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三題噺もどき3

電車内にて

作者: 狐彪

三題噺もどき―ごひゃくにじゅうご。

 


 閑散とした電車に揺られている。


 見える景色は海だけで、それ以外にはたまに車が見えるくらい。

 あとは、駅のホーム。

「……」

 久しぶりに、電車に乗っている。

 とはいっても、一年半ぶりでしかないのだけど。

 その上、電車通学をしていたのなんて大学に通っていた頃だけだ。高校までは、自転車または徒歩で通学していた。

「……」

 朝の通学時間と、昼の時間の間の電車に乗っているので、さほど人はいない。

 離れたところに数名の塊と、更に奥に1人、2人……見える限りはその程度。

 電車に乗ると、寝る癖がついているので、頭は俯いた形だから、たいして視界はよくなかったりする。

「……」

 今日は残念ながら、そこまで眠くはないので、鞄を抱えて俯くだけで終わっている。

 イヤホンをしてはいるけど、放送が聞こえなかったりする方が不安なので、片方しかしていない。おかげで、電車の揺れる音もよく聞こえるし、数名の集団の話声も時折聞こえる。

「……」

 聞こえるその声の断片を拾って繋げてみると、目的地は同じような気がしている。

 ……この電車の終点のすぐ横にショッピングセンターがあるのだけど、その最上階にある映画館に用事があって、こうして揺られている。

「……」

 正直、車で行ってもよかったのだけど、あのあたりは少々道が分かりづらい上に、車通りが激しいので運転をしたくないのだ。電車で行けるのは知っているし、運賃はかかるが、それは必要出資というものだ。自分が変にストレスを受けないためには、仕方がない。電車は電車でストレスがかかるけど。それはもう、慣れているものだから気にはしない。

「……」

 本当は、車で行ける範囲の場所にも映画館があるのだけど。

 見たい映画が、そこではやっていないのだ。残念なことに。

 こういう所に田舎を感じる。

 いやではないが、多少のめんどくささは感じてしまう。

「……」

 映画は割と、静かに集中してみたいのだけど。

 電車のなかで、こちらに聞こえる声量で話している彼らは大丈夫だろうか。できれば席が近くないことを祈るが……。まぁ、それなりの年齢には見えるし、常識のある人たちではあるだろうと信じていよう。できれば飲食も、しないで欲しいけど、そこまでは言うまい。これは私の自己中でしかないからな。

「……?」

 なんとなく、心の中で嫌な予感を感じつつ、騒がしい集団から意識をそらすと。

 笛のような音が聞こえてきた。

 イヤホンからかと思ったが、そんな曲ではないから違う。

「……」

 そろりと、顔を上げ、なんとなく音の聞こえる方に視線をやると。

 イヤホンをつけている人が、ノリノリで口笛を吹いていた。

 よく見れば、周りの人たちの視線も、そちらに集中している。

 本人は、聞こえていないのか、無意識にやっているのか全くやめるそぶりはない。

「……」

 誰も注意はしないが、迷惑そうな視線はひしひしと送っている。

 閑散としているのもあって、電車に乗っている人の視線はみんなあの人に集中している。

 しかし、依然と気づくこともなく、スマホをいじりながら、何の曲を聴いているのかは知らないが、口笛を吹き続けている。

「……」

 よくこれだけの視線を受けていて、気づかないままでいられるものだ。

 私なんて1人の視線を受けただけでも、心臓が鳴り出して、変な動悸に襲われそうになるのに。こんな大人数のモノを受けたら、変な汗が噴き出して、手が震えてしまいそうだ。

 そのうち呼吸もしづらくなっていって、最悪泣きそうにまでなる。

「……」

 しかし、それだけの人に見られていても、その人は全く気付かない。

 楽しそうに、口笛を吹いている。ここが電車の中だと忘れているんだろう。

 そのうち、周囲の人たちも無駄だと自分たちに言い聞かせ、視線を外していく。

 1人、1人と、あちらこちらへ視線を移していく。

「……」

 かく言う私も、口笛を吹いていようと、視線を一身に受けても気づかずにいようと、自分自身には関係ないので元の姿勢に戻る。

 若干へたくそなのがまた耳障りでやめていただきたいが、そんなこと言えるわけもないので意識を別にずらして終点につくのを待つ。

「……」

 映画を楽しみで来たのに、その前段階でこれだと、着いてからが不安になってきた。

 何事もなく、楽しく鑑賞できればいいけど。









 お題:電車・視線・口笛

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