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第12話 クラスの分断を阻止しろ


 次の日も午前中は授業だった。

 授業の内容は、この世界の一般常識や身分制度、お金の説明などこの世界で生きていくうえで必要な内容だった。

 犯罪などはそれほど日本と大差ないが、貴族や王族には特権が与えられていて、貴族や王族が犯罪を犯した場合の罰は、貴族や王族が話し合って決めるそうだ。基本平民に対する犯罪の罰は軽いらしい。恐ろしい話だ。

 俺達の身分は、まだ正式には決定されていないが、勇者は貴族以上になることはほぼ確定らしい。他のクラスメイトはまだ未定だそうだ。できれば皆同じ身分が良いが、ちょっと良く分からなすぎて身分には口を出しづらい。俺の身分をあえて下げたりすると皆を守りにくくなりそうだし迷うところだ。


 授業に一区切りついた後、司祭のじいさんが俺達に言った。

「昨日皆さんにスキルの確認などをしていただきましたが、その結果を踏まえて今後皆様には職業などの種類によってグループ分けをして、それぞれに合った場所で訓練を行いながら生活していただきます。」

 む。これはもしや伊角が言っていた戦闘職とそれ以外で待遇を変えるという話ではないだろうか。聞いてみよう。

「訓練は分かりますが、生活というのは皆と一緒に住めなくなるのでしょうか。」

「今皆様が滞在している場所は、来客などの一時滞在用の建物ですし、訓練する場所も職業の種類によって違うので、訓練場所の近くに移っていただきたいのです。もちろん会えなくなるわけではありません。」

「ええ!」「どうなるの?」「うーん。」「会えるなら問題ないか?」「まあいいんじゃね?」「そうかなあ?」 皆不安そうだったり気にしなかったり色々な反応だ。

 今皆とバラバラになって会えなくなるのはマズい。ここは何とか一緒に住めるよう頼んでみよう。それっぽい理由は昨日寝る時に考えてある。

「それについては、俺達の希望を聞いてもらうことはできないでしょうか? 世界を救うということが重大な問題なのは分かりますが、俺達はまだこの世界のことも、自分たちのことも良く分かっていません。できれば俺達の意見や要望も聞いていただきたいんです。」

「もちろん勇者様のご意見やご希望は聞かせていただきます。国側の要望もありますので、何でもできるわけではありませんが、可能なものは対応させていただきます。」

 とりあえず司祭のじいさんは話を聞いてくれるようだ。

 多分司祭は女神教の人で、他にも数人いるが文官っぽい人が国の関係者だろう。ここでの発言はとりあえず国にも伝わるはずだ。まあこれもただの予想だが。

「じゃあまず俺の希望を聞いてください。俺は一緒にこの世界に来たここにいるクラスメイトは全員大事な仲間。いえ仲間以上の家族のような存在だと思っています。俺達はここに突然召喚されて、恐らく戻ることはできないので、もう本当の家族には会えないと思っています。それもあって故郷を知る仲間達を家族のように思っているんです。この世界でも家族は大事にすると聞いていますので分かってもらえると思いますが、未知の場所で家族とバラバラに引き離されるのは避けたいです。少なくとも皆が安心して暮らせることが確認できるまでは、できれば一緒に住みたいですし、それが難しくても毎日夕食などを一緒にとるなど、毎日会えるようにしてほしいです。」

 家族作戦だ。家族を引き離すんじゃない! と言って阻止する。

「家族ですか・・・。なるほど。」

「光輝・・」「そこまで俺達のことを」「光輝君・・・」「光輝君は情に厚いな。」

 皆もしんみりしている。騙しているみたいで、ちょっと申し訳ないな。だが今後のためだ。

 しかし国は人情なんて甘い考えで動いてくれない可能性も高い。もっと他の方向でも説得する必要がある。

「それに、ここの人達と俺達とで認識に大きな差があると思うんです。」

「ほう? どういうことですかな?」

「ここの人達は戦闘職が重要と考えているのではないかと思いますが、俺は世界を救うという目的のためには、戦闘職だけでなくサポート系の職業や生産系の職業も非常に重要だと考えています。俺がこの世界のことを知らないだけかもしれませんが、逆にここの人達も俺達のことを知らないように思います。例えば、ここの人達はアイドルを知らなかったそうですが、俺達は全員知っています。俺達のいた世界では人気最上位の職業の一つなので、俺は主力の一人になるのではないかと考えていますが、恐らくここの人達は主力とは考えていないのではないでしょうか。それ以外にも、もし遠征に行く場合には連れていきたい職業の仲間が何人もいます。恐らく職業に対する認識が俺達とここの人達でかなり違うのではないでしょうか。なのでグループ分けなども、俺達も含めてもっと慎重な話し合いを希望します。」

 もう一つの説得材料は、お前らアイドル知らなかっただろ作戦だ。自分達が知らないことがあったという事実があれば対応が慎重になるだろう。多分。

「ふうむ。それは興味深い話ですな。勇者様のお話は分かりました。できるだけご希望に沿うように国側と話し合ってみます。」

 とりあえず司祭は納得してくれたようだ。国側がどう言ってくるかだな。

「ちょっとよろしいですかな?」 話を聞いていた文官が発言した。

「なんでしょう。」 司祭が答えた。

「勇者殿に聞きたいのですが、慎重な話し合いというのは具体的に希望はありますかな?」

 俺に質問だったか。うーん。メンバー表作るとかかな。

「そうですね。例えば数日かけて全員の能力をしっかり確認して、主力や全員の役割を書いたメンバー表を作成して、俺達が作った表と国側で作った表を見せ合うというのはどうでしょうか。」

 これなら考えの違いも明確になるだろう。時間も稼げるし、役割無しとは書きづらいから追放も防げるかもしれない。

「なるほど。少々手間がかかりますが、そのくらいの慎重さが必要かもしれませんな。勇者殿の意見は上と相談することにします。」

 良かった。とりあえず時間は稼げそうだ。


「では今日のところは、午後は昨日と同じ場所で各自訓練を行っていただきます。」

 午前の授業は終了となり、食堂で昼食をとった。


「おい光輝。さっきの話は何だったんだ?」 剛士が聞いてきた。何か狙いがあると思っているのだろう。そのとおりだ。やはり気づかれたか。

「いや決まってるだろ。あいつら亜美を外そうとしてきたんだぞ。引き離されるところだった。」 こいつらへの言訳も考えてある。

「・・・確かに言われてみればそうだな。」 剛士は納得したようだ。

「光輝が必死になっているから、どうしたのかと思ったぜ。亜美と離れたくなかっただけか。」 笑いながらハイドが言った。

「キャハハ!光輝と亜美は最近ラブラブだもんね!」 ミレイは笑っている。

「ちょ、ちょっと!違うわよ!」 亜美は赤くなっている。

「でも笑いごとじゃないわよ。簡単には会えなくなったかもしれないし。」 愛理が深刻な顔で言った。

「そうだぞ。午後は亜美も訓練場に連れて行こう。仲間を強化できるらしいからな。問題ないだろう。」

「えぇ!いいわよそんなの!」 亜美は遠慮しているようだ。

「いや不当な評価を受けたらどう扱われるか分からない。心配だから連れて行く。何か言われても勇者権限でどうにかなるだろう。」 今のところ酷い扱いを受ける気配はないが、多分それは俺が勇者だからだ。俺の目の届かない場所ではどうなるか分からない。

「えぇ・・・もう・・・」 亜美は赤くなってモジモジしている。可愛いけど危機感が足りないな・・・ まあいいか。

「それに主力メンバーを勝手に決められたくないのも本当だしな。」

「ああ。それは確かにな。」 

「戦闘できないヤツを連れて行くようなことも言っていたが、あれは本気なのか?」 ハイドが聞いてきた。

「それはお前、遠征先で家建てたり料理作ったりできるならしてほしいだろ。」

「まあそうだけど、大丈夫か? やられちまうんじゃないか?」 オタク嫌いのハイドもさすがに死なれたら嫌らしい。あたりまえか。

「まあ行先次第だな。補給部隊とかがついてくるような場所なら良いんじゃないか? それにこれは俺のカンだが、予想外に使える能力を持っているヤツの一人や二人はいると思うんだよな。そういうヤツを確認もせずに逃したくない。命がかかっているからな。」

「ふーん。なるほどな。」

「俺達全員のステータスにある異世界人とか女神の加護とかは、特別らしいからな。職業が大したことなくても何かあるはずだ。」

「光輝君は色々考えているのね。あまり無理しないでよ。」 愛理が気遣ってくれた。

「ありがとう。まあ皆の代表になったからな。無理しない程度にがんばるよ。」


 昼食を終えた俺達は訓練場に移動した。


 まだまだやることはある。

 今日の夜はさっき提案したメンバー表作り口実にして、オタク連中との話し合いをしよう。鑑定してもらいたいし、アイテムボックスとか確認したいからな。


 俺は気合を入れなおした。



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