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転生友戦記  作者: 創作部
1/1

ライフ1

 でさー、と今日あった他愛のない話をする私たち4人組はいつも通り授業を受け終わり、下校をしていた。一応語り手をしているこの私、奈須(なす)。隣で話すのは凪紗(なぎさ)。ふんわりとした可愛らしい顔をしているがさらっと毒舌なのが恐い。そして私たちの前で話している2人は、シスコ…妹LOVEの元山(もとやま)、林さんというとあるアニメキャラを愛してやまない(もも)

 奈須→ナス、凪紗→ネギ、元山→モチ、百→モモという食べ物関連のあだ名を持つ私たちは中学3年という受験受験な学生であり、腐女子というスキルを持った4人組なのだ(キリッ)。そして現実逃避といった夢を見る子供でもある。

「ねー、モチ。転生したら何になりたい?」

「急に?ヴァンパイアかな。」

「モモは?」

「隠密スキルを極められるやつ。」

「ネギは?」

「魔法使い。魔法使ってみたくない?」

「分かる!でも私は人狼かな。強そうしょっ!てか、全員バラバラすぎ。ヒナも多分皆と被らないだろうし!」

「ヒナが転校して半年経っちゃったね…ヒナは魔女とか可愛いと思うなぁ。」

 百が口を押さえて探偵ばりの顔をする。

「あ、でも実際に転生するためには事故とか必須だ…。」

「異世界転生の定番はトラックだな!派手に飛び散ろうぜ!」

 モチはキリッとした声と同時にグッと親指を立てる。

「え〜絶対痛いからネギはヤダ…うちらなら熊とか?」

 秋口に入ったこの頃、熊の出没が多発しているのは本当だが実際に見たこともないし、もちろん遭遇したこともない。

「ありそう…。でも、無いでしょ。転生とか。」

 ナスはないないと首を横に振り手のひらを天に見せる。この時点で二つフラグが建設されていることに私たちは気づいていない。

 ドスンッ!急に横の塀から黒い毛玉が落ちてきた。サイズ感で言えば軽自動車と同じくらい。おっふ、嫌な予感しかしない。

「ね、ねえ、これってさ。」

 ()()を指さしながら後ずさる彼女らと呆然とする私。そんなことは知らずムクリと起き上がり荒い息をする───熊。

「逃げろ!!」

 頭に響いた警報を口に出したのと同時に、私たちは走り出す。腹に響くような低いうなり声と共に感じた痛みで転び蹲る。背中を引っ掛かれたんだ。風が当たる度ズキズキとして痛い。

「助け、て…。」

 小さく聞こえたその声の方へ首を向けるとモモが私と同じ体制で泣いている。一番足の遅い彼女。

「ふざけんな!!」

 頭に血が上ったまま立ち上がり、やつに殴りかかった。私の殺気に気が付いたのか、反射的に太い爪が胸元の肉を抉り拳が届く前に体から力が抜けた。予想はついてたけどバカですよね。ばっさり切られましたよ。地面に倒れるとどくどくと血溜まりができる。薄れる意識の中血の道を作りながら、来世でも会えるようにと願って先に意識を失っていた彼女の手を強く握った。

 これでBAD END?私の人生はたった十数年で終わってしまいました。家族に面目がたたねえです。と考え…考え?あれ、頭が動いている!?!

「死んでない!?」

 体をガバリと起こす。握られた手を引いたからか、寝ぼけた声が手を握り返した。

「ん、んー?あれ、ナス?」

 目を擦り、体を起こすモモ。良かった、生きてる!

「えーと、、よくわかんないけど、助かったね?」

「うん…良かった……!」

 バッとももを抱き締めた。背中越しに周りを見るとどこかの森の中。変な場所に連れてこられたのかな?それより…ネギとモチのことが頭に過った。あいつらは逃げきったのだろうか。しかし、まさかまさかの展開でここで出会ったり───────座っている私たちよりも背の高い草むらがガサガサと揺れ、さっき別れたモチとネギが現れた。───────しましたわ。感動の再開の筈なのに、あからさまにため息をつくモチとネギ。

「あーどこに行ってもナスたちは変わんないわ。」

「まあまあ、悲しい顔しないでよモチ。ここで出会えただけでもラッキーだよ。」

「いやいやそれより2人はなんでここに?……もしかしてあの、、熊に?」

「私たちはフラグ回収したっぽい。」

「…もしかしてあの会話の?」

「そう。十字路に出た瞬間大型トラックが真横にいて、身体が飛んだとおもったら…ここにいた。」

ここ?改めて周りを見てみると。夕焼けで染まった街ではなく、太陽に照らされている一本の道が続いている森の中だった。三人の方を見直すと、森に来る前はハッキリと見えていた皆が白い(もや)靄に覆われて見えなくなっていた。おかしい…そう声をあげようとした時、ネギが話し出す。

「少しモチと見てきたけど、この辺りはこの道以外何もなかったよ。」

「だからとりあえず進んでみない?」

こいつら優秀だろ…とか思いつつ。

「モモ、立てる?」

モモを立たせ、4人でただまっすぐ続く道を進んでいく。今のところ獣の(たぐい)には出会っていないし、なんか春の陽気を感じる。て!それよりなんで皆、靄に(もや)覆われてるのに気がついてないわけ??と心の中でツッコミをすると、前で二人が話出す。

「あのさ、モチ。」

「なに?モモ。」

「モンスター的なやつはいないの?」

「ウサギみたいなやつはいたけど、大きなやつは見てないかな。」

モチが不思議そうに左右を見渡す。すると、真横の木陰からウサギの番がぴょこぴょこと横断。数m歩くと再びウサギの(つがい)がぴょこぴょこと、また数m後にウサギ…と可愛いが絶妙に足を止めてくるウサギとの遭遇が五回程続く。何度か触ろうとしゃがむが、地面を蹴って逃げるからモフモフを堪能することが出来なかった。皆もムーっとさせて、悔しそうにエアーモフモフを堪能する。何それ(笑)とお腹を抱えると皆の笑い声があがる。

「ふふふっ次会うなら鹿とか熊とか大きい生き物がいいね!」

「モモ〜、またフラグ立てないでよ?今度はマジでお陀仏よ?」

「ナス、それな。ネギも嫌だー…って!あれ出口じゃない?」

ネギが指差す方には光で先が見えないが確かに出口らしきものがあった。これでやっとよくわからない森から出られる。ほっとしつつ、3人の後を追い足を速めた。そして大きな光が全員を飲み込んだ!



「「「出られたー!」」」

「え、ちょ、待っ…て…」

「もー、相変わらず体力ないなーモモは…。」

「いやいや、モチはマジで足速すぎ?!」

「あれ、なんでナスとモチが立ってるの?」

「「は?」」

ネギの言葉に困惑するナスとモチ。なんで、って何が?と思って振り返ると、そこにはネギが立っていた。

「いやいや、なんで()()()()()が立ってんの?あと、角餅と桃?!?どんな組み合わせだよ!!」

「あれ!?てか、なんで野菜が話してるの?」

恐る恐る自分の体を触ってみると本来あるはずの服が無く、ただつるつるとした紫の丸みを帯びた縦長の体があった。まるでイラストでゆるく描いたような細くてしなやかな棒に、丸い手足のようなものがついている。

「茄子だ。」

あの紫色で厚みのある夏野菜のイメージの強いあの野菜。別に茄子(まぎらわしいので野菜のほうは漢字に)が悪いわけではない。なぜ自分の体が野菜になってしまっているのかが理解できない。転生するならもっとましなものがあっただろと呆れる。

「いや、もっと他にあっただろ!!」

角餅が叫ぶ。そしておそらく、というより確実に目の前にいる角餅と葱はモチとネギなのだろう。

「ほんとそれな!」

「ネギー、モチー。」

ナスが呼びかけるとんー、と二人がこちらを向いたので手を挙げる。

「とりあえず状況整理しよ。」

明らかに頭に?をたくさん出している桃の周りに集まり、話し合った。白い靄の姿はまだ変身前で、名前をあの森の中でそう呼びあったからこの姿に変身したではないかと予想。そして…

「うわ!?えっ、なんか出た…」

突如ネギの腕が白い刀身のような鋭利な形になり、彼女は唖然としながら腕をこちらへ下ろした。

「ちょ、ネギ!危ない!」

ガァン!と鈍い音を立て、腕が変形した大きな紫色の盾でそれを受ける。

「私、ショボ…」

モチは体をスライム状にしたり、正方形の餅形にしたりした後、しょぼくれた顔で溜息をついた。その隣で手からなにか古代の文字盤のようなプロジェクションマッピングを出してモチに見せている。

全員に何かしらの能力があることが判明した。ネギは自分の腕が刃に変化し真っ白な剣にできる。モチは体の弾力をスライムレベルから固い餅レベルまで変化させることができる。ナスは手を体の半分程の紫の丸い盾にできる。モモは所謂ステータスを見たり、火を起こしたりなど魔法が使える。

「あ、隠密スキルがない…」

明らかにしょぼくれた声でモチが呟く。

「いや、そこ?」

と、モモがツッコんだ後、ステータスの説明をしてくれたが細すぎて分からない。のでざっくりとまとめると、

モモ[魔力、対魔力>体力]

ネギ[体力、攻撃力>魔力]

ナス[防御力、対魔力>魔力、柔軟性]

モチ[柔軟性、防御力>魔力]

てな感じのステータス。あとはなんか個人でスキルをもっている。(スキル:腐が意味深過ぎるが)なんか転生前の基礎値が関係してるみたい。うん、だから知力とか柔軟性とか0に近かったのかな?

なんて、互いのステータスの話をしていると誰かが叫ぶ声が響いた。そちらへ振り向くと自分達がいる開けた場所から2つの道が続いていた。

「左から聞こえた。」

モモが指を指している。

「行ってみる?」

ナスが道を指して聞くと、かなり楽しそうに3人は頷き、初めてのバトルに心踊らせながら声のした方へ走り出す。

川が隣に流れている道を進んでいくと変な生き物?に襲われている─

「うわっ、無理無理!!キモイキモイキモイ!!まって!手からなんか粉で出る!」

「「「「ヒナ/ひなぐち氏!?」」」」

─ヒナがいる。いやいや、なんでヒナ?てかなにあの生き物?

「とととりあえず助けよう!」

「おー!初バトルだ!バトルしようぜ!」

「某モンスター系アニメか?」

よく分からないまま全速力で体当たり!×4人。ドサドサッと勢いのまま倒れたそれを下敷きに倒れると、それは動かなくなってしまった…ショボすぎる初バトルである。

「ヒナ大丈夫?」

モチが声をかけると

「モチの声がしてるけど…今度は餅のモンスターなの?」

うん。ヒナちゃん肝座ってるよ。そこで逃げないのがすげえ。逆にモチが怖がられてることにショックを受けてるよ。彼女の顔の上をよしよしする。

「悪いモモ。ヒナに話してあげて。」

「了ー。」

と、ヒナはモモから今のところあったことを全部聞いて野菜が自分たちであることを理解したようす。ヒナは転生前に転校で離れてしまった友達である。

「それで、この野菜たちがナーちゃんたちなわけね。」

ヒナはナスのことを小学生からずっとナーちゃんと呼んでいて、他にこのあだ名で呼ぶ人がいないので少し照れくさいなぁと頭部をかいた。

「そっ。で、ヒナは何ができる?」

「手から粉出せる。」

手のひらに盛られた黄色の粉。えーと今のところあだ名で変身しているから…一時期呼んでたあだ名があったよな。

「きな粉?」

「きな粉…」

「きな粉…」

復唱するネギとモモを横目に指ですくって食べてみる。マジかよって顔されたけどまあ毒ではないことを祈る。

「ウッ…美味ッ!普通に美味しいきな粉!きな粉!」

「あ、はい。」

いや、ヒナちゃん冷静〜。ナスだって傷付くよ〜とふざけているのをモモは華麗にスルーして手を挙げた。

「じゃあひなぐち氏のステータス発表。」

ヒナ[回復、状態異常/×海水]。海水??あ、あーはい。そういうことね。ヒナは超がつく程の海洋生物嫌い、しかも海も苦手。嫌いなモノがそのまま弱点になったのかもしれないけど、弱いステータスじゃなくて弱点が出てるなんて、1人だけなんかステータスの違いを感じるんだけど…。

「うわ、回復魔法使えるじゃん。あと状態異常回復。ヒーラーだ。」

「回復魔法はめっちゃ実用的だし、レベルがネギたちより高い。羨ましい。」

「私は光属性みたい…解除魔法?使ってみたいなぁ。」

「モチと反対だね!」

「毒々しいナスに言われたくない。」

「ひどっ!」

「はい!この先どうする?」

手を鳴らしたモモに視線が集まる。思えばここの地図とか無いし、この先もわからないことばかりだし、はっきり言って進む以外選択肢はない?

「…この先にある屋敷にいこうか。こいつ持って行って。」

「「「?」」」

さっきKOした生き物をさす。よく見てなかったがそいつは、木製でしゃもじ型の体に男の子が着るような黄色のTシャツに短パン。虫かごと網を持っている不思議すぎる生き物だ。

「少し前に私を助けてくれた人がこれのこと調べてるらしいから、倒せたらもっておいでって。」

いやいや、いくら助けてくれたからって危なすぎるだろ!いや、ヒナちゃんの危機感よ作動しろ!可愛い女の子を置いて行くとはなんと薄情なと眉間に皺を寄せて腕を組む。

「じゃあとりあえず行ってみて変なことしたらネギが切るね?」

ネギが暗黒微笑を浮かべる。

「ネギが怖い…。」

「まあまあ、気を取り直してそれじゃあ出ー発!」

いや皆さんノリ軽すぎやろ…。呆れつつあの生き物を持ちながら1本道を進んでいく。

「モチさ、さっきから考え事してるけど、どうしたの?」

「いや〜なんか、この生き物の姿に見覚えがあるんだよね。地味に思い出せないんだよ。」

「見覚えねぇ。うわっ!?キモッ!!」

ふと、生き物の顔を見た。死んでるからか分からないが小さい逆三角の口、縦に長く大きい目は上下に視点がイッちゃってる。

「こんなキモイ生き物のどこで見たわけ!?かなりキモイし、目がイッてるし絶対無い無い!」

「ウーン…でもさー本当に見たことある気がするんだよね。」

てきとうに話しながら小鳥と木々が鳴く道を歩き続ける。近くにって言ってたから数十分歩いたらあると思っていたが…木、木、木。木しかねえ。かと思いきや分かれた道が急に現れた。ヒナに連れられ、一同は右に進む。そしてそこから歩くこと数十分、森には不似合いな白く塗られた木製の建物が建っていた。

「教会?」

一番高いところには大きな鐘がある。でもなんでこんなところに?

「とりあえず入ってみよう!」

「ちょ、ナス!」

ネギに止められつつ、茶色の扉を勢いよく開くと、掃除機のように吸い込まれて、全員が教会の中に強制入場させられた。一段上がっている場所に雑に下ろされ腰辺りが痛い。なんだよと思い、顔をあげるとシスターの姿をしたこれまた見たことある少女が立っていた。

「もしかして転校前に交通事故で亡くなった…ヨウちゃん?」

「久しぶり、ヒナたち。」

爽やかな笑顔を見せてくれた元クラスメイト。え!?!この世界知り合い率高すぎる…。

「そうそう。なんかね、創造神様が話をしたいみたいだから聞いてあげて。」

「創造神?」

彼女がステンドグラスのスポットライトの下で手を合わせると、瞳に光がなくなり、なにかにとり憑かれたように笑った。一同がゴクリと息を飲む。

「よく来たな、冒険者たちよ。」

あっ、以外と普通。テンプレートのような台詞じゃん。

「お前たちには使命がある。それは」

「はーい、ひとついいですか?」

「なんだ、ナスよ。」

「いや、なんでこの姿なわけ?この年ってまだ夢みたいじゃん?もっとほらイケメンの男子とかさヴァンパイアとか、夢見るわけ。それなのになんでこのチョイス?」

「ナス、一応神様だよ?」

「ヒナが言いたいことも分かるよ。だとしても、嫌なものは嫌だし、理由を述べて欲しいわけ。OK?」

「発音良い。」

もう一度神様の方をむく。なにか考えているのか言いづらそうな顔をしている。

「…だー!お前がそんな面倒くさい性格なんて知らなかったわ!最近、転生が流行ってるからノリでやってみて、美少女とか令嬢とかだと面白くねえからこいつらのあだ名から取ろで食べ物にしたんだよ!悪いかよ!神様だよ!?ちょっとチョイスミスったからってそんなに怒らないでよ!こっちだって困ってんだから!」

盛大に泣き始めた神様。メンタル弱っ…。

「普通だと面白くないですよね!流石神様!考えが違いすぎる(汗)」

と、しぶしぶ皆で神様を泣き止ませる。褒めたらすぐに泣き止んだのでチョロいなと思ったが言わないでおこう。

「ゴホンッ!と、とりあえず転生時のサポートをしてくれたリオルに聞いてくれ。やつの居場所はこの娘が知っているからな。それでは…」

彼女の目に光が戻り、先程と同様爽やかな笑顔でやっぱり恥ずかしいと照れていた。彼女に神様から言われた事を聞くと、リオルという男性はどうやら隣棟にいるらしい。それと入ってくるときに持っていたものはすでに送ってある(風を使った魔法らしいがめっちゃ便利)ので手ぶらでいいそうだ。

外に出るといつの間にか隣に煉瓦でできた家があった。窓のステンドグラスで画かれている龍がとても綺麗だ。

「なんか可愛いね。」

「分かる。この花とか小さくて可愛い。」

花壇や外装を見ていると扉が開き、金髪の男性が家から出てきた。白衣を着ていて博士か学者な感じがするが、整った顔立ちなのでモデルもいけるか気がする。

「君たちが転生者だね。僕はリオル。よろしくね。」

うわっ笑顔の破壊力!顔面偏差値世界トップクラスじゃん!しかも好青年ですよ。それにネギとモチを見てみると全力でにやけを押さえながらなにかを話している。まぁ、イケメンみたらこうなりますわ。ナスはカップリングするとしてネコを推すがね、ふふふ…。

「この世界には様々な種族が住んでいて、魔法があり、モンスターなどの生き物もいる。」

周りの反応を無視して彼は、話しながら、肩に乗った手の平サイズのドラゴンを撫で、それが吐き出した炎を指でなぞるように操って、水の張ったバケツに落とす。イケメンがやることがいちいちカッコイイんじゃ!!

「オォ魔法使えるんだ!」

ネギがキラキラした目でそれを見る。3人の表情は見えないが凄い!とか夢の世界じゃん!とか嬉しそうに言う。

「しかし最近魔族の王、魔王がある生き物を生み出しばらまいた。それがこのしゃもじ。繁殖力が強く進化型もいるため討伐が間に合っていない。おかげでこの世界の生態系が変わりつつあるんだ。だから今回君たちが転生、冒険者に選ばれしゃもじを討伐するのが君たちの使命だ。」

彼がここに来る前に倒した不思議な生き物?を指差していたので、それが『しゃもじ』と呼ばれていることを察する。

ネーミングがそのまますぎて笑えるけど、しゃもじの討伐かー。

「えっと、じゃあネギたちはずっと野菜のままってことですか?」

「いいや、ステータスにレベルがあったよね?レベルが3以上になれば人型になれるよ。」

そういえばあったな。ヒナはすでに3だから人型なんだよね。きっと。

「どうすればレベルは上がるんですか?」

「バトルをして敵を倒すと上がるよ。でも種族を滅ぼす程過度なバトルはこの世界だとご法度だから気を付けてね。」

「もししたら?」

「ステータスが初期化され、転生者であれば4回まで生き返るところ1回ずつ減る。」

えっぐ。ステータス初期化は誰でも嫌だろ。転生者特典で何気にライフが4あるのいいなぁ。死んでから復活は熱い展開ですな。

「あと他に質問は?」

「レベルはどのくらいで上がりますか?」

「んー、この辺に出るレベル2のしゃもじを10体倒したぐらいかな?」

「10体…。」

「君達は強いよ。なんせ、彼が直々に加護を与えたんだからね。さて…」

彼は空中で円を描くと、頬が熱を帯びて痛む。

「証を与えられし者、天界より降り立つ時、汝らの願いを叶えん。そして、彼らの願いは汝らの願いと共に叶えられん。」

ま、頑張って。彼の一言が聞こえたあと目の前が眩しくなり、目を開けると教会と家ごと彼はいなくなっていた。

「これは、後は頑張ってねー、みたいな展開ですかね。」

「10体倒し終わるまで?雑魚モンスターならいけるでしょ。」

「モチって攻撃力なくない?」

「確かに。魔力もないし、そんなこと言ってて大丈夫?」

互いにステータスを見ながらあーだこーだと言いあいをしていると、目の前にしゃもじ(スーツ着用)が現れた。

「シャモーーー!!」

鳴き声キモイッ!?!いやいやそうじゃない!皆は…

「えーい!」

ネギが軽やかにしゃもじを両断。ふえ?

「あれ?思ってた以上に柔らかかった。」

おおお、おい。ネギ?ネギー?

「ネギ、容赦無…」

ヒナの言葉に激しく同意する。ここで思いだそう。ネギはこのパーティーで一番攻撃力が高かったことを。なら、ちゃんと考えた方が良いかも…なんて時間はないみたい。

「シャモー!!」

「またでた!」

どんだけこの辺にいるわけ?再度襲ってくるしゃもじを盾で殴る。いや他に方法がないからね。なんやかんやで、しゃもじの群れや単体に会いながら数をこなしていく。

「バーニング!おお!」

魔法で爆破させたり

「それー!うわっ、自分ながら怖いわ。」

毒の粉で溶かしたり

「倒しかたあってんのかな?」

体にくっつき、体を折ったり。次々と出現するしゃもじとのバトルが一段落する頃にはすっかり日が落ち、辺りにはしゃもじの肉塊ならぬ木塊が散らばっていた。

「薪にしてみる?ほら、私炎だせるし。」

「じゃあやってみようか。」

皆で拾い集め、モモが小さく火を点けた。周りがほわっと明るくなり、温かい。

「モチとか焼けない?私も焼きネギになりたくないけど。」

「大丈夫そう。ヒナは怪我、平気?」

「治れーって粉かけたら、いけた。」

「ひなぐち氏の粉、めっちゃ便利!」

まだノルマまで数体足りないが今日のバトルでやっと転生者らしいことができて皆嬉しそう。かき集めたものをいくつか取り、順番に火にくべる。最後の欠片にどこか違和感を感じたが、既にボウッと音を上げて燃えてしまったので確認は出来なくなった。温かいしなんか眠たいくなってきたな…体を倒して空を見る。真っ黒の空に散りばめられた星々はどこの世界も変わらず美しかった。


体を起こす。ギチッと効果音がなりそうなのびをして、周りを見渡し、爽やか朝日を直に浴びるここが森の中だと思い出す。

「皆、大丈夫そうだね。」

初めての野宿で心配したけど、モンスターとかは出なかったみたい。皆も次々に起きる。ある程度仕度を終わらせるとタイミング良くしゃもじが出てきたが、欠伸の片手間にヒナが毒を撒いて倒しちゃった。

「あ、レベル上がった。」

「ヒナもう4?早いー。」

「ナーちゃんたちもあと数体でレベル上がるでしょ?」

「うん。一人辺り4体かな。以外といないんだよね。しゃもじ。」

んーと少しのびて、先に戦っているだろう3人の後に続いた。

散乱した木片達の道を辿っていく。焦げ付いた地面や氷片、あらぬ方向に折れる体のしゃもじ、切り刻まれた木片と紫色の石。様々な戦いの痕跡に少し誇らしい気持ちを持つ。こんなに強いなんて、なんて頼もしい仲間なんだろう!鼻歌を小さく歌いながら、足元に落ちていた手の平大のアメジストの様なものをポンッと蹴る。転がった先、勢い良く木陰から飛び出してきたスーツしゃもじは虚無な顔で恐怖を訴えていた。逃げようとしたところを切る。横に切られ崩れ落ちるしゃもじを倒したネギは自慢げに胸を張る。テッテレッテーと不思議な音楽が流れ、白い煙に包まれ、モンスターの仕業?と皆が焦るも煙にむせながら人型にネギは進化した。

「お、おおー!人間になった!」

「ネギおめでとう。良いなー。」

目元で切りそろえた前髪でアッシュブラウンのふわふわボブ、元気可愛いエメラルドの瞳と薄めの小さい口、白く厚めの布に緑のレースが着いた胸当てに革ベルト付きふわふわのピンクショートスカート、お腹が冷える服装だがショートブーツに届きそうな長い丈のスカイブルーのカーディガンの幼さが残る本来の姿に戻ったネギ。

「「「「カワイイ〜!!!」」」」

皆の反応に天使のような笑顔でピースをするネギ。それを邪魔するかのように林から出現したしゃもじを殴り、進化の余韻を楽しむこと無く戦闘が始まった。

日がくれかけた頃、最後のしゃもじを倒し全員が人型(レベル3)になった。ヒナは、パッツン前髪のモカブラウンの髪を桃色のリボンでおさげにし、優しさ溢れたトパーズの瞳と厚めの小さい口、桃色着物をベースにして裾が膝丈のスカートになった菊や山茶花の咲いた衣装に大正ロマン風ロングブーツの姿になり、モチは、重めの右流し前髪で烏色のポニーテール、自信に溢れ大人っぽい黒曜石の瞳とバランスのとれた口、黒い首まであるオーバーなシャツは腕が同じ色のシースルーになっており、右側だけシャツを巻き込むように山茶花色のショートバンツを履き、同じ色のスニーカーを履いている。そしてアイデンティティの言わんばかりに黒い布をマスク替わりに付けている。

「体は転生前と変わらず子供だね…。」

「まあまあ、モチよ。これから成長するから元気だしな。」

「ナスのは慰めになってないんだよ!肩に手を置くな!」

「ハッハッハッ!(笑)」

次にモモは、漆黒のミディアムの髪で前髪をセンター分けにし、優しく自信なさげなブラックサファイア色の瞳と普通めの口、ハロウィン衣装でありそうな紫色の首まであるロングワンピースに大きな魔女帽、黒のショートブーツを履いていて、自分はどんな感じ?とみんなに聞く。皆より頭1つ出た身長に、ブラウンの髪をまとめ、細めな大人っぽい紫色の瞳と厚い口、ファンタジーに出てくる村人かゲームの初期装備の様な服装に鉄製の胸当てをしているよう。

「地味だ〜。良かったぁ可愛くなくて。」

ホッと息を吐くと、眉間にシワのよったモモとモチがじーっと自分を見つめて溜息をつく。

「シールダーなら甲冑でしょ!?!」

と、発狂気味に言いよるモモ。

「ナスらしいけど、逆にこのメンバーだと1番浮いてる。」

と、嫌そうな顔で腕を組むモチ。ま、まあまあと手でなだめながら1歩引く。

「4人が可愛いならそれでいいじゃない、自分は機動性と汚れても大丈夫な方がいいし。ね?」

「確かに……じゃあ頑張って防御。」

モチは肩をポンッと叩き、にこやかにグーサインを送ってくれた。こき使われるやつか……頑張る。

「人型になったのは良いけどいい加減森から出たいよね。」

次の焚き火に使うため、全員でしゃもじの木塊を拾っていくと、ヒナがぼやいた。

「そうだね。町とかないのかな?」

よいしょー!と両手に持った木塊を置くモモ。

「あっ、これなんか食べられそうじゃね?」

低い木になっている木の実を取るナス。

「ナス、なにしてんの?」

木塊を持ちながら隣のナスを注意するもち。

「え?ナスがまた拾い食いしてんの?」

「この木に成ってる木の実をもいでるの。はい。」

 ナスはその実を投げた。ネギがキャッチしてそれを見ると形は林檎。しかし色が…真っ青という食欲減退色である。

「え?毒味しろって?いくら毒に耐性あるからってひどくない?」

「そんなつもりはなかったけど、じゃあとりあえず自分が食うわ。」

 と躊躇なくそれを齧る。いや、ヤベーな。皆もそれを心配そうに見ている。しばらくもぐもぐしたあと

「…普通の林檎だけど。それにHP上がってる感じするし。」

 血の巡りが良くなった感じを得る。慌ててモモが確認すると確かにHPが回復していた。なので、皆で渡れば赤信号も怖くない!(絶対に駄目だよ!)精神で食べた。

「…もぐもぐ…大丈夫、そうだね。」

 ヒナを始め、皆も恐る恐る食べていたが一つ食べきり、ナスに至っては2つも食べていた。それよりチョコとか甘いもの食べたい、なんてわがままを呟きながら最後の一口を口に放り込んだ。


 朝日と共に動き出し、休憩を兼ねて花を摘んだりしながらも太陽がかなり上に上がってきた頃。

「「「「「街だー!」」」」」

 やっと森を抜け出すことができた。ヨーロッパ風の古い街並みに多種多様な衣装の人が多く歩いていて、宿や店、露店など様々な建物があり活気がある街だ。あと、人だけではなく猫耳が生えた人や狼人、鱗が顔に浮かんでいる人など多くの種族がこの街に住んでいるみたい。

「このあとどうしようか?」

 人混みを抜けて噴水がある広場にでる。待ち人や冒険者ぽい人達の集まる端の方に移動し、提案がある人ーと聞くと、とりあえずお金をどうするかという問題が発生した。確かに、この世界のお金は持っていない。聞き込みしますか、と近くでリアカーに積んだ花を売っていた銀髪のお姉さんに声をかけてみる。

「あのすみません。私たち、冒険者をしていて…」

 人混みの中で冒険者と名乗っていた人とすれ違ったので職種名を拝借。

「あら、それじゃあなにか素材かアイテム持ってる?」

 素材?これでいいのかな、しゃもじの木塊と道中で拾った黄色のポピーのような花を見せた。お姉さんは、少し驚きながらも優しく大体の価値と質屋の場所を教えてくれた。

「ブレアは最近あまり流通していないから一輪銀貨二枚は妥当ね。こっちの素材は若いトレントかしら?それなら部位によって金額が変わるわ。弟のクロエには連絡しておくから、シーラから紹介されたって言ってね。」

「シーラさん…ですか、はい。ありがとうございます。」

 ぺこりと頭を下げる。すると彼女はくすっと笑い、手を振った後に指差しで道を教えてくれた。その先へ、広く人が溢れた大通りを進んでいくと、大きな看板が掲げられた店があった。

Chloe(クロエ)。ここじゃないかな?」

とモモが言った瞬間、

「ックソ!こんな店くるんじゃなかった!」

the勇者みたいな格好してる男の人が店から転がり出てきた。しかも追い討ちをかけるように丸い水晶玉みたいなのが彼の顔にクリーンヒット。え?店の人めっちゃヤバイ人なの?!とビビっていたが、店の奥から出てきたのはあれ?シーラさん?この店を教えてくれたお姉さんにそっくり。…いや、シーラさんはロングスカートに白のブラウスだったが、この人はパンツにワイシャツだ。落ち着け自分…深呼吸をしようとする前に、彼女は男の襟首を掴み、かなりドスの効いた声をあげた。

「てめえが水龍の秘宝なんざほざいて、偽物を寄越したからだろ!詐欺師はこちらから願い下げだ!!」

 そして勢いそのままに道路へと投げ飛ばしてしまった。姉さんの迫力に茫然自失しているとこちらを睨み、私の顔を掴んだ。

「「ナス!?」」

 姉さん?姉さん?あたい何かした??とぐるぐるとなる私を他所に頬のマークをじっと見ている。しばらくすると投げ飛ばすように解放、店の中に呼んでくれた。

 乱暴な性格とは裏腹に店の中は整頓され、大きな棚に値札と一緒に鉱石や花が並べられている。カウンターには黒髪の優しそうなお兄さんが何かを見ていた。

「ルーク、客。」

「あ、いらっしゃい。クロエいい加減ちゃんと接客してよ。」

 うるさいなと言いつつ、彼恐らくシーラさんの弟さん、クロエさんはルークさんの隣に座った。

「シーラさんの紹介できました。ヒナです。隣からナス、モモ、ネギ、モチです。」

 ぺこっと会釈すると返してくれた。

「それで、何を持ってきてくれたんだんだい?」

 カウンターに木塊とブレアを出す。彼はキラキラした目で木塊をまじまじと手に取ってみている。

「…ちょっと調べてくる。ああ、椅子そこにあるからかけて待ってて。」

 と店の奥に行ってしまった。皆どうしようかと顔を見合せ、椅子に座ることにした。しばらく沈黙が続いたが、彼がブレアを見て口を開く。

「姉さんから聞いたが冒険者なんだって?」

「は、はい。」

 ネギが答える。

「じゃあこの花は大切にした方がいい。ブレアは上等な薬草、上手く煎じればポーションになる。健康を祈るまじないにも使ったりするしな…見た感じ、帽子のお前が魔法使いか?」

 彼はモモに小さな本を渡した。この世界の言葉らしく読めないがかなり古い本なのは分かった。皆が少し身を引くと、モモは流し読みを始める。

「魔導書に作り方が載っている。欲しかったらかなりの額が必要…」

「あ、大体理解したのでお返しします。」

 モモがカウンターに戻す。いや、読めたの?覚えたの?早くない?

「お前、読めたのか?いや、流し読みで覚えられたのか?」

「はい。あ、ついでに使い魔も召還したかったのでそこも読みました☆」

「「まじかよ…」」

「鑑定終わったよー…て、どうした?クロエ。」

 呆れた彼は、帰ってきた彼にモモの話をするとめっちゃ爆笑してたし、彼は再び溜め息をついていた。

「いやー、やっぱり君たちは面白いね。そうそう、これしゃもじの木塊だよね?しかもレベル2、3の。Jr.だったらどうしようか迷っていたけど、これとブレア含めて銀5枚でどう?」

「こんな木屑にしちゃあ高値じゃねえか?ブレアは銀2枚だとしても。」

「しゃもじは討伐しても誰も素材を持ってこないでしょ?だから研究材料としての価値が高い。それに彼女たちの持ってきたものにいたっては質も量もいい。だからこの値段。で、君たちはどうなの?」

 この世界のお金なんてわかんないし、良い値らしいのでそれでお願いした。他にもあるんですが…と遠慮がちにポケットやらベルトに括り付けたりしていた大量のしゃもじの欠片をカウンターに出す。

「追加も含めて交渉成立ということで。これはシーラさんからのおまけね。」

 棚の下を漁った後、ルークさんからお金の入った布袋と紫色のリンドウみたいな花を渡される。

「バイポアっていう毒花だ。扱いに気を付ければ、良い薬が出来る。まあお前らみたいな新米冒険者じゃあ難しいだろうがね!」

 クロエさんが頬杖をついてドヤ顔をしているのに対して彼は不服だったのか、

「クロエ、いい加減にしろよ。シーラさんに貴方の弟は魔術バカですってチクるぞ。」

「…あざした。」

 軽く手を振って見送ってくれた2人が見えなくなるまで歩いた後、くるりと皆の方へ振り向く。

「クロエさん、美男子過ぎない?」

 私がそういうと皆は大きく頷いて口々に話し始めた。

「マジでそれな!!いや本当に!顔面偏差値の高い青年が仲良くしてるとか最高かよ?!?」

「ヒナも思った?ネギも思ったよ〜!やっぱり好青年は神だよね〜!」

「ルークロ?クロルー?ナスはどっち派?」

「モチ、言わずとも私はリバ派だ。(キリッ)」

「えーと、取り合えず今晩どこに泊まろうか?」

 モモの一言で先に宿を探すことにして、人波の中を歩く。色んな宿を回り、回り、回り結局どこも断られた。武器の持ち込みがダメだとか、子供だけがダメだとか、明らかに入っちゃダメなやつばっかり。もう日が沈みそうだったが街の地形は覚えた。

「武器の持ち込みと子供が良くて普通の宿は無いの!」

 とつい叫んでしまうと後ろからとんとんと肩を叩かれた。振り替えると紙袋を持った和装の同い年ぐらい女の子が見ていた。あれ、顔に見覚えが。

「ハル?」

「よっ、ヒナたち。お久しぶり!」

 ハルは同い年の友達。今は松のしっぽという宿を経営しているらしい。(正しくは次の宿主らしい)お言葉に甘えて、泊まらせていただくことになりました。本当に知り合いが多すぎるから。マジで。

 煉瓦造りの建物の中に木で出来た和の店って印象。松のマークにしっぽが丸く付いている金色の看板が揺れている。

「5人だよね?ナタリーさん、梅の部屋に泊まらせてあげて。」

 カウンターにいた、短いくせっ毛の女性は微笑みながら頷き、ファイルから紙とペンを出した。

「1晩銀1枚です。」

「どうぞ。これ、名前書きますか?」

「いえいえ、ジョブと武器の名前をお書きください。紛失や破損に関して当店は責任を負いかねないという契約書になります。」

 ということなので渡された4枚各自で書き、部屋に通してもらった。1階はトイレと風呂場、2階は宿部屋になっているらしい。階段の踊り場で靴を脱ぎ、壁にある靴箱に入れる。階段を登り、真っ直ぐの廊下に並ぶ6つの部屋の内、1番右奥の部屋が私たちの部屋らしい。

「はい。この鍵使って。」

 鍵に梅マークのキーホルダーがついている。扉を開けると中は畳が敷かれ、木製の机、小上がりと押し入れがあるシンプルな和室だった。

 なんか修学旅行の気分。と思いつつ部屋の端に武器を置き、だるーと座る。机の上には急須と湯呑みが置いてある。入れたばかりらしく温かい。

「お茶入れるね。」

「ヒナあざーす。」

 手際よく皆の分をくんで、渡してくれた。

「あのさ、しゃもじって魔物じゃん。掃討するのにも時間かかるし一斉にできる方法があるか魔王に聞けば解決しない?」

 ナスがお茶を飲みながら言った。

「あー確かに。でも襲われない? 魔王っていったらラスボスだし。」

 モチがごろごろしながら答える。

「それより魔王がいる場所知らなくない?」

 ネギの答えに「あー」と皆でハモる。

「明日、ハルに聞いてみる?」

「もしかしたら知ってる人を教えてくれるかもね。」

 どんな魔族がいるのか、どんな魔王なのか、期待を膨らませながら私たちは1日の終わりを過ごした。


 松のしっぽで朝食を済ませ、早速冒険者ギルドに向かう。ハルがいうに魔の国(魔族の国)へ何度か行っている冒険者が何人かいるので情報を貰えるかもしれない。

「で、ノリできちゃったけど。」

 カウンターにいる男子にめっちゃ睨まれてるんだけど。

 金髪でつり目、小さめな顔で、愛想よければ可愛い系なんだけどピアスをギラッギラに光らせているし、蛇に睨まれた蛙状態の私たちを見て舌打ちしてるし。もう、絶対ヤンキーとかそんな類いの人だって!

「おい!」

「はい!!」

 ずんずんと大股で進んでくる。(あっ、身長低めなのね)紺のVネックにベルト、淡い緑のパンツ。腰からじゃらじゃらと揺れている鍵と反対側に光る拳銃。や、やられる!!

「今まで倒したモンスターを言え。」

「「「「「「はい?」」」」」

「だから、てめらの戦歴を」

 バコンッ!あらー良い音…じゃねえ!ヤンキーの頭を分っっ厚いファイルで殴ったのは高校生ぐらいの大人しそうな紺色の髪の青年。

 ヤンキーは頭を押さえながら誰だよ!と叫び、彼を見るなり母に悪戯がばれた時の子供のような顔をした。彼はそれを見て無言でポケットから…可愛らしくラッピングされたうさぎ型のクッキーを出した。

「…わ、悪かった。」

 彼は首を横に振り私たちを指差す。ヤンキーはこちらを向き、

「驚かせてすまなかった。あんたらは職を探しに来たんだろ?まず、今まで倒したモンスターを教えてくれ。」

と先ほどとは180度ぐらい口調が優しくなった。それは良いとして、情報を貰えるかどうかを相談してみた。

「なんだよ…情報はあるがギルドに登録された奴しか教えられない決まりでね。悪ーが、そこらにいるパーティーに聞いてく…聞いてみてください…」

 溜め息をついてカウンターに戻るヤンキー。するとあの紺色の髪の彼が微笑みながら、クッキーをあげた。嬉しそうに食べ始めるヤンキー。

 それを見た私たちは拝み、聞き込みを開始した!厳つい世紀末衣装の冒険者達は機嫌が悪いのか何故か睨みをきかせ、じっとナスの頬を見る。

「俺達は迷子や行方不明になった人を探す仕事をメインでしてるんだが、その印は刺青か?」

「ま、まぁそんな感じかと…。」

「十字架像にとぐろを巻いた蛇ねぇ。趣味は悪いが最近、行方不明になった奴もそんな刺青をしてたってよ。関係があるのかは知らないが姉ちゃん達も気を付けな。」

ニカッと豪快な笑顔を見せて彼らはカウンターへと去っていく。腰が抜けそうな下半身を踏ん張って皆に話そうと振り返るが誰もおらず、ヒナとモチは和装のグループ、ネギとモモは猫ぽい人のグループと話していた。自由かよとツッコミつつ体長2mは軽く超えてそうな鶏をカウンターに持ってきた猟師姿の人に声をかける。

「森の方に行かれてたんですか?」

「ああ。」

鈴のような可愛い声・・・しかし会話終了。視線だけが向いているが全く口を開こうとしない年齢不詳の彼女。

「え、えーと実は私たち魔王に会いに行きたいんですけど…。」

「魔王に?」

「はい。…それで魔王がいる場所を知っている人が居ないか聞いて回ってるんですが、お姉さん知りませんか?」

「…知らん。」

ですよねー(笑)いや、そう簡単に知ってる方がおかしいよね。うん、そうよね。

「我々は冒険者と言っても何でも屋に近い。各々の得意分野で依頼を受けている。だから地図作りや冒険を得意とする奴らに聞くのが1番だ。」

アイツらとかな、と指さした先にはモチ達に話しかけていた女性2人組がいた。深くお辞儀をして皆と合流する。

「君たち、新しい冒険者?」

 声をかけてきたのはふわっとしたミディアムの茶髪に猫耳を生やした女の人だった。隣には魔法の杖っぽいやつを持っているロングの黒髪の女の人が困った様子で見ている。

「いいえ、違います。」

「じゃあなんでここに?ここは子供が来るような場所じゃない。」

 おう、お姉さんって感じ。

「実はしゃもじについて情報が欲しくて。」

 ヒナが言うと、猫耳のお姉さんはふわんと笑い

「分かんないけど、魔王城に行けば何かしら分かるよー。」

「ハアー、ドロップ。彼女たちは子供よ。私たちでさえ行けなかった魔王城に行けると思う?無謀な戦いは止めた方がいい。」

 杖のお姉さんに怒られ、ぺたんと耳をたらした猫耳のお姉さん。

「…カリル怒らないでよ。教えるだけだしね?あのねーこの先に大きな壁があるから、そこに行ってみると良いよ。あとは門番さんが教えてくれるからー。」

「ドロップ!」

 お姉さんはまた怒られていたが私たちに手を振って見送ってくれた。そして、杖のお姉さんに小さく何か言うとにっこりと笑った。

 ドロップさんに言われた通り、大通りを進んでいくと兵士の格好をした人達がいる大きな門の前に出た。真っ白な壁の上には赤い小さな屋根がついているが大きさのせいか圧迫感がある。

「お前たち、こんなところで何をしている。」

 大きな木の門の前にいた兵士さんに声をかけられた。

「魔王城に行きたくてきました。」

 ナスが馬鹿正直に話すと兵士さんはギルドの申請書を見せろと呆れ顔で言った。しかし困っ…てはないけどそんなものは無いしそんなのがあることすら知らない。

「えーと、信じてもらえるかは分かりませんが私たち転生者でして…」

 ヒナが説明を試みるが明らかに信じてないような顔。急に転生者ですなんて言ってもダメだよね。どこかにいけそうなところがないかな…壁、屋根、空…!

「モモ、使い魔召喚ってすぐできる?」

 小さな声で聞くとモモは察したらしく紙にものすごい早さで魔方陣を書き上げていく。ヒナたちが必死に説明をしているおかげで兵士さんは気づいていない。

「できた!」

そう声が後ろから聞こえた瞬間、ドスン!と何かが落ちる音がした。

「「「カピバラ?!」」」

ムスーとした顔とぴょこぴょこと動く耳、茶色の毛皮を纏ったカピバラなのだがサイズがおかしい。高さは1mより大きい位しかないのだが横がでかい。恐らくタブルベッド位ある。

「もふもふだ!」

 モモがカピバラに抱き付き、もふもふし始めた。皆は察したらしく呆れながらもそれを見ていた。あれ、兵士さんは?周りを見るが彼らの姿は見えなかった。

「ねーねー、皆で乗れそうだよ。」

とアトラクション感覚で乗り始めると、カピ隊長(モチ命名) が急に走り出した。その勢いに全員がしがみつき、また門を壊してしまう。

「雑過ぎるだろ!?」

 帰ってきたら絶対なんか言われるって。白い壁にぽんと空いた穴に溜め息をついた。

 暗い森の大きな木はすぐに通りすぎていき、当たる風のせいで髪の毛が顔に引っ付いてくる。皆も似たような感じで必死にしがみついている。大きな木に囲まれた場所から抜けるとキュッとカピ隊長が急ブレーキをかけ、私たちは地面に放り出された。

「いてて…なに?急なんだけど…」

 腰を擦りながら立ち上がる。どこまで来たんだ?周りは家々が並んでいて、道は石畳。人の気配がしないという点を抜けばどこにでもありそうな所。

「あれ、人?」

 ヒナが指を指した方にふらふらと歩く人影が見えた。ざっと見て20人おり、その人たちはどこか彷徨うような足取りでこちらへと進んでくるそれらは鎌や斧、包丁といった凶器を握っている。

「無害…では無さそうだね。」

 モチが溜め息をついたのと同時に、鎌を持ったそれは私達に襲い掛かった。すぐにヒナとネギはたじろぎながら後ろに下がり、他の3人は戦闘態勢に入る。そして、

「あっ、これだと凍死しちゃうかな?」

 モモが氷結系魔法を発動させ、勢いよく氷柱がその人達を飲み込み体の自由を奪った。氷像のようになったその人たちはピクピクと動く。心臓の辺りをばっさりとやられてますね、こりゃ!右肩から左鳩尾まで大きな刀傷のようなものがあり衣類は赤錆色で染まっている。よく見ると他の人は首が皮1枚で繋がっていたり、頭部がかけていたりとあまりに悲惨な状態だった。

「んー、それは大丈夫。この状態で生きているはずないから。…ただ本当にこのひとたちだけなのかな?」

 ナスがそう口にすると、周りの家の中や屋根から人が覆い被さるように出てくる。フラグ回収早すぎるだろうがァ!逆に運がいいのか?!いいのか!?と嘆きつつ、鎌や包丁を持った複数人の攻撃を避け、俊敏のスキルを使いながらネギは剣をふる。ナスは後退しヒナとモモを守りつつ、近付いてきたそれを盾で払い飛ばす。モモは氷や風を発動させて広範囲で攻撃をし、ヒナは倒した人が落とした鎌などを使って戦っている。

「武器が足りない!」

 叫んだモチの後ろに包丁を振り上げた敵がいたが、ネギが容赦なく剣を振り下ろした。それで襲ってくる人達は全て行動不可能となった。

「ネギありがとう。」

「いえいえ。」

「ウッ…モチら大丈夫?怪我してない?」

 気持ち悪そうに口を抑えたヒナが回復をしてくれるが、服の所々に切れた痕が残ってしまった。

「モチ。死体を操るのってネクロマンサーだよね?」

 ナスは倒した敵をツンツンしている。その隣でモチは、

死霊魔術師ネクロマンサー?死者や黒魔術使う魔術師で死靈アンデッドを召喚したり、操ったりする…あー、はいはい。ナスが言いたいことは大体分かった。」

「魔術師は大体近場にいるのが定番だよね。小隊を動かすとなると千里眼とか遠くのものを見れるスキルか道具が無いと把握しずらいから尚更…て、あれ?ヒナとモモは?」

 その場からいなくなったヒナとモモがふらりと路地の方へ、何か見つけたのかと不審に思った私たちはそれを追いかける。

「君、迷子?」

 ヒナが声をかけたのは踞っていた10才位の短い灰髪に赤い眼、右片眼しか隠せていない笑った顔の仮面が印象的な女の子だ。

「お父さんとお母さんがいなくなっちゃったの。」

 可愛らしいソプラノが震えている。蹲って表情はみえないが、周りは死靈だらけの場所にいてしかも親と離れてしまったとなると、相当怖いだろう…。

「じゃあ一緒に探してあげる。行こう?」

 ヒナが差し出した手を少女が取ろうとした瞬間、青ざめたモチがヒナのことを力強く引っ張った。勢いで後ろに倒れるヒナ。少女を睨むモチ。一瞬の出来事に頭がついていかないが、なぜモチがそんな事をしたのかは少女の大きく広がる袖から覗かせていた漆黒の鎖鎌が語っていた。

「喉、切れてないよね?」

「痛々。ッ…少し切ったわ。」

 ヒナの首から一筋血が流れている。 急いで布で出血部位押さえ、深呼吸をしてヒナが自身を回復する。

「あれ?せっかく狙ったのに…もう!黒のお姉さん許さないからね!」

 頬を膨らませながら怒る少女。いや可愛いな、、、イヤイヤイヤ!じゃなくてなんなの?この子?

「黒のお姉さん…」

 隠しきれない笑みで少女が言った言葉をモチは復唱する。おい、脳内で激しく萌えている奴がいるぞ。少女は弧をかくように飛び、黒い鋭利なものを投げた。ナスはヒナを防御し、ネギとモモ、モチは払い落としたり風で軌道をづらしたりして回避した。地面に錆びた撒菱が散らばる。

遊ぶ子供のような表情をする少女は盾を着地場に、袖口から覗く鎌を振る。

「オラッ!!」

 しかし当たる前に少女のことを振り飛ばしたナス。壁に体を打ち付け、相当痛かったのか泣いてしまった。えー…この子、めっちゃやりずらい…。

「ウッヒック、ワーン!おとーさん!!」

 少女が叫んだ瞬間だった。突如として現れた霧がみんなを飲み込み、全員の体が動かなくなった。全身に麻痺がかかっているのかつった時の感覚で目茶苦茶痛い。

コツコツと靴音が聞こえ、霧の中から姿を見せたのは黒いローブで顔を隠した男だった。

「お父さん、怖かったー!」

 少女は何事もないように男に駆け寄り、抱っこを要求する。男は何も言わず少女を抱き、そのまま霧の中へ消えていった。パッと霧が晴れ視界が良くはなったが

「ッー!!クソヤロー!!!」

 全身痛過ぎてまともに動けるメンバーはいなかった。

 しばらくしてから麻痺が解け、やっと全員が動けるようになった。

「チッ、これだから子供は、嫌いなんだよ…」

 不機嫌な顔になるモチ。いやあんたさっきまで可愛いって思ってたやん。とツッコミを心で収めると、モモが悩むポーズをして話し始める。

「それにしても、あの男の人なんだったんだろう?」

「モモ、聞いてなかったの?女の子、お父さんって呼んでたじゃん。」

 ネギが言うも思い出せない様子のモモ。

「とりあえず皆無事なんだし、これからどうするのか決めよ…ナーちゃん?おーい。」

「チッ、あのガキ許さん!んだよ、人の友人襲っといてビービー泣いた後、怖くなったからって父親呼んでとんずらしやがって…痛ーんだよ!ビリビリするし!」

ヒナの隣でブチ切れのナス。いやー沸点低すぎ!と自分でも思う。と言うことで

喧嘩(バトル)しに行こうぜ!」

「ナス、ルビがおかしいよ。」

 みんなの呆れ顔を他所に、あの少女を探すことになった。向かうのはもちろん、あふれ出てくる人もとい屍兵ゾンビのいる方へ進んだ。え?屍兵はどうしたかって?もちろん!

「わ゛ー!内蔵物出てる!!グロいグロい!!」

 モモが氷で一括冷凍!

「オラァー!!ドンドンこいやー!」

 ナスが盾で横殴り!

「ギャー!来んなー!!」

 ヒナが毒粉で腐食!

「よ!」

「以外と難いね。」

モチとネギが刃物で両断!です! Victory!

「ここ?」

 ヒナが指を指した場所、屍兵を倒し続け着いた場は家々からかなり離れた洋館の前だった。さっきの場所と同じく人の気配はなかった。なので、バンッ!と、ドアを勢いをつけて躊躇なく開けたナスを先頭に洋館の中に入っていく。

 内装はまさに貴族の洋館。薄暗いホールはとても広く、正面には大きなドアと階段。左右にも同じドアがある。上の階はどうなっているのか分からないが外装から考えてかなり広い洋館だ。

数歩足を進めると床が少し光った気がした。

「ナス、盾!」

 ネギが叫んだのと同時にナスのもとに集まる一同。よくわからず上を向くとたくさんの槍が降ってきていた。

「サイズ!サイズ!」

 みんなが叫ぶし、急だし、とりあえず大きくなれ!!混乱しながら盾を天井に向け、強く願うと盾から魔方陣が発生。青色のそれは盾と同じ役割で降ってくる槍が弾かれる。だが、その分肩が痛くなる程重かった。

 槍が止み、目の前にあの少女ともう一人少女がいた。二人はニコニコと笑っている。

「僕の名前はクロ。男だよ!」

 隣にいた少女…少年は青い眼で少女と反対側に同じようないや、泣いている仮面をつけている。

「僕の名前はユリ。女だよ!」

「「僕らは道化師。死に神と呼ばれた迷い子の果て。」」

「ねーねーユリ。僕良いこと思い付いたよ。」

クロとユリは、両の手を合わせて向かい合う。

「遊ぶの?僕遊ぶの大好き!」

「お姉さんたちと鬼ごっこ!とっても素敵だと思わない?」

「とっても素敵!でもあんまり騒いだらお母さんに怒られちゃう。」

「そんなときはお医者さんごっこをしよう。お姉さんたちが患者さん。おやおや、あれれ?一人もうお風邪みたい。僕はお姉さんを連れていくね。」

「じゃあ僕はお姉さんと鬼ごっこをするね。」

 クロくんが手をこちらに向けると同時にユリちゃんが距離を詰めてきた。曲げた右腕を大きく払うと鉄球が飛んできた。それをジャンプで避けるが見計らったように火のファイヤーボールが飛んでくる。盾を使い、なんとか避けるが着地が良くなかった。気が付けば下は屍兵だらけ。いやどこから出てきんだよ!?とツッコミ虚しく、モモが屍兵にキャッチされ、そのまま連れていかれてしまったのだ。連携プレーじゃん…唖然。

「モモちゃん!」

 ヒナが手を伸ばし追いかけようとするが再度屍兵がホールになだれ込みこれを拒む。

「ヒナ!」

 ネギが屍兵を斬り倒し、ヒナを引っ張る。ネギはヒナを後ろに次々と現れる屍兵を倒していく。

「モチ、ヒナ連れてモモ助けに行ける?」

 どこかへと消えて戻ってきたモチはナスの提案に二ッと笑う。

「ん、いける。部屋に付けられてた罠は見つけた分解除しておいた。あと1箇所残ってるから、階段下。気をつけて。」

 大きく広がった袖口から短剣を出し攻撃してくるユリちゃんの攻撃を受けつつ、隙を見て盾で攻撃を仕掛けるが俊敏で柔軟な動きのせいで当たらない。

「ネギ、モモ助けてくる!ヒナいこう!」

「OK。屍兵はやっとくわ。」

 ネギが屍兵を倒し空いた道をモチはヒナの手を引き、階段をかけ上がった。

「あれー?黒のお姉さんたちどっか行っちゃった。…でもお母さんにお願いするからいっか。」

 ユリちゃんはナスから距離を取り直し、鎌を構えながら獲物を仕留める眼でネギたちを見て、彼女の片目がルビーのように光った。

(一方、上の階に向かったモチたちはたくさんある部屋をしらみ潰しに見て回っていた。

「モチ!」

 ヒナはモチを引っ張り近くの部屋に隠れる。

「どうし、!!」

 ドアの隙間から見えたのは黒髪の女性で真っ黒のシンプルドレス、二の腕辺りまである黒の手袋を着こなしている。しかし持っているのがさっきまで生きていたのだろうか血の滴っている腕。それに加え、口元が真っ赤に染まっている。明らかに屍兵よりもヤバイ奴だと2人は思うが完璧に戦意喪失状態なのでとりあえず見つからないようにと通りすぎるまでの間じっとしていた。

「…行ったね。」

 ヒナは胸を撫で下ろした。

「怖かった…」

 モチが床にペタンと崩れる。

「ん?…指輪?」

 右手の下にあったのは金の枠に薄い緑の小さな宝石がはまった指輪だった。枠には水か風をイメージしたような模様が彫ってある。

「綺麗だねって、早くモモちゃん探しにいかなきゃ!」

「確かにそうだけど武器無しじゃ勝てないからさ、ここら辺のやつ借りない?」

 初めは暗くて分からなかったがどうやら武器庫らしく無造作に槍や剣、銃などが箱に刺さっていた。モチが近くの箱を漁ると手榴弾や爆弾などを見つけ、ヒナは短剣と拳銃(ホルスター付き)を借りることにした。

 そーっと回りを確認しつつ部屋を出て残りの部屋を見て回る。見ていく部屋のほとんどは本や何に使うのか分からない木や石などの材料だった。そして1番奥にあった部屋のドアを開ける。すごく広い部屋の真ん中に人影があった。

「あーあー、お姉さんたち来ちゃった。」

 クロくんは片手に短剣を持ちながら笑った。足元には魔方陣が光っていてその上に仰向けでモモが縄で縛られている。

「もちやま氏、ひなぐち氏助けて!まじでこの子ヤバイ!」

「もーお姉さんがさっきから暴れるから取れないじゃん。」

 クロくんはもーと怒るポーズをした。

「1つ聞くけど、何を取る気?」

 モチがそう聞くとこちらに顔を向け、光を失った狂気じみた目と口の端を上げ

「心臓だよ。」

と笑った。2人は冷や汗が止まらなかった。もちろん転生者であるので生き返りはするがこれはきつい。

「なんでそんなことするの?」

 ヒナの質問に顔を暗くし、歌を口ずさむ。

「町の端には魔女がいる~、悪徳非道の魔女がいる~。乾期、感染、呪い、全て全てやつのせい~。殺そう殺そう町のため!殺そう殺そう町のため!男もいたぞ?子供はいないか?男も殺そう!子供はどこだ!魔女が復活する前に!」

「…クロくんとユリちゃんは、魔女の子?」

 ヒナがそう言うとクロくんはにこにこと嬉しそうに笑った。

「それで魔女復活させるためにモモの心臓が必要なわけね。」

 モチはそっと手榴弾に触れる。

「ユリの夢×を叶えるためなんだ。そのためなら僕はなんだって出来る!」

 短剣を振り下ろそうとした瞬間、大きな爆発音が洋館に響いた。クロくんの手が止まる。

「案外簡単に爆発するもんだね。ヒナ、モモ頼む。」

 モチは思い切り手榴弾を投げた。クロくんはそれを火の玉で爆発させたが、もう1つ投げられたものに気づかず充満し始めた煙を大きく吸った。

「!!」

「ヒナーモモー。煙が充満する前に逃げるよ。それ毒だから。」

 ヒナはモモの縄を切り、大急ぎで逃げる。部屋を出ると廊下は炎と瓦礫で埋まっていた。

「あーそう言えば逃げ道考えるの忘れた。」

「もちやまー、お前ちゃんとしろよー!」

「風とかで道空かないかな?」

 ヒナが呟くと指輪が大きく光り、大きな風が小さな道を作った。

「え?つけてたっけ?これ。」

「ん?私がつけた。気付いてなかったの?」

「それより、ほら!急がないと!!」

 再度広がり始めた火の壁と小さな道へ飛び込んでいく。

「痛っ、本当になんなの!この人!」

 黒髪の女性は容赦なく鎌を振りナスの首を狙う。それをなんとか防ぎ、屍兵が落とした短剣で突くが中々上手くいかない。

「…危な。」

 ネギは腕に絡まった鎖をなんとか外し、ユリちゃんが鎌を振り下ろす前に切りかかった。肩を浅く切り、距離をおいたユリちゃんは肩で息をしていた。足や腕からは互いに血がポタポタと滴っている。2人が再度足に力を込めた瞬間、2階から大きな爆発音が聞こえ、大きな瓦礫と一緒にヒナ、モチ、モモが飛んできた。

「「ヒナたち!?」」

 真っ逆さまに落ちてくる3人にどうしていいか分からない、敵も止めてくれないのでどうしようもならない2人があわあわしているとモモが風で着地を補助した。風がクッションみたくなっていたのか3人はほぼ無傷だった。

「…なんて、そんな風に進めたら良かったのになぁ。」

 現実逃避した思考に対して現実はあまりに厳しかった。

「モチ、ヒナ連れてモモ助けに行ける?」

 どこかへと消えて戻ってきたモチはナスの提案に二ッと笑う。

「ん、いける。部屋に付けられてた罠は見つけた分解除しておいた。あと1箇所残ってるから、階段下。気を付けて。」

 2人が屍兵を薙ぎ倒しながら階段に進んでいくのを見送り、強く盾を握り直す。目の前の屍兵たちの動きは割と単純で、掴む→噛むか引っ掻くだけ。だから、掴まれたら盾や蹴りで薙ぎ払い、引っ掻かれそうな時は距離を取り避ける。重さを感じない盾だが、人の重さを薙ぎ払うのは正直腕がきつい。ぶつかる衝撃、のしかかる重量、全てが体力を減らしていくのを感じる。

「痛ッ!!クソッ…多すぎるだろ…。」

 重心がズレ、体が傾いた瞬間に背中をざっくりと引っ掻かれる。風が当たるとジンジンと痛く熱を持ち始めているが、奥歯を噛み締めてそいつを殴り倒す。痛い…そう呟くと体が一気に重くなる。周りの敵を倒す度にそれは大きくなり、思考が、息が、上手く出来なくなる。…苦しい…。

「ナス!!」

 左腕が壁に当たる。そして飛び込むようにネギは私の横に着いた。反射的に背中にネギを隠し、盾で前から襲ってくる敵を抑える。背中から肩で息をする音と私のでは無い血かポタリポタリと落ちていくのを感じる。

「...ねぇ、ここで死ぬのかな。私達。」

 震えるか細い声でネギは言った。一瞬だけ見えた、、彼女の左腕が無かったのが頭に浮かび眉間に皺がよる。

「…ネギ。」

 彼女は震えながら嗚咽を漏らした。抱きしめる事の出来ない現状に、突破できない非力差に喉の奥が熱くなる。

「ヤダ、ヤダよ、、死にたくない...死にたくないよ、、。」

 盾を握る力が弱くなっていく。ダメだ、このままだと2人共…奥歯を噛み締め、屍兵をなぎ倒す。ネギを掴んで比較的空いてる階段までの道を走り出す。

「とりあえず2階に行こう!どこかに隠れよう!」

 足取りが重く、敵を倒しながらも階段に向かってなんとか走る。いける、いける!

「お母さん、やって。」

 ユリちゃんの静かな声が聞こえた。その途端、握っていた手が異常に軽くなる。腹の底から襲ってくる恐怖に、あまりに認めたくない事実に向き合おうとする視界が捉えたのは

「ナス」

 ダンッ!大鎌で身体を両断される彼女の姿だ。脳天から真っ直ぐに降ろされた鎌が彼女の真ん中で真っ赤になって地面に刺さっていた。熱が失われていく切り落とされた彼女の手を強く握りながら、反射的に足は走り出した。

 どういうこと?

 何があったの?

 ヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダ…死が追ってくる。

 階段を駆け上がった先に続く廊下に、焦り顔のモチとヒナが走ってくるのが見えた。彼女達に近づこうと階段を抜けた瞬間、魔法陣がそこを行き止まりにした。

「ネギは!?いや、まずこれを解除するからナスどいて!!」

 青ざめた顔のモチはすぐに魔法陣にふれた。隣で肩で息をしながらヒナは信じられない顔で私が持っていたものを見ると、泣きながら膝から崩れ落ちる。

「…ねぇナス、モモちゃん見つからなかったの…あの男の子もいないし…でね、さっきまであのローブの人に追いかけられてたんだ。」

「…そっ、か。」

「そ、その手…何?」

 目線を上げたヒナは震えた声と指先で私が握っている手を指差した。苦しそうな彼女の表情に答えることを躊躇する。

 ガシャン!グシャリ…金属が何かを潰す音が響く。

「ヤダ…ヤダ…ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」

 ヒナの悲鳴が次に響いた。彼女を抱きしめて音のした方へ視線を移すと、アイアン・メイデンの下敷きになり上半身が潰されたモチの姿があった。二度目の友人の死に、胃の中から胃酸が逆流してくるが、必死に飲み込む。

「ヒナ、逃げよう。」

「ッ…モチは…。」

 ヒナに返事をせずに、彼女を立たせて廊下へと走り出す。玄関は屍兵や黒髪の女性、ユリちゃんがいるからいけない。窓から行こう。怪我は覚悟で飛べばまだ助かるはず。と窓を探して足取りを早める。

「この後、どうしよう。」

「とりあえず逃げる。窓からでもいい、この屋敷から逃げる。盾で衝撃緩和させればギリギリ負傷でイケルはず。」

「モモちゃんは?ネギだって…。」

「ネギの事は後で話すよ。まずモモを探そう。」

 廊下を曲がった瞬間、誰かにぶつかった。尻もちを着いたナスと足を止めたヒナの前に現れたのはぼんやりとしたモモ。

「モモちゃん!」

 ヒナはモモに駆け寄った。それが何故かスローモーションに見える。思考がぐるぐると動き出す。あれだけうるさかった屋敷内があまりにも静かになっていた。追いかけていた筈の男が消えた。罠以外の危険な物がいなくなった。そして、ぼんやりとした言葉を発しない、新しい服をきたモモが現れた。

「ヒナだめ!!」

手を伸ばし叫んだ瞬間に、モモが彼女の胸に手を触れ、氷漬けとなった。

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」

 誰も、誰も、誰一人仲間を助けられなかった。悔しさ寂しさ辛さが混ざりあって悲鳴と涙が溢れてくる。

「誰も助けてくれないね。」

クロくんがモモの後ろから顔を出す。

「だって皆死んじゃったもん。お姉さん一人だけだね。」

ユリちゃんがヒナの後ろから顔を出す。

「「バイバイ。」」

 双子が手を振ると屍兵の雪崩に飲み込まれる。身体を引っ張られ、噛みちぎられ、抉られ、身体中が叫ぶような1度目の死以上の痛みが押し寄せてくる。

「、皆、離れて、いかないで。」

 押し潰されそうな孤独感、置いてかれる恐怖の中で転生後1回目の死を迎えた。

_________

 次に目を覚ましたのは、誰かが名前を呼んでいたからだ。

「ナス!」

「はいぃ!!って、あれ?」

 目の前にいたのは、人間サイズの動く餅。その後ろで覗き込むように見ている同じサイズの動くネギとモモと…。

「黄色のスライム?」

「きな粉だよ!!」

「そ、その声は我が友ヒナではないか!」

「そうだよ。てかなんで山月記!?…まあ、いいか。ナスが1番起きるの遅かったけど、体に変化ない?痛みとかあったら回復できないか試してみるよ。」

 ん〜と言いながら、体を見る。つるつるとした紫の丸みを帯びた縦長の体。まるでイラストでゆるく描いたような細くてしなやかな棒に、丸い手足。はい!戻って参りました茄子ボディ!

「また食べ物ボディになった事以外は全く問題無し!」

 ピースを彼女にすると、ホッと息をした。

「いやいや、皆レベル一スタートなのは問題だよ。」

とモモが邪眼を発動させて呆れる。彼女がステータスを見た感じ、技や称号、加護は復活前と同じでレベルだけが初期化されたらしい。ネギが腕を刃に変化させて、周りの木を切り倒す。軽く腕を払う仕草だけで人間の胴体位太い木が両断、バタバタと伐採された。

「オオオォ切れ味抜群じゃん!」

 ナスがでかい声で言いながら拍手をすると、ネギはいやいや〜と頭をかいた。その隣で伐採された木にまとわりつくモチとヒナ。傍から見れば異色過ぎるスライムの集まりに見えなくもないのが、可愛いと思ってしまった。クッ可愛いなぁ!モチィとかノビィンみたいな謎の効果音しそうな動きが絶妙に可愛いな!

「で、これからどうする予定?パッと見た感じ森だけど…」

 モモの言葉に周りを見る。よく見ると、今いる場所だけが森にぽつんと出来た芝だけの開けた場所。そして、どこかへと続く森への道。

「この先真っ直ぐで、そして二本道になるんだよね。」

 モチが道の方を指さす。皆はそちらに近づいて、うんうんと頷いていた。なのでとりあえず頷く。

「まっ!私は覚えてないけどね!」

「「いや、覚えてないのかい!」」

 ネギとヒナが同じタイミングでツッコミを炸裂させた。

「仲良しじゃーん。」

と笑いながら彼女達を両手で指すと、それな〜可愛いよねとモチとモモが笑った。人間じゃなくてもこうやって楽しめる皆が本当に好きだ。口にしないで、頬をかいた後、彼女達と一緒に笑ったのだ。そして目の前の道を皆で歩き、川が右に流れている道、記憶する道を進んでいく。

「あ、分かれ道。」

 モチが指を指す先、見た事のある左右に分かれた道がある。

「そういえば左の道に行ったらヒナが居たんだよね。悲鳴が聞こえてこっちに行こうってなったんだよね。」

「そうそう!」

 ネギが大きく頷く。ヒナは嫌そうな顔で左へ進み先の方を指差す。その先へ、ぞろぞろと彼女の後ろをついて行く。

「ここら辺の茂みがガサーッてして、ワー!って出てきたんだよね、、え?」

 彼女が左の茂みを指さしながら硬直する。

「ヒナどうした?…え?」

 そこには静かに佇む1番初めに遭ったしゃもじがいた。なぜに待機?!?いや、待ち伏せか?!?

「ーーーー!!」

 あ、そういえばこいつは喋れないんだっけ。口を抑えられた様な奇声をあげて、茂みから飛び出してきた。 狙いはヒナなのか虫取り網をグッと構え、目線を彼女に向けている。着地を狙って腕を盾に変換させて構えた直前、ザシュッ!風のような素早さで氷塊がしゃもじの腹を貫き、ネギが頭を切り落とした。空中でバラバラになるそれを軟化したモチが破片ひとつ残さずに体に巻き込んでヒナの隣に着地した。

「いや、コンビネーションパネェな!?!」

 ツッコミを心で抑えきれずにナスは叫ぶ。ヒナも唖然として拍手をした。死ぬ前に色々戦ってたから出来た動きだったのかもしれないとどこか納得をしながら、カランカランッと身体からしゃもじを吐き出した。前もそうだったけど、呆気ないなぁ。もしかしたら転生させる時に私達は戦闘能力高めに設定されてたとか?体術とか喧嘩とか無縁だったのに戦えるし、敵と認識してそれを倒す事への罪悪感が一切ない。人型じゃ無いと言えど、生き物なのになぁ…。

 それらを拾って、一本道をテクテクと進んでく。ぼんやりと不思議な姿の皆を後ろから見ながら。

「…ヒナの名前、なんでキナコじゃないんだろう?」

 そう口にした途端、背中に凄い速さで氷が走っていく。口をバッと押さえ周りを見るが今の発言は聞いていなかったのか、楽しそうに四人は話している。滴る冷や汗と共に下を向く。誰かの目線が深く刺さっている気がする。これは知ってはならない、それか言ってはならない暗黙のルールのようなものだったのかもしれない。肺にゆっくり空気を入れ、緊張と共にゆっくりと大きく吐き出す。

「なーに話してるの〜?」

 あっけらかんと笑って皆に絡む。抱きつかれたモモは一瞬よろめいたが、すぐに体制を直して道の先を指さした。そこには一番高いところには大きな鐘がある、不揃いな白く塗られた木製の建物が建っていた 。

「教会だね…。」

ヒナが何か言いたげに、そう言う。

「ヒナ、どうしたの?」

 隣にいたモチがヒナの方を見る。

「いや、なんかさずっとデジャブって言うか。ほら、しゃもじが出てきて、皆が倒して、この建物に来るって死ぬ前と全く同じ行動してるなって思って。」

 ヒナの言葉に一同は頷く。復活するって言うのは同じ時間の続きから命を吹き返すってことだよね?

「まあ、同じ道を歩いているし建物の位置とかは一緒になるよね。しゃもじはたまたまじゃない?大丈夫だよ!」

 ナスは茶色の扉を勢いよく開くと、何かに引っ張られ全員が教会のなかに強制入場させられる。一段上がっている場所に雑に下ろされ腰の位置が痛い。

「デジャブ過ぎない?イテテッアッ…。」

 ネギの声に顔をあげるとシスターの姿をしたヨウちゃんが立っていた。彼女は笑いながら顔を見て、こう言うだろう。

「久しぶり、ヒナたち。」

「久しぶり、ヒナたち。…ってナス、なんで言いたいこと分かったの?!心眼でも使った?」

「いや、だって前に会った時も同じこと言ってたから。」

「え?何言ってるの?」

 彼女のその言葉に空気が一瞬にして固まる。

「この世界に来て今、初めて会ったよね?」

 そして彼女のその言葉によって、ヒナの言葉が頭の中でフィードバックする。『死ぬ前と全く同じ行動してる』、皆は警戒する動物の様にして次の言葉を待っていた。

「そうそう。なんかね、創造神が話をしたいみたいだから聞いてあげて。」

 彼女がそう言うとヒナとネギはコソコソと何かを話す。絶妙に聞こえない声だから、「創造神が」「だよね」「聞く?」みたいな単語しか聞こえねぇ!!そんな事を考えていると、彼女の瞳に光がなくなり、なにかにとり憑かれたように笑う。

「やぁ、久しぶりだな。冒険者たちぃ!?!」

 ダァン!創造神にテコテコと近付き、床に思い切り盾を叩きつける。「創造神様よォ、この状況はどういうことか教えてもらおぅかぁ?あ゛??」

「ナス落ち着け!ドードー、ドードー。」

 モモが腕を掴み、ヒナがスライムの様な体で絡みつき、身体を押さえる。

「いや、扱い動物のそれかーい!」

「いや、ナスは獰猛すぎるから似たようなものでしょ。」

「ネギ酷い!」

「ナスやれ!鼻を狙えぇ!」

「モチ!お前も止めろ!ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛もうカオスだよ!」

 後ろでジャブをしながら観戦するモチとナスの行動に引き気味のネギとツッコミの収拾がつかず叫ぶヒナ。

「カオスだねぇ。」

「「ナスのせいだよ?!」」

「ヒナとモモ仲良しやぁん。」

 と、完全にアウェイ感な創造神を置いてカオスを爆誕させた一行はもうしばらくこの空間を維持するのであった…が、流石に悲しくなったのか例の神は泣き始めてしまった。

「えぇ….(困惑)」

「ナスお前!(困惑)って文字が見えるぞ!!(困惑)がな!くそぉ!なんでお前達はそうやって僕を虐めるんだ!流石に怒るぞバァカ!」

「ネギネギ、神様なのに語彙力低いね。」

「モチ、それな。小学生の方がまだ語彙力あるよ。」

「そこ!ウルサイ!」

 創造神はビシッとネギとモチを指差す。

「んで、神様神様。もしかして時間戻ってたりするの?死んだら時間戻る設定してあるの?」

 ナスが創造神に聞くと、彼?は冷や汗を垂らしながら気まずそうに人差し指をウリウリと合わせた。

「…あるんだ。」

「…あるな。」

 モチとモモは先に言えよと言わんばかりに神を見る。気持ちめっちゃ分かるよ、設定大事だもんね。

「転生させたならもっと大事にしてくれよ!」

 ネギの一言に一同が「それな。」と口を合わせる。神は何も言わずに、小さくなっていく。

「そもそも神様なのに、なんで自分で世界の調整しないわけ?」

 ナスが怒り気味に言う。神はさらに小さくなって、涙目になる。

「僕だって出来るものなら自分でしたいけど、魂の返還や送迎したり移行手続きやらで忙しいんだよ!中級魔物位の強さにしたのに、なんでそんな簡単にやられるんだよ!お前達にだって問題があるだろう!?セーブポイントまで行けてないとか弱過ぎるだろ!!もっと鍛錬しろよ!強くなれよ!ログ観てるから分かるんだからな!」

「はぁ!?そっちが勝手に使命を設定したのが悪いんじゃん!?こっちだって好きな姿で転生したかったし、もっと無双したかったわ!ただの中学生だったのにこんなに戦闘出来たことをまずは褒めて欲しいくらいだね!!」

「だから中級魔物位まで強くしたんだろう!他の転生者は自分達の人生をより豊かにする為に色々やってるんだよ!使命与えたらちゃんとこなそうと頑張ってくれてるの!分かる?!」

「知るか!それに他の転生者がいるんだったら、他の人に頼めば良かったじゃん!なんで私達なのさ!」

 喉の奥が熱くなる。それを見てか、少し驚いた神だったがこの空気の熱は冷めない。

「新しい姿で生まれ変わりたい、ファンタジーの世界に生まれ変わりたい、魔術を使ってみたい、世界へ行きたい、皆と一緒に生きたい、、お前達が願った事を叶えた結果がこれだ…叶えてやろうとしてるんだ!魂の枠は決まってるんだ!優先順位を上げるためにもお前らには使命を与えてるんだ!分かれよ!」

「分からないに決まってるじゃん!…分かるわけ、、無いじゃん!」

 頬から大粒の涙が溢れていく。身体を押さえる皆の力が弱まり、小さな声で名前を呼ばれる。

「私は、皆が居ないとどうしようもなく寂しいから願った…なのにもう一度なんて無理だよ…失いたくない…もう、目の前で居なくなられるのは嫌だ…どうすればいいの?…神様なら、答えてよ!!」

「…復活回数をオーバーすると魂は自動的に消費される。魂に残る記憶はリセットするから、そうなった後で会う事は大海から指輪を見つけるくらい不可能だ。だから強くなれ、どの魔物よりも魔王よりも。そして汝らの使命を果たすのがお前に出来る最善の方法だ。」

 申し訳なさそうに頭を撫でた神は彼女の中からスっと抜けていった。それを感じたのか、皆は静かにナスを解放した。涙が止まらない、悔しいのか感情が暴れているのか分からない。皆の方に身体を向けると、静かにモモとヒナを抱き締める。

「…わがまま、言って、ヒックごめんねぇ!またッ、だだがゔごどにな゛っでぇ!」

 モモとヒナはヨシヨシと背中を撫でた。モチとネギも泣きそうな顔をしながら、その背中を抱き締める。

「戦うの本当に怖かった…。」

 ネギは涙声で呟いた。皆も口々に戦いの中で思った事を涙を流しながら口にし始めた。本当は何もかも嫌になった事、傷が痛くて辛かった事、皆が一人一人消えてしまう事が怖かった事、敵との力の差に絶望した事、孤独感に押し潰されて死んだ事。皆、それぞれが辛さや恐怖の中で戦い続けていたのだと言うことを知って更に涙が洪水の様に流れ出す。しばらく泣いた後、顔がパンパンに腫れて赤くなりながら、気まずそうに話しかけてきたヨウちゃんの方を見た。

「外に出ると隣棟があるんだけど、リオルさんって言う男の人かそこにいるから会いに行ってね。じゃあ、皆に祝福を。」

 彼女に笑いながら見送られ、外へ出る。教会の外は既に違う空間へと変化していてこの先の展開へと時間が進んでいた。

「強くなろう。しゃもじを殲滅できるように。もう、誰一人死なないように。」

 戦うのはしゃもじだけじゃない、あの双子だけじゃない。だから皆で使命を果たして、生きるために強くならなくちゃ。

「じゃあ、円陣でもする?」

 ネギの提案に笑いながら、肩を組み丸くなる。なんて言おうか色々悩みながらやっぱり楽しそうにしている皆が好きだなぁっと思う。

「じゃあ、頑張るぞでいこうか。シンプルだけど。」

 モチが笑ってそう提案した。皆で頷き、笑顔になる。

「これから頑張るぞー!」

「「「「オー!」」」」

 皆で地面を踏む。戦いへの恐怖、未来への不安を飲み込んで皆で楽しい日々を送れるように、生きれるように願って。

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