も多少マシになるだろう。多分。
俺はメイドさんに聞いて鈴木の部屋に向かった。
ノックをして呼びかける。
「神代だけど。鈴木いるか?」
「うん・・・」
部屋に入ると、オタク仲間の藤宮と稲田もいた。
「二人もいたのか。鈴木とどうするか相談しようと思うけど、二人も聞くのか?」
「一緒に相談したいけど良い?」 藤宮が聞いてきた。
「鈴木がいいならかまわないよ。」
「うん。」
「でだ。一応瑞希に事情は聞いて把握しているけど、鈴木視点の話も聞きたいが、いいか?」 まあ同じ内容だろうけど、話を聞くって約束したしな。
「うん。あの時急に召喚されて驚いたけど、よく読んでいる小説と同じような状況だったから最初はそこまで取り乱さなかったんだ。でも目の前で木下さんがゾンビに襲われて何とかしなきゃって思って動こうと思った時ゾンビの顔が見えて・・・」 木下はあゆみの苗字だ。
「うん。」 俺は相槌をうった。ゾンビの顔・・・もしかして・・・
「田中さんだったんだ・・・、それで僕は動けなくなってしまって・・・木下さんは・・・」
「そうだったのか・・・」 田中さんは鈴木と仲が良かった女子だ。ガチオタクではなかったから他のオタク達とはそうでもなかったようだが、鈴木とはよく話していた。・・・好きだったのかもしれない。今泣き崩れたりしていないので、そこまでではなかったのかもしれないが辛いのは間違いない。
「わかった。そういうことなら、それをうまく伝えることができれば何とかなるだろう。」 ただ怖かっただけより皆納得しやすいはずだ。
「でも僕・・」 鈴木は不安そうだ。
「園田さんや清川君が俺らの話を聞いてくれるかどうか・・」 藤宮が言った
「あいつらに囲まれてうまく話すのは厳しいよ・・」 稲田も言った。
まあそうか。オタク嫌いのヤツらに睨まれながらじゃ話しづらいし、途中で話を遮られるかもしれないな。
「わかった。その話は俺が皆に説明しよう。」 俺の話なら遮らずに聞くだろう。
「う、うん。ありがとう。」 鈴木は安心したようだ。
でも俺が話しただけじゃ解決には至らないだろう。
「今回鈴木は悪くないのは分かっているし、傷ついている鈴木にこんなこと頼みたくないんだが、俺が皆に説明した後、瑞希に謝ってくれないか? 助けられなくてゴメンって言うだけで良いんだ。多分そうしないと、俺が説明しただけじゃ、うまく治まらない。」 当事者が何も言わないのは印象が悪い。かといって余計なこと言うのもよくないので、シンプルに謝るのが一番だ。
「え、何で鈴木が謝るんだよ・・・」 藤宮が言った。
「理屈ではそうなんだが、感情的になっている女子にはそれだけじゃ厳しいし、鈴木が何も言わなかったらハイド達とも関係が悪いままになるだろう。」
「う、うん。」 鈴木は仕方ないと思っているぽいな。
「でもなあ・・」 稲田は納得していないようだ。
「瑞希は本来頭も良いしオタクも別に嫌いじゃない。今はあゆみが死んだショックで冷静じゃないが、真剣に謝れば、冷静になる一週間後くらいには許してくれるはずだ。女子は感情的になりやすいけど気持ちの整理もうまいから男より引きずらないしな。」
「そ、そうなの?」「一週間?」
「それに女子はだいたいこういう時は、お互い謝りあって仲直りすることを望んでいることが多い。女子にとっては仲直りするかが重要で、何が悪いとかは仲直りした後考えることなんだ。仲直りする前は理屈の問題じゃないことが多い。理屈より心を大事にしていると言ったらいいのかな。俺もよく悪くなくても仲直りのために謝ったりしている。」
「な、なるほど。」「そ、そうなんだ。」 ちょっと困惑しているが藤宮と稲田は納得したようだ。
「分かった。僕謝るよ。」 鈴木が意を決したように言った。
まあ今の説明は女子全員に当てはまるわけじゃないが、とりあえず説得できれば今はいいだろう。
俺はさっそく鈴木を連れて皆のもとへ向かった。