誰からも愛される妹は、魅了魔法を撒き散らしていたようです
私は男爵家の長女として生まれました。
両親や兄に愛されて、使用人たちにも大切にされて何不自由なく育ちました。
けれど、妹が生まれた時から様子がおかしくなりました。
妹ばかりを可愛がり、こちらを見ない家族と使用人たち。
最初は妹が生まれたばかりだからかなと思いましたが、そうではありませんでした。
「妹が大きくなっても、家族や使用人たちはこちらを見ようとしませんでした。悪いことをしても良いことをしても無関心でした」
「まるでお前が居ないもののように扱うんだな?」
「はい。死なない程度のお世話はしてくれましたが、それだけでした」
そして、妹が喋れるようになると地獄が始まりました。
妹は私の物をなんでも欲しがり、家族は私からそれを奪って妹に与えました。
大切にしていた祖父母の遺品でさえ。
「なるほど、異常だな」
「はい。けれど妹に関わる人々はそれを私に受け入れろというのです。家族や使用人たちだけでなく、友達だった人たちでさえ」
「ふむ」
そして私は結局貴族の娘として必要な教育も受けられず、デビュタントを迎える歳になっても社交界に出してもらうこともなく。
婚約者もいつのまにか妹に奪われていて、独りぼっちで屋敷の奥で過ごして。
「だから、何かの取り調べと仰いましたが…お話、聞いていただけて嬉しかったです。まあ、この後妹に会ったら私を嘘つき扱いされるかも知れませんが…」
「…安心しろ、俺に魅了魔法は効かない」
「え?」
「俺は教会から派遣された神官。お前の妹が、禁止されている魅了魔法をあちこちで振り撒いている疑惑があってな。調べに来た。まずは本人ではなく家族の話を聞こうと思ったんだが、正解だったな」
「…!?…妹が、魅了魔法を?」
おそらく生まれ持った才能で、最初は無意識だったのだろうと神官様は言う。
神官様はあらゆる魔法に耐性があるから、それで妹の魅了魔法には掛からなかったらしい。そんな中で様子のおかしい妹の周りの人々を見て、取り調べのためうちに来た。そして止める家族を教会の権威で黙らせて、奥に閉じこもる私の話を聞きにきたと。
でもそれなら。
「神官様、何故私は魅了魔法の影響を受けていないのでしょう。虐げる対象だから、とか?」
「いや…多分、逆だな。お前に魅了魔法が効かないから、虐げる対象に選んだんだろう」
「え?」
「お前にはおそらく、俺たち信仰の道に生きてきた神官と同様の加護がある。生まれつき魔法に耐性があるんだ。外に出してもらえず育ったなら、自覚はないだろうがな」
「そんな、どうして?」
いっそ妹の魅了魔法にかかっていれば、もっと楽に生きられたのに。
「…それは、お前が聖女だからだ」
「え」
「少なくとも俺はそう考えている。まあ、詳しくはお前を教会に連れて帰って聖王猊下に見せなきゃわかんないけど」
私が、聖女?
「いずれにせよ。あの魔女の取り調べの前にこっちにきて正解だったな。聖女様、お前を保護させてもらうぜ」
「で、でも」
「もし聖女じゃなくても、大規模な魅了魔法の重大な被害者として保護する。何か文句は?」
「…お願いします」
「じゃあお前を教会に送り届けてから、あの魔女を捕縛する方向で。行こうか」
そして私は、教会に保護された。
結局のところ、妹は大規模な魅了魔法を使っていたことが判明して処刑された。
あまりにも規模が大きいので社会に与えた影響も相当だったとかなんとか。
よくわからないが、私の生まれながらの婚約者を取っておきながらこの国の王子様にまですり寄っていたとか。まあ、婚約者とはそんな思い出もないから正直無感情だけど。
王子様も巻き込んだことで、結局は両親や兄も連座で処刑されたとか。
そして私だけが生き残っているのは…そう、私が本当に聖女だったから。
「未だに信じられない…」
「まあ、そんなもんだろ」
「そんな適当な…」
この国における聖女は、幸せにすればするほど国に祝福がある不思議な存在。
妹に私が虐げられていた間は、国の情勢が不安定だったらしい。
でも私が教会に引き取られて、私を保護してくれた神官様が一人じゃ何もできない私のお世話係になってくれてから国は栄えるようになったらしい。
神官様が色々なことを教えてくれるので、今更ながら少しずつ自分で出来ることも増えた。それが楽しいと思うほど、聖女の力で国の役に立てるらしい。
私は毒婦とすら言われ処刑された魔女の姉だけど、今では国を豊かにする聖女様として愛されている。
「こんなに幸せでいいのかな」
「むしろお前には幸せでいてもらわにゃ困る」
「そうなんですけど…」
「妹のことはお前のせいじゃない。巡り合わせが悪かったとしか言えない」
「はい…」
神官様は面倒見がいい方で、それもあって私のお世話係になったらしい。
私が落ち込まないようにフォローしてくれるけど、やっぱりまだ色々思うところがあって。
でも、そんな私を見捨てないでいてくれる神官様には心から感謝している。
「あー、はいはい。じゃあ、元気の出るおまじないかけてやるよ」
「?」
神官様は、どんなおまじないだろうと待つ私のおでこにキスをした。
「…え」
「可哀想で可愛いお嬢さん。どうか俺のそばで、もっと笑って幸せになって。それが俺の幸せだ」
「え、え、え」
「あの屋敷の奥で、悲しげに窓の外を見るお前に惹かれたんだ。一目惚れだ。だから、俺はなんと言われようとお前を守るし幸せにする。…ダメか?」
「だ、ダメじゃないです」
嬉しいやら驚くやらドキドキするやら。内心大忙しだけど、私も助けの手を出してくれた神官様が大好きになったから。
「えっと、末永くよろしくお願いします…?」
「おう、任せろ」
頭を撫でられて、嬉しくなる。
この日、たくさんの祝福が国に降り注いだという。
【長編版】病弱で幼い第三王子殿下のお世話係になったら、毎日がすごく楽しくなったお話
という連載を投稿させていただいています。よかったらぜひ読んでいただけると嬉しいです。