デラシネにチタンのペグを
今日の“しろかえで”は危険です!!
※ ペグとはテントの設営に使う巨大な釘のようなものです。
私はカレのスマホのロックを解除して、新しいカノジョとの会話をつぶさに見ていた。
カレは私に言った。
「今週末、ソロキャンへ行く」と
しかし、ソロと言うのは嘘で……
付き合い始めの頃に私を連れて行ったあの渓谷の……
シラネアオイが咲き乱れる秘密の場所へ
新しいカノジョを連れて行くつもりだ。
その“秘密の場所”に辿り着くには木材と蔓だけで作られた古い古い吊り橋を渡るしかなく、私は吊り橋を渡る間じゅう恐怖の余り、ずっとカレにしがみ付いていた。
その恐怖の後に夢のようなお花畑に遭遇し、お花畑にテントを張ってエアーマットを敷き詰め、野営した。
そして満天の星空の下での初めての逢瀬……
これはオンナをモノにする時のカレの『手口』だ!!
手に取るように分かるこの先の展開に私の胸は焼け焦げ、黒い煙をモクモクと吐き出した。
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その夜、夢を見た。
私はあの『危険な吊り橋』の前にノコギリを持って立っている。
そして吊り橋と岸を繋いでいる蔓にノコギリでゴリゴリと切れ目を入れ始める。
橋の向こう側からキャアキャアと耳障りなオンナの悲鳴が聞こえ、くぐもったカレの声がそれに被さる。
それらの声に私の怒りの炎は更に燃え上がる。
「もう少しだ!! あともう少しで蔓は切れ、二人を谷底へ落す事ができる!!」
焦げ付く胸と異様な高揚感で、いつしか私はけたたましく笑いながらバイオリンの弓の様にノコギリを弾き、歓喜の“踊り”に酔いしれている。
そこで目が覚めた。
残念ながらここはベッドの上で……
私に背を向けたカレは“義理”を果たした後の疲れで眠りこけている。
その脇で私は真っ暗な天井を見上げる。
先程の夢で味わった“高揚”の後の
限りない喪失感で
私の頬を
涙がスルリと伝う。
そうなんだ!!
憎むべきはオンナでは無い!!
オンナに罪があるならば!!
きっと私も同罪!!
こうやってオンナを渡り歩く……
コイツこそが罪!!
部屋の隅に目をやるとキャンプの準備途中のリュックが鎮座している。
そっと起き上がった私はネコの足取りでリュックを覗き、チタンペグとペグハンマーを取り出した。
私が抜けたベッドの上で……カレはノビノビと手足を伸ばし、その下半身を露わにしている。
「Ladies and Gentlemen!! ここにおりますのは一匹の害虫です!! 私はその“標本づくり”に孤軍奮闘いたす所存です!!」
こんな口上を心の中で述べながら
私はチタンペグの狙いを付け、ペグハンマーを振り下ろした。
書いていて、ペグハンマーを振り下ろした時に手に伝わる振動を感じてしまった私は自己嫌悪で……尼寺ならぬ押し入れに入ります(-_-;)
でも……
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