作戦会議と決行
(いや、その…ディアーヌのお父さんだってことはわかってるんだけど、あまりにも……)
「驚いたわ。使い魔って人間のように言語を使って思考しているのね」
(他の使い魔も同じかはわからないの、でもわたしは、そうね。)
この世界に召喚されて数週間。
誰とも会話できないというのは地味にストレスがたまっていたようで言葉のキャッチボールが出来ることがとても嬉しい。
前世でも入院生活が長くて友達も殆ど居なかったし会話に飢えていたのかもしれない。
(ねぇ、ディアーヌ。あなた今の自分の状況についてどう考えているの?)
ディアーナはわたしの突然の言葉にすこし考え込んだように目を伏せた後、穏やかな表情を浮かべゆっくりと口を開いた。
「そうね。継母や金髪双子のことは面倒に思ってはいるけど、どうにかしてやりたいっていう思いはないわ。ただ目立たず生きて、成人したら適当な理由を作って修道女にでもなろうと思ってるの。お父様は政略結婚の駒にと考えているでしょうし、これでも公爵家の長女だから、簡単にはいかないと思うけれども」
子供がたてたとは思えないような計画を饒舌に語るディアーヌは、その内容とは裏腹に心なしか楽しそうに見える。というか、ディアーヌって結構普通に話すんだね!?今まで相槌くらいしか声を聞いたことなかったし、びっくりだよ。
「あら、子供だなんて。あなたこそそんなに小さくて召喚してまだひと月もたっていないのに。」
…考え事をするのと、ディアーヌに向けて言葉を送るのって、同時にするのが結構難しい。
さすがに全部筒抜けは恥ずかしいし、練習が必要かもしれない。
(わたしはほら、その辺りは、人間じゃないからというか……)
「歯切れが悪いのね」
(ちょっとまさかの急展開にどこまで話すべきか迷ってるの!もう、これじゃあ考え事も出来ないし…とにかくすこし整理する時間を…わたしは絶対にディアーヌの味方だから)
羽をパタパタさせながら、何だかバツが悪くて言葉を濁し、そう言うと、ディアーヌはふふっと笑った。
「唯一多少、会話のあったお兄様が貴族院に行ってしまって、今の環境に置かれて、仕方ないとは思っても楽しい毎日ではなかったの。あなたがそばに居てくれるようになって、日々に色が付いたように感じていたの」
ディアーヌは表情を変えず、でもゆっくりと一言一言を噛み締めるように言葉をこぼした。
「だから、こんな風にお話し出来ることが夢のように嬉しいわ。あなたのこと、少しずつでいいから教えてちょうだい」
ぎこちない笑みを見せてくれたディアーヌに色々な感情がごちゃまぜになって胸がキュッと苦しくなった。
(わたしのことを知ってもらうのは勿論だけど、わたし、あなたと色々したいことがあるの)
わたしはディアーヌにここ数日自分がしていたこと、考えていたことを説明した。
「あなたが見当たらなくて、どこに行ったのかしらと思うことはたまにあったの。この屋敷には沢山の目があるのよ、一歩間違えば……あぁ、何かが起きる前に話すことができて良かったわ」
子供と思っていたディアーヌに嗜められて、情けなく思っていると
「まずはあなたと私が今より自由に動ける環境に身を置く必要があるわね」
(えっ?うん、そうだね。この屋敷で魔力の扱いを練習するのはさすがに継母に目をつけられてしまうだろうし、ディアーヌの動ける範囲が狭すぎるし…)
やっぱりこの子かしこい。
「行き来が面倒だし、成人直前にと思っていたから少し早いけどまぁ、大きな問題は無いと思うわ」
(??)
言葉の真意を測りかねていると、ディアーヌが悪戯っ子のような、年相応の表情でニッと笑った。笑顔がかわいい。そう思ったとき
「ギャアアアアアアアアアアアア!!!!」
ディアーヌが叫んだ。突然の展開にわたしがギョッとして動けずにいると、ディアーヌはベッドの横にあったランプや本をそこらじゅうに投げ、いつも本を読む時に使っている小さな椅子を壁に何度も何度もぶつけ、カーテンをハサミで切り裂き、また叫ぶ。
何事かと駆け寄った使用人達が引き裂かれたカーテンや投げ飛ばされた椅子を見て呆然と目を見開いていると、髪を振り乱したディアーヌは手に持ったハサミを投げ捨てて言った。
「お父様のところへ行くわ」