高校生VSウォーターサーバー営業担当 〜全ての人へ水の恵みを〜
「おい」
「ん? どうしたんだい?」
初っ端からこんなの見たら戸惑うに決まってるだろ。聞いてくれ、俺こと売木はごく普通の男子高校生なんだけど、いつものように熟睡して朝起きたら目の前にウォーターサーバーが勝手に設置されていたんだぞ。ありえねえだろ!?
昨日の晩にはこんなものなんて無かった。ということはだ、誰かが俺の寝ている間にこんなでっかいウォーターサーバーを持ってきやがったんだ! これしか考えられねえだろ。やべえだろ、こんなアホみてえなことが朝から起きているんだぞ。俺はどうすればいいんだって話だろ?
しかもなんちゅうデカさだよ、自販機かと思ったぞ。こんなドデカいウォーターサーバーが小さな6畳の部屋の中に設置されているんだぞ、無茶苦茶極まりねえだろっ!
次いでにその横に変な女が突っ立ってるし、何故だか知らねえが俺に向かって睨みをきかせてくるし、俺の頭は朝からすっちゃかめっちゃかだ。ようやくの休日でゆっくり米国ゲロッグ社のシリアル食品『コーンフロマイティ』を食べながら呑気に寛ごうと思っていたのに、今日は絶対無理だと思わず絶望しちまったぞ。
「誰だよ!」
目前の光景を数秒かけて理解して、ようやく放り出た言葉がコレだ。俺頑張っただろ? この言葉しか出ねえよ。誰だよコイツ。コイツだろ、俺の部屋で勝手にウォーターサーバーを設置した輩は。
黒髪ぱっつんショートヘアに上下黒色のスーツ姿の細身の女性だけど知らねえぞこんな奴。いつの間に忍び込んだんだよ。
「へぇ、私のこと気になるんだ」
俺の言葉を受けたスーツの女は口角を上げて不敵な笑みを浮かべてそんなことを言ってくる。な、なんだその表情、俺を挑発しているのか!?
そんなこと言われても気になるに決まってるだろ! こんなことをしてくる人間について気にならないワケねえよ。なんだよその不気味な薄ら笑いは、泥棒にしては随分と堂々としているし、俺はどう対処すればいいんだよ。
「俺の部屋にウォーターサーバーを設置したの絶対お前だろ! 何してるだよ、ここ俺の部屋だぞ!」
「まぁ、落ち着いて売木君。ほら、深呼吸深呼吸」
落ち着けるワケねえだろ。朝起きたら知らねえ人間が傍にいるんだぞ。そんな境遇に一度あってみろ、ホラーだぞホラー。目覚めてすぐメチャクソ背筋が凍ったぞ。ちょっと気温が暑くなった頃合だからといって気合入れすぎだろ。
それに深呼吸しろって言われたって無理だろこんな状況じゃ。お前がどっか行ってくれない限り俺は永遠に穏やかな呼吸に戻らねえよ。
「おい、まさかだけどお前…… ウォーターサーバーのセールスじゃねえのか?」
「おお、よく気づいたね、売木くん」
恐る恐る伺ってみると食い気味で返ってきた。なんでそんなに驚かれるんだよ、この光景を見てそれしか当てはまらねえよ。逆にそれ以外の奴だったらますます怪しいだろうが。
とまぁ、俺が変に的中させてしまった事に喜んでいるのか、目の前にいるセールスレディはパチパチとまばらな拍手を送ってくれることに。こんなに嬉しくない拍手は久々だぞ、まだシンバルモンキーの喝采を受けた方がテンション上がる。
そしてレディはくるりと踊るように一回転をした後、名刺を渡してきた。
「水虫商社の大水と言います。以後お見知り置きを」
「お前に以後なんてねえよ。とっとと帰ってくれ」
俺の脳内に知り置く容量も残ってねえよ。突然現れて、突然ウォーターサーバーを設置させられて、突然名刺渡されて。これが朝の6時ごろの出来事なんだぞ。現代日本においてなかなか遭遇しねえ事態じゃねえのか? 宝くじに当たるよりも確率低いだろこんなの。その不運っぷりに泣きそうにもなってくるぞ。
俺があしらい、退去を促すとレディは「いきなり冷たい対応ですね。まるで我が社の水のようにとても冷たい」と自社商品を絡ませて洒落込み始める事態に。
その冷たい水を売る人間のせいで、現に目の前でグッツグツに煮えたぎるような怒りを覚えてしまっている人がいることを忘れんじゃねーぞ! 俺の脳内では既に茹で卵が40個くらい出来上がっているんだからな!
「さてと、今日は売木くんにウォーターサーバー設置契約の案内に来ました」
「もう設置されてるじゃねーかよ!!」
俺の意向を無視して話を進め始めるレディを遮り、俺は無様にも設置されてしまったウォーターサーバーを指しながら手厳しく指摘する。かわいそうに俺の部屋、6畳と小さい部屋ながらもあんな自販機みたいなバカでかいウォーターサーバーを無理矢理設置されて…… ほんと可哀想。ていうか、一体どうやってこんなでっかいウォーターサーバーを設置したんだよ。窓からか? 設置手法に謎が多すぎて気になるところでもあるけど、とにかく場所食い過ぎだろこのサーバー。邪魔でしかねえよ。
「おや? ここにあるのが我が社のウォーターサーバーだなんてよく気づいたね売木くん。私はまだ何も言っていないのに」
「紐着く先がそれしかねえからだよ! これ、仕掛けだかサプライズだかの意味合いで設置したのなら大外れだぞ」
存在感ありすぎだろ。営業トリックとして用いる気だったのか知らねえが今更別物だとシラを切るのも無理がありすぎる。確実にアイツが持ってきた商品だろうが。そんなのチンパンジーでも判断がつくぞ。
にも関わらずこれを的中させてしまった事に対して、レディは白々しくも驚きの表情を浮かべながら「ほう、それなら話が早い」と顎に手を添えている。何を感心しているんだコイツ……
そんな勝手に話を早く進められたって困るぞ。次来るのが確実にセールスじゃねえか。それと分かっている中で次の段取りを踏ませてなるものか!
「言っておくが、俺は契約なんてしねえぞ。早くコイツを撤去してくれ」
「どうしてそんなことを言うんだい? まだ何も説明していないじゃないか」
「説明しても契約なんかしねえからだ」
「おや? この商品を目の前にしてそんなことを言ってしまうんだ。やるねえ、君」
あくまでマイペースと言った感じだな。過去いろんなセールスを相手にしてきたけど、自分のペースを崩さないセールスほど厄介な奴はいねえぞ。
しかも返しがかなり軽やかだ。俺の文句を受け流すように直様返している為かなりやりにくい。相当の手練れじゃねえのか、コイツ……?
お陰様で俺の言葉が詰まってしまう。その隙を見たレディが「さてと」と前置きを据え話始めた。
「我が社のウォーターサーバーの特徴といえばまず大容量であることが挙げられる!」
まるで劇団の役みたいに誇らしげに声を張り上げるレディ。演劇部でも所属していたのか知らねえが相当声が出ていて結構ビビる。
それにしても、特徴が大容量って……
「にしてもこれはデカすぎるだろーが!」
んなもん見た目ですぐ分かったぞ。個人向けじゃねえよこの大きさは。自販機のようなサイズで明らかに法人向けだろ、売る相手絶対間違ってるだろ。俺みたいなチビチビ飲む野郎向けじゃなくてたくさん汗をかく建設現場向けの商品だろ。
「一人で飲みきれねえよこの量は。俺をクラゲにする気か、そんなに水を蓄える体質じゃねえよ!」
「水分補給は大事だからねえ。これを気に見直したら?」
そりゃ夏になれば熱中症とかもあって水分補給は重視されるだろうけど、このウォーターサーバーはあまりにも過多すぎる。俺の部屋をサウナにしたってこんな量の水は消費しきれねえだろうな。
「それに水は飲むだけじゃない。汚れたものを洗ったり、打ち水として使って周りの温度を下げることもできる。水は多方面で活躍していると言うこと…… 君は忘れていないかい?」
飲むだけの水を売りに来てるんじゃねえのかよコイツは!? 逆にお前はそれを忘れてはいないかと俺はツッコミたいところだぞ。ウォーターサーバーってそういうもんじゃねえのかよ? なんで水道という技術が発達している現代社会の中でわざわざウォーターサーバー買ってその水で洗濯しねえといけねえんだよ。しかも打ち水ってなんだよ、俺の部屋をびしゃ濡れにする気か。やる奴いてもウォサバ買ってまでやんねえだろ。ジョウロで十分だ。
こんな強引な理論をかまされて俺はポカンだぞ。
「そして、冷たい水だけではなくて、温かいお湯も出る。便利だろう? カップラーメンもすぐ食べれるぞ」
「俺はシリアル食品しか食わねえよ」
なんかよく見たらいつの間にかコンセントがウォサバと繋がっているし…… 凄え電力食うだろ、こんなサイズのウォサバ。お湯もあんまり使わねえからメリット感じねえよ。冷たい水もコンビニ調達で十分だ。場所も電力も食うなんて悪いところしか見えねえぞ。
「なんと言っても綺麗な水がいつでも飲める! この上ないメリットじゃないか、売木くん。そうだろう?」
「そこは否めねえけど……」
ウォサバのメリットといえばいつでも綺麗で美味しい水が飲めるという点だ。そりゃそうだと共感しちゃえば相手の思うツボなので適当に流しておくが…… じゃあ、この俺が常時綺麗な水を溢れ出るほど所望しているかといえば全くそうじゃない。むしろ余りの邪魔さに鬱陶しくなるくらいだ。
全くもって購買意欲がそそられない俺に反して、向こうは商品の説明をしきったのかスッキリ満足といった感じだ。
「でも契約なんかしねえぞ。だって毎月金がかかるじゃねーか。俺みてえな高校生は持ち合わせなんてねえからな。毎月支払う余力なんてねえよ」
ここで現実を突きつけてやる。バイトでもしていない限り俺みたいな一般高校生ボーイにはウォサバの契約なんてそもそも無理だ。毎月水代を支払って常に財布が火の車じゃあまりにもやりきれねえだろ。水道代じゃねえんだぞ、ウォサバ代で困って路頭に迷う事になってしまったら、なんの為に生きているのか分からなくなりそうだ。
「お金なら大丈夫。ローンを組んだり、シェアするという手もあるじゃないか。例えば売木くんの友達と連帯契約すれば支払いも二分割! 全く問題ないね」
「問題しかねえぞ。そもそも俺はローン契約出来ねえし、シェアする友人なんていねえよ」
「あら、そうなの。寂しい子」
ある日高校の友人が突然「新しいウォーターサーバーの契約するから一緒に契約しない? もちろんお金も水も二分割で!」って誘ってきたら誰でもヒクに決まってるだろうが。やべえ友人としか解釈できねえよ。理屈云々そもそもそんなことやろうとする奴は距離置かれて当然だぞ。俺の人脈のせいじゃねえよ。
それにローンとかなんで金銭問題が発生したら債務を負わせようとするのかなコイツは。他の奴らにもおんなじ手法でセールスしていたら相当だぞ。全く問題ないって言い切っていたけど大丈夫かコイツ……売った後のアフターフォローなんて全然する気なんてねえんだろうな。
「でもウォサバ代未払いで差押えなんてサマにもならないからそれだけはよしてくれよ、売木くん」
うるせえよ! なんで俺がこんな惨めな視線を浴びなきゃならんのだ。ウォサバ代未払いで差押えを回避する為に契約しないという選択を取るんだろうが! この戦いは俺の最たるリスクヘッジなんだよ! そのあたり察することができるのであればとっとと目の前のウォサバ撤去して立ち去れや。
「お、君、茹で蛸見たいに顔が赤くなっているね。我が社のウォーターサーバーは残念ながら蛸を茹でるのは流石に厳しいかなあ」
俺の顔を見つめるやいなやそんなことを言ってくる。この件がすげえ腹立つんだよな。またこれによって俺は更にカニが茹で上がりそうな程俺のヒートが高まっていくことに。ついでにしゃぶしゃぶもできそうだぞ。
そんな怒りに震える俺を目の前のウォサバセールスは「まあ、冗談は置いておいて」と切り返して話を更に進めていくことに……
「毎日悪徳セールスに悩まされ金銭的にも厳しい局面を迎えている。どうせ売木くんはそうだろうと思って今日はスペシャルな話を持ってきた。喜んでくれたまえ売木くん」
そこまで俺の事情を分かってるなら契約の話を持ち込むなや……ていうか、その悪徳セールスが自分自身であることをアイツは自覚してるのか? いきなりウォーターサーバー設置で始まるだなんて過去類を見ないほどの悪道っぷりだぞ。出ていけと言っても出ていかねえし、悪徳セールスそのものだろ。
にしてもこのタイミングでスペシャルな話って言われたって嫌な予感しかしねえよ。怪しさしかねえよ。
怪訝な俺をよそにスーツを着込んだセールスレディは一緒に持ってきた鞄の中を探りながらある物を取り出した。何やらチラシらしきものであるが……
「丁度今、高校生向けのキャンペーンをやっていてね」
と言われたのでとりあえずチラシを眺め、大きく記載されたキャンペーンの内容を読んでみる。
『頑張る高校生へ向けて! ご契約されているお客様から別のお客様をご紹介していただくと1ヶ月分(5,000円相当)の料金が無料になります。(契約していただくことが条件になります)』
「は?」
思わず声が出てしまった。いわゆる紹介キャンペーンだ。例えば俺がウォサバ契約をしたとして、別の人にこの商品を紹介して契約に至ると俺の契約料金が1ヶ月分タダになるというキャンペーンだ。何をもってして俺に紹介したのかが謎すぎる。
「どうだ? 一応紹介相手が高校生のみという縛りがあるが、君にピッタリだろ?」
嘘だろ。紹介相手が高校生のみに縛られているなんて…… だから『頑張る高校生へ向けて!』とかワケ分かんないタイトルがついていたのか…… ありえねえだろ、ただでさえウォサバ契約の紹介という難しい内容なのに、更に対象が絞られているだなんて、こんなの不可能だろ。こんなキャンペーンをどや顔で紹介されたって困惑不可避だぞ。
本当に俺が喜ぶと思って案内したのか今一度尋問したいところだ。
しかも何をトチ狂ったのか、対象相手が高校生のみって対象範囲狭すぎな上にあまりにも難易度が高すぎる。さも青春の一ページみたいに爽やかな女性モデルを用いてそれらしくチラシを仕上げているけどさぁ。やってることウォーターサーバー契約の紹介だぞ。甲子園とかインターハイみたいな雰囲気を醸し出すなや。
なんでこんなキャンペーンを思い付いて実行したのか向こうの会社の営業推進部等に問いただしたいところだぞ。高校生という販路を広げたかったのか……? 明らかにマーケティングが間違っているとしか思えないのだけど……
「なんだこのふざけたキャンペーンは!?」
「ふざけている? そうかな? 1人であれば1ヶ月無料だけど、12人紹介すれば1年間タダで当社のウォーターサーバーを使えるんだぞ。これほどお得なことはないと思うんだけどなあ」
その相手が高校生のみなんだから苦しいんだろーが。俺が学校に行ってひたすらウォサバの営業をやれって言うのかよ。俺が1ヶ月5,000円の契約費用を避けるために全ての教室を回ってチラシ配って、毎朝朝礼ではクラスメイトにウォサバの案内して、生徒会へセールス企画を持ち込んで学園祭で採用してもらうよう頭を下げて、学校集会では毎度前に出て校長と一緒に商品をアピールするって話か? 考えるだけでも身の毛のよだつ話だぞ。俺の貴重な学園生活をウォサバセールスなんかに潰されてたまるか。
確かに理屈では12人紹介すれば1年間無料となるけれど、12人といっても相当だぞ。俺の学校のサッカー部レギュラー全員に契約してもらったって1人足りないんだぞ。そんな難しいことを淡々と述べるなや。
「無理だぞ、こんなクソみてえなキャンペーン持ち込みやがって何を言い出すかと思えば。こんなのに唆られるワケねーだろ」
改めて見てもとんでもねえキャンペーンだ。『頑張る高校生へ向けて!』とか舐め腐ったキャッチコピーも見れば見るほどに腹が立つ。若者を食い潰す企画にも程があるぞ。
「ふぅん。でも売木くんの力ならきっとできると……私は信じてるんだけどなあ。売木くんもさ、試してみない? 自分の可能性に」
「俺の力を過大評価しすぎだろ。己の可能性を試すにしてもウォーターサーバー営業では試さねえよ」
どこぞの小説よろしく、その分野では類稀なる能力を発揮したり覚醒したりするような展開か? 俺もそういう展開は嫌いじゃねえが、ウォサバ営業で覚醒する主人公なんて見たことねえよ。俺の覚醒を待ち望んでの発言かも知れねえが、残念ながらその手は食わない。
「そんなこと言っちゃうんだ。もしかしたら売木くんのセールスを待ち望んでいる美少女が学校にいるかも知れないのに?」
意味がわからねえよ。さながらラブコメの展開らしく俺の期待を煽りやがって。俺のセールスからラブコメが始まるワケねえだろ。始まるのはクーリングオフとかそういったトラブルであって、徐々に広がってあっという間にサスペンス物になっちまいそうだ。
「却下だ却下。こんなキャンペーンと甘い言葉に乗せられるほど俺はヤワじゃねえよ」
「あらら…… 売木くんみたいな高校生にはぴったりだと思ったのになあ」
「年齢しか合わねえだろ。無理だ無理だ、契約しねえからとっとと帰ってくれ」
俺が追い払うような仕草をするとレディはチラシを仕舞い「はぁ〜あ」と残念そうな声を漏らした。
「そこまで言われちゃ仕方ないなあ。私は大人しく引き下がるしかなさそうだね」
鞄を持ち上げてその場を去ろうとするが……
「おい、ちょっと待て! このバカデカいウォーターサーバーを撤去しろや!」
何故だがアイツ一人で部屋を出ようとするので俺は引き留める。その声を聞いたレディはくるりと振り返り「こんな重たいもの、私一人で運べるわけないじゃないか」とさも当たり前かのような声色で述べてくるが……
「いやいやいや、それお前が設置したんだろーが! そんなふざけた事が通じると思ってるのか!?」
そりゃこんなクソでっかいウォーターサーバー…… 俺とアイツ二人がかりで頑張ったって運べやしないぞ。そんなの見れば分かる話なのだが、置きっぱなしはありえねえだろ。
「ふむ…… そうだよね。どうしようかなぁ」
ウォーターサーバーの前にかがみこみ、首を傾げ始めるレディ。なんでそっちが首を傾げるんだよ! そっちが傾げるなら俺なんて首が3周ぐらい回るほど戸惑っているぞ。一体どういうことなんだ!?
「ええっ!? なんとかしろや、お前が持ってきたんじゃねえのかよ?」
「違うよ売木くん。これはちゃんとした設置業者が持ってきた物なの。だから私が取り付けたというわけじゃないのよ」
困惑を隠せない俺を前に、レディも同じく困ったような素振りを見せてしまうことに。
そ、そうなのか…… って納得するな俺!
「じゃあ、その業者を呼んで撤去してもらえや」
「うーん、そうしたいのもやまやまなんだけど、設置業者今日から2ヶ月くらいバカンスに行くみたいでさぁ…… 今いないんだよねぇ。困った困った」
「はーーあ??」
んな事あるのかよ!? バカンスじゃねえだろ、バカだろ設置業者。そんなことされたら撤去できねえじゃねえかっ! 2ヶ月間も待ってっていうのかよ!? こんな自販機と一緒に過ごせっていうのかよ。
「な、なんとかならねえのかよ!?」
「うーん、アマゾンの奥地へ探索するとか言っていたし当分無理だろうね〜。事前に設置業者から『2ヶ月間ぜっったい連絡が取れないから、何かあってもがんばってね。ちなみに具体的にどこへ行くかは内緒』って言われているしね〜」
「はーーあ??」
んな事が許されるのかよ!?
アマゾンの奥地なんて旅すんなや2ヶ月間も。せめて連絡が取れるハワイとかにしておけやバカンスなんだから。なんでこんなタイミングでバカンスに行くんだよ、百歩譲って行くにしても設置業者と営業担当の日程ぐらい足並みを揃えておけや。営業だけこっちやってきてチグハグじゃねーかよ!
そもそも長期休暇なんて近隣の大型ショッピングモール『ゐをん』に行くだけで十分楽しいだろ、変に気合い入れて未開の土地に足を踏み込もうとするなや。
「技術者誰もいねえのかよ!? 一人ぐらいいるだろ、留守番とか遅刻して飛行機間に合わなかった奴とかさあ!」
「いないよ〜、だって今事務所行ったって誰もいないんだからさあ」
「ええ!? ガチのマジでなんとかならねえのかよ!? なんとかなるだろ、ウォーターサーバーなんだから、他の設置業者呼んだりとかさあ」
「あ〜、ガチのマジで無理だね。ウチのサーバーめちゃくちゃ複雑な構成していてセキュリティも固いんだよ。だから提携している設置業者でしかどかせることができないことになっているんだ」
「はーーあ??」
なんでウォサバのクセにセキュリティだけは一丁前なんだよ。いらねえだろそんな機能。不便になるだけだろ。現に今でもめちゃくちゃ不便な思いをしているんだぞ。
それ程の技術力がいる業者なのに全員で2ヶ月間もバカンス行くなんて終わってるだろ! コンプライアンスどうなっているんだよ!?
しかもこのレディ、自社のウォサバを見つめながら「しかし一体、どうやってこんな小さな部屋に設置したんだろうね〜」と感心している始末だし、手に追えねえだろ。それは俺でも気になる話だぞ。
けれど、これ程大きなウォサバが通る窓もねえし、ここで組み立てたのか……? だとしたら撤去についてはより技術が必要な分解ルートしかねえってことなのか!? そう考えると設置業者必須じゃねえかよ。
「じゃあ、もしそのバカンスで全員生きて帰ってこれなかったら……」
「あ〜。それ考えてなかったね」
考えてくれよ!! 永遠とこのウォサバがここに取り残されてしまうことになるって話なんだろ!?
アマゾンの奥地なんて危険な場所に行くんだからそういう事も多少は懸念しろや。地球上に設置されているこの会社のウォサバが二度と撤去できなくなるんだぞ! 最悪の事態も考慮して分散体制でバカンスに行ってくれよ。一気に全員行くなんてとんでもねえことするなや……全滅したら一貫の終わりじゃねえかよ。
「おい、でも昨日まではその設置業者が来ていたんだろ!? そんなあり得ない話があるのかよ!?」
「そうだねえ……」
「冗談だと言ってくれよ! 死ぬまでこんなでっかいウォーターサーバーと一緒にいるなんて勘弁だぞ!」
「そうだよねえ……」
「本当になんとかならねえのかよ!? お前、曲がりなりにも営業担当だろ!?」
「そうなんだよねえ……」
俺の質問に対して立て続けに気の抜けた返事をするレディ。しかも徐々に表情が神妙へと移り変わり元気も無くなっているようにも感じた。
「お、おい、どうしたんだよ?」
そして急に口元を抑えて元気なく項垂れるレディ。体調が悪くなったのか分からないが俺が声をかけるとレディは俯きながらゆっくりと口を開いた。
「ごめん…… 売木くん。技術者が全員生還できなかった時のこと…… 考えていなかった。マジで……」
「はーーあ??」
本当に想定外だったのかよ!? さっき言った俺の発言から色々嫌なことを察して彼女も気分が悪くなったということなのか!?
それだったら尚更やべえだろ! もう取り返しの付かねえことになってるってことじゃねえか!!
全員飛行機に乗り込んで今頃未開のアマゾンの地を散策しているんだろ!? 何が起きてもおかしくねえぞ!
でも、目の前にいるセールスレディの様相を伺えばそんなことを言える状況でもなくなってきてしまったぞ……
「やばいやばい、どうしよう売木くん!! そんなこと起きたら本当に撤去できなくなっちゃう!!」
「ええっ!? そんなの俺に聞くなや! 俺だって知りたいぞ!!」
おいおいおいおい、冗談じゃねえぞ。俺とおんなじこと心配して突然パニクりだすなんて。そこをなんとかするのがお前の役目なんだろーが、俺みたいな新規開拓顧客に対して尋ねても答えなんて出る訳ねえだろ!
それに不安になるだろーがよ、一縷の望みであるお前がそんなに我を失って慌てられたらよ。完全に匙投げ状態だというのかよ!?
「マジでやばい! 本当にやばいよ売木くん!!」
「落ち着けや。なんでそんなリスク高い地へ赴かせるんだよ! 話はそっからじゃねえのか!?」
「本当にごめん! そう言う事全く気にしていなかったんだよお。設置業者がアマゾンへ行くって聞いてもあの時は『ふぅ〜ん』としか思わなかったんだって!!」
「本当に社内の誰一人としてこのバカンス企画に対し異を唱えなかったのかよ!?」
「だって2年前からバカンス旅行が企画されていたって聞いたんだよ!? みんな2年前からずっと楽しみにしていた中で止められるワケないじゃん!!」
「2年前に止めろや!! むしろ2年も期間があった中で誰もこのリスクに対して気づかなかったのかよ!? んでもう、全員旅立っているんだろ!? 下手すりゃ今頃全員あの世行きだってありえるんだぞ!」
「あの世行き!? やばいやばいやばいやばい……」
言葉を失い顔面蒼白のレディ。アマゾンなんて危険な野生動物が多数いるんだからやめておけって一言添えることが出来れば未来も違っていただろうに。後悔先に立たずということか……
「もうやっちまったことなんだから、仕方ねえぞ。こうなりゃ一人でも生還してくれることを祈るしかねえだろ」
「ああ〜! なんで私は……! こんなことになるなんて」
頭を抱えて天を仰ぐウォーターサーバーセールスレディ。ここまで頭を抱えている人間もあまり見たことがないけど、今はそれ程の出来事が起きてしまっているのだ。
「俺だってキツい立場だぞ。最低2ヶ月もウォーターサーバーの撤去できないということが判明しているんだからよぉ……」
「そうだよね…… はぁ。ごめんよ売木くん。柄にもなく慌ててしまって」
それでも二人一緒にため息を吐く始末。俺は2ヶ月の間業者の生還をドキドキ待ち望みながら過ごすというのかよ…… スリル満点すぎてキツいぜ。とばっちりにも程がある。
「とりあえず、撤去できないということは分かった。けど金は払わねーからな。勝手に設置されたものだし」
「それは分かったわ。ただし一応契約者にはIDカードが発行されるんだけど、それがなければ水が飲めないから当分はただの置き物だけど。しばらくの辛抱ね」
そんなIDカードがなきゃ利用できないウォサバなんて不便極まりねえだろ。わざわざ水を盗む奴がいるのかよ? まぁ、そんなところ俺には関係ねえからツッコまねえけど、妙なところに力を注いでいるよなこのウォサバ。
「はぁ、そんなのただの動かねえガラクタじゃねえか。こんなデカいガラクタと2ヶ月も一緒に暮らすなんて普通にヤだぞ……」
「じゃあ契約する?」
商魂逞しいレディだこと。絶対契約しねえけどな。まぁ、変にパニクられるよりかはマシか。
「勘弁してくれ。2ヶ月後必ず撤去だからな」
「いや、本当にごめんよ売木くん。まさかここまで契約を断られるなんて思ってもいなかったからさ」
契約を確信していたから先に俺の部屋に設置したのか? いや、いくら確信を得ていてもそこの順番だけは絶対に入れ替えちゃダメだろ……
「それじゃあ、また!」
そしてようやくレディが部屋を出てくれたけど…… どうするんだよコレ…… 本当に落ち着かねえよなあ……
頼むぞ設置業者…… なんとか生きて帰ってきてくれよ。
数日後……
「うぃっす、どうも。お、席ここでいいのか? よいしょっと。
いい雰囲気の店じゃねえか、綺麗だし、落ち着けるし、涼しいし…… 悪くねえな。
あ、そうそう。今日も奢ってくれるらしいじゃねえか。毎度毎度悪いねえ…… おぉ、メニューも中々揃っているじゃねえか。美味しそうなパフェが…… たくさん……あ、る、け、ど……やっぱり俺はこの『コーンフロマイティパフェ』にしようかなぁ〜 すんませ〜ん、注文たのんます!
あ、飲み物……? あぁ……水でいいや。
え? いつもはオレンジジュースなのに水でいいのかって? なんだろうなあ、俺最近水のクチなんだよね。味のついている液体を飲むとなんか受け付けなくてよぉ…… どうしてかは謎なんだけど、まぁ健康的な観点から言えば清涼飲料水よりかは水の方がいいから悪い傾向じゃねえだろ?
で、あのウォーターサーバーについての話が聞きたい……と。これまた変なことを聞くよなあ、お前は……
んだよ、あれちゃんと契約してるんだぞ。俺の部屋にあるバカでかいウォーターサーバーな。
その経緯について知りたいなんて…… あんまり思い出したくねえけど、お前に聞かれちゃ話さざるを得ねえよな。俺も奢ってもらってる身だしねえ……
ん〜 まぁ、とりあえず朝起きたら部屋の中に勝手にウォーターサーバーが設置されていたんだよ。
そうだろ? 信じられねえだろ? 目覚めたらいつの間にか置いてあるんだよ。出会いが衝撃的なんだけどこれが向こうのやり口らしいぜ。
まぁ、そこから変なセールスレディにウォーターサーバーを勧められたけど断っての繰り返しでさあ。それでもなんとか撃退できそうな流れを掴めていた中であることが発覚するんだよ。
そうそう、お前よく知ってるな。そうなんだよ、あのウォーターサーバー、撤去するのに設置業者の力がいるんだけど、その日そいつらが2ヶ月間の長期旅行に行きやがってさあ。
だろ? あり得ねえだろ? そのせいで2ヶ月間撤去不可能ということが分かったんだよ。
あぁ…… なんともならないんだって。とにかく複雑な機械構造とセキュリティで構築されているからそのバカンスに行った設置業者でしか絶対撤去できないらしいんだよ。そんな話あるかって最初は耳を疑ったんだけど、本当にそうらしくてさあ……ふざけるなって話だぞ。
だろ? そんな中でアイツらバカンス…… しかも2ヶ月間も行くんだからとんでもねえよな。しかもアマゾンの奥地を散策するんだとよ。
だから2ヶ月間は俺の部屋で勝手に設置されたウォーターサーバーが撤去できないと判明したものだから、ひとまず置くことになって…… とりあえずセールスには帰ってもらったんよ。
ん? その時は……まだ、契約してねえよ。だって勝手に置かれたウォーターサーバーなんだから契約したらおかしいじゃねえか。
え? ここまでは知ってたの? ええっ!? すげえな、お前。一体どこから聞いたんだよ、本当に…… 売木マニア語れるんじゃねえのか? 誰にも話したことねえぞ……
あ〜 じゃあ逆にここからの話は知らないのか? え!? むしろそこからの話が聞きたくて俺を呼んだって? ほ〜ん…… 物好きだよなぁ……まあいいけど。
レディが帰った後にさ、俺がフロマイティ食いながらゆっくりしていた時に突然ウォーターサーバーが発光しながら音楽を鳴らし始めたんだよ。
なぁ? びっくりするだろ? 唐突にピカピカ光りながら大音量で音楽が流れるんだよ。
んで、あまりにもびっくりして俺はあのセールスからもらった名刺を探して電話したんだよ。『急に光りながら音楽が鳴り始めたぞ!』ってあのセールスに言いつけたんだけど、それはどうやらあのウォーターサーバーの機能の一つらしくって……
うん、1時間ごとに発光しながら音楽が流れる愉快な機能が付いているんだとよ。鳩時計みたいな感じでさ……マジでどこの層に需要がある機能か知らねえけど、そんなのがついているらしくて。
さぁ? コミカルな自販機をイメージしたんじゃねえのか? 開発上層部が『音楽を鳴らしながらピカピカ光る楽しい機能を付ければきっと人気間違いない!』と判断して付けた機能らしくて…… 初めて聞いた時は怒りを通り越して呆れちまったぜ。どんな開発部だよ、バカしかいねえのかよって思いたくもなるぞ。
そうなんだよ…… 流れるんだよ、本当に1時間に一度発光しながら大きな音で音楽を鳴らしてさあ……
曲? 色々だぞ、『ハードロック』とか『ヘビィメタル』もありゃ『ジャズ』とか『クラシック』もあってさ…… それがランダムに流れるんだけど……
まぁ、きついよな。日中ならまだしも夜も絶え間なく流れるんだから俺はその日全く寝れなくてよ…… こんなのが永遠と続くのはたまったもんじゃねえから次の日の朝にアイツに電話したんだよ『うるせえからなんとかしろ』ってな感じで。
そしたらあの機能を停止するのには契約者用IDカードが必要らしくてさあ。
ダメダメ、コンセントなんて抜いたらセキュリティ機能が発揮されて、解除されるまで永遠に警報が鳴り続ける仕組みらしくてさ。それだけは絶対やるなって釘刺されているから引っこ抜くのは無理なんだよ。
そうなんだよ、その契約者用IDカードが無いと絶対停止できない機能なんだよ、その音楽のやつ。
当たり前だろ。そんなんで納得出来るワケねえから『こんなうるせえ機能なんてつけるなや』とか『なんとかして黙らせろ』とか『マスターカードそっち持ってるだろ!』とか言ったぞ。そしたら向こう結構困惑していたぞ『今まで水質に対しての苦情は受けた事はあったけど、愉快で楽しい音楽機能に対しての苦情は一回も無かった』ってな感じで…… あの機能を本当に楽しんでいる層がいるのかって思ったけど、すぐその場で対処できないから折り返し待ちになってよお。
んでしばらくした後、折り返しの電話で『ごめん売木くん。それ絶対契約しないと解除されない機能みたい』って謝られたんだよ。なんじゃそらって話なんだけど詳しく聞いてみると……
まず、マスターカードの利用は厳格な手続きが必要で役員まで稟議を回した後、株主総会の決議でしか使うことができないらしいんだとよ。つまり、俺の悶着ごときで臨時株主総会を開かないといけないらしく理論上は可能だけど事実上は不可能だとよ。どんだけ厳しい手続きなんだよって話だろ。
そんでもって、そいつを停止する為に必要な契約者IDカードは個々に発行されるらしく、偽造だけは絶対に出来ないんだってさ。契約書から一枚一枚紐つけされて出来上がるから虚偽の書類で発行しても無駄なんだとよ。架空契約なんてもってのほかで、会社の信用に関わるから絶対に出来ない、それならまだ頭下げて臨時株主総会をやった方がマシだってさ。
こんな内部体制がガッチリしている会社がバカンス程度で足を掬われるなんてみっともねえよな……
つまり、簡単に言えばだ…… 俺が契約しねえと絶対に音楽は鳴り止まねえんだよ。そんな状況に俺は追い込まれて……
いやいやいや、まだ抵抗したぞ。だって向こうの都合が大半じゃねえか。『絶対契約しねえ!!』って言い切ったぜ。
そしたら、電話で社長が出てきてよ! 俺も流石に驚いたぞ。なんで社長が出てくるんだよって思ったんだけど……
どうやらあのバカンスの件はあの会社においてかなりやばい事態みたいで、変に発覚してトラブルになってしまったあかつきには『役員の謝罪会見』が絶対に避けられない事案なんだってさ。だから社員全員が毎日毎日、俺以上に凍えるような思いをしながら設置業者の生還を待ち侘びていると説明されてよ。
いや……もう流石に強くは言えなかったぞ。だって最後には泣きつかれたもん。大の大人、しかも上場会社の社長が俺みてえな高校生に対して涙ながらに謝って『頼むから契約してくれ!』って懇願しているんだぞ。
そりゃそうだろ。設置業者が全滅したら撤去できねえんだから株価なんて暴落不可避だし、それに社長も会社員とその家族の生活を背負っているんだから必死そのものだろ。全身全霊で俺に詫びてきてさあ……
あれほど男気を感じたことなんて今まで無かったな。魂が震えるほどの勇ましさまで感じてしまったぞ。修羅場をくぐり抜けてきた男の背中を見たぞ、人間本気で謝るとああなるんだな、もう言葉に出来ねえよ。
なんというか……組織って大変だなって思った瞬間だったな……
そんでもって事情を全部聞いた俺はやむなく契約を結んだというワケなんだよ。
まぁ、出費はでけえけど2ヶ月間の辛抱だしな…… なんとかアイツらが生きて帰ってくることを祈るばかりだぜ。
そうはいっても悪いことばかりじゃねえぜ。案外水もうまかったし、家族からもそこそこ評判を得ているし……契約したからにはウォーターサーバーを自由に使わせてもらってるぜ。
ってな感じで俺の話はこんなもんだな。いつもより手短になっちまったけど、聞きたかった話は全部聞けたか?
お〜、そりゃよかった……
……ところで、お前って確か……俺と同じ学校に通う『高校生』だったよな?
あ、なんでもねえなんでもねえ。なんでもねえ……けど……
──いま、少しだけ時間いいか? いいよな、だってまだパフェ来てねえんだもんな。
いやいや、大した事じゃねえよ。でもお前って、俺のウォーターサーバーの話を聞きたくて今日俺を呼んだんだよな。それって……興味持ってくれたって事でいいよな……
いや、俺じゃなくてウォーターサーバーに……
いやさあ、結構あれ……いけるぜ。わりと便利だし、水もうめえし…… お前も使ってみねえか? なんてな、そんなことふと思って……
まぁ、ちょっとぐらいいいじゃねえか。もう少し俺の話に付き合ってくれよ。
──契約するかしねえかはお前に委ねるからさぁ、とりあえず俺の話を聞いてくれないか? 聞くだけなら損しねえぜ」




